第4話

▶第1話のシナリオ




■雪乃の部屋(壁に1月の女装しているレンレンのカレンダーやポスターが貼ってある)/夜


窓の外は雪が少し降っている。

ベッドに寝転び、ニヤニヤしながらスマホで動画アプリを起動する雪乃。


雪乃「さーて、今日のレンレンの動画は……え……?」


黒い背景に白字で活動を休止しますのサムネイルを見る。


雪乃「う、嘘でしょ!? そんな……まさか!!」


顔を引きつらせながら起き上がる雪乃。


雪乃「きっと釣りよ……釣りに決まってる! もう、レンレンったら」


茶髪に学生服の蓮が画面に映る。


蓮「突然の報告になり、申し訳ありません。サムネにもある通り、活動を休止します」


スマホを床に落とし、絶叫する雪乃。


雪乃「嘘でしょおおおおおおおおおおおおおお!?」


家の外が猛吹雪に。


<私、小泉雪乃は推しの急な活動休止宣言により、志望校に落ちました——>




◾️高校・体育館/入学式


アナウンス「新入生代表、小泉雪乃さん」

雪乃「はい……」


壇上へ上がる雪乃は元気がない。

同じ中学出身の生徒たちがざわつく。


男子生徒A「会長、なんか暗くない?」

男子生徒B「どうしたんだろな? って、もう会長じゃないだろ?」

女子生徒A「きっと、受験落ちたからでしょ?」

女子生徒B「卒業式も体調不良で出られなかったもんね……」



<そう、あの頃の私はもういない。レンレンが……新しい動画も、SNSの更新もやめてしまった今の私に————>



◾️高校・教室/ホームルーム


黒板に学級員:小泉雪乃と担任が書いて振り向く。


担任「それじゃぁ、雪乃さん学級委員長をお願いね」

雪乃「え……あぁ……はい」


<生徒会長だった頃の活力なんてない。学級員とかめんどくさい。でも、推薦拒否するのもめんどくさい……>


やる気なく黒板の前に行き、少し顔をあげて他の生徒を見る雪乃。


雪乃「えーと……それじゃあまず、しょ……」


一番前の席に座っている蓮と目が合い、動きを止める雪乃。


雪乃(ん? あれ? なんだろう? どこかで会ったことがあるような……メガネのフレームで見づらいけど、あの二つのホクロ……)


教壇の上にあった座席表を見る。

氷川蓮の名前を見つける。


雪乃(氷川蓮!!?)


首の後ろを掻く蓮。


雪乃(あの首の後ろを掻く癖! 間違いない……!!)


突然倒れる雪乃。

担任が駆け寄る。


担任「こ、小泉さん!? 大丈夫ですか!?」

雪乃(レンレンっ……!! 黒髪になってる!! 尊い……っ!!)


教師が雪乃の体を揺らす。


担任「えっ!? 冷たい……? 誰か、保健室に!!!」



<私はこの後、保健室で嬉しすぎて、笑いながら泣いた>




◾️雪子が運転する車の中


後部座席でにやけて笑っている雪乃。


雪乃「フフフ……フフフフ」

雪子「雪乃ちゃん、一体どうしたの?」(倒れたっていうから迎えにきたのに……朝より元気そうだけど)

雪乃「ママ、レンレンがね!」

雪子「レンレン? あぁ、雪乃ちゃんが大好きだったあの女装が似合う男の子ね!! 活動休止したって言ってなかった? まさか、復帰したの?」


雪乃は大きく首を左右に振る。


雪乃「違うの!! いたのよ……!! 同じクラスに!!」

雪子「えっ!?」


雪子は驚いてブレーキを踏む。


雪子「どういうこと? レンレンって、確か内地の子よね? どうして北海道に!?」

雪乃「それは知らないけど……あ、でも、北海道に親戚がいるって、動画で言ってた…………って、問題はそこじゃないのよ。髪色が変わってたの…………黒髪よ? あのレンレンが黒髪になってるの!!」

雪子(そこなの!? まったく、この子は————)


興奮している雪乃を見て、ため息をつく雪子。


雪子「雪乃ちゃん……迷惑なファンにだけは、ならないでね」

雪乃「……え?」

雪子「いくら同じクラスにいるとしても、絶対に、放課後に尾行して家を特定したり、勝手に写真撮ったりしたらダメよ? いくら未成年でも、ストーカーは犯罪だからね? もし警察のお世話になんてなるようなことがあれば……わかってるわね?」

雪乃「……もう、何言ってるのママったら! 私をそこらのファンと一緒にしないでくれる? しないわよ!」


笑ってごまかす雪乃。


雪乃(ママすごい……どうしてわかったんだろう?)

雪子「このまま普通の人間として生きていきたいなら、犯罪なんて絶対にダメよ?」


<それはママからの忠告というより、警告>


雪乃「わかってるってば!! 普通に、ただのクラスメイトとして接する分には、問題ないでしょ?」


<もしも、私が普通の人間じゃないことがバレてしまったら、別の土地へ引っ越さなければならなくなる。下手な真似はできない>


車の窓の外を見る雪乃。


<どうして、私は普通の家に生まれることができなかったんだろう————半妖ってだけで、なんの能力もないのに>



◾️書店/新刊コーナー


<クラスに推しがいるのは本当にすごい奇跡だし、本当はすぐにでも話しかけたかった>

<でも、レンレンは自分の正体を知られたくないみたいだし、普通のクラスメイトとして接しようと、ずっと我慢してたの>


雪乃(入荷したかなー?)


<活動休止中の推しを、拝めるだけでもいいじゃない! そう思っていたんだけど……>


雪乃(あった!)


一冊しかないコミックスに手を伸ばす雪乃。

同時に反対側から、蓮の手が伸びて、手が触れる。


雪乃「あ……」

蓮「小泉さん?」

雪乃「れ……っ、氷川くん?」



<桜が開花した5月の連休、初めて言葉を交わしてしまった>




◾️書店の前/昼


店から出る二人。


蓮「本当に1冊しかないなんて……本当に俺が買っちゃってよかったの?」

雪乃「い、いいの! ジャンケンで勝ったのは氷川くんだし」(レンレンとじゃんけんしてしまった……)

蓮「でも次の入荷一週間先だよ? 小泉さん、先に読む?」

雪乃「え、でも、それじゃあ、返すの遅くなるよ?」

蓮「あ……そうか、今日からゴールデンウイークだったね。読むの、早い方?」

雪乃「うん……まぁそうね」

蓮「それじゃぁさ————ウチ来る?」

雪乃「えっ?」


明らかに動揺する雪乃。


雪乃(も、もしかして、私がレンレンのファンだって気づかれた?)


蓮「嫌だったら別に、いいんだけど……。この漫画読んでる人にリアルであったの初めてだからさ……なんかその——」


小さく咳をしてから

蓮「————嬉しくて」


照れくさそうに、首の後ろを掻く蓮。


雪乃(そうだ、私、この漫画のコスプレしてるレンレンを見てファンになったんだ)


蓮のコスプレ姿を思い出す雪乃。


雪乃(……何よその表情……可愛い……尊い————好き)


とびきりの笑顔で


雪乃「————行く!! 私も、この漫画大好きなの! だから、嬉しい!!」


好きなゲームや漫画の話で盛り上がりながら、桜の木が生えている道を歩いていく二人。




◾️祓い屋道場前(大きな和風の建物)


蓮「ここだよ」

雪乃「え? お寺?」(へへ……レンレンの家まで来てしまった)

蓮「お寺っていうか、道場なんだよね……」

雪乃「道場? なんの?」

蓮「…………うーん、そうだなぁ」



雪乃(そういえば、レンレンは家業を継ぐために活動休止したんだった……家業って、この道場のことなのかな? 剣道とか? 柔道とかかな?)


気まずそうな蓮。

ニコニコ笑顔で能天気な雪乃。


蓮「祓い屋って、知ってる?」


雪乃、笑顔のまま止まる。


雪乃「え?」

蓮「悪霊とか妖怪とか、退治する仕事なんだけど…………」

雪乃「……え?」


笑顔が引きつる雪乃。

その表情をみて、焦る蓮。


蓮「あ、やっぱり信じられないよね!? 妖怪なんて、現実にいるわけないし!! 今のなし、忘れて!」

雪乃(ハライヤってなんだっけ? なんだかものすごく、嫌なものだった気がする…………絶対に関わっちゃいけないものだった気がする…………)



《回想》


幼い日の雪乃と雪子


雪子「雪乃ちゃん、もしもママのいないところで、祓い屋に出会ったら、絶対に逃げなさい」

雪乃「え? どーして?」

雪子「今は普通の人間でも、何が起きるかわからないわ。あなたは、半妖の子供なんだから」


《回想終わり》



蓮「ごめん、普通に引くよね? こんな話……」

雪乃(私、レンレンから逃げなきゃならないの!? ど、どうしよう……でも、あれ? 祓い屋ってもっとなんかこう、命の危機を感じるような……そういうものだった気がするんだけど……どうしよう)



坂崎「すみません、こちら祓い屋さんで間違いないでしょうか?」


雪乃が振り返ると、赤ん坊を抱いた上品そうな中年女性・坂崎が立っている。


坂崎「お祓いをお願いしたいのですが…………この顔の痣、何か取り憑いているとしか思えないと、知り合いのお医者様に言われまして」


赤ん坊の顔には、まだらな赤いアザ。

赤ん坊はゆっくりと雪乃たちの方を向きニヤリと怪しく笑った。

笑いながら、顔がぐるりと半回転して、頭と顎が入れ替わる。


雪乃(えっ!? 何これ、気持ち悪い! ヤバいの取り憑いてない!?)


蓮「可愛い赤ちゃんですねぇ……でも、確かに、不思議な痣が」

雪乃「いや、れ…………氷川くん? アザより回転してる方が————」

蓮「……回転??? なんのこと??」


首をかしげる蓮。


雪乃(あ、あれ?)


赤ん坊の顔がぐるぐる回転する。

蓮はその動きが見えていなくて、無反応。


雪乃(もしかして…………この動き、見えてるの私だけ!?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祓い屋見習いと半妖の雪女(コミック原作版) 星来 香文子 @eru_melon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ