第20話「私たちの物語は、ここから始まるのね」

 アカデミー・ルミエールの大講堂は、卒業式の賑わいに包まれていた。天井から吊るされた無数の水晶が、虹色の光を放ち、華やかな雰囲気を醸し出している。エロイーズとルシアンは、晴れやかな表情で壇上に立っていた。


「エロイーズ・ラルーン、ルシアン・トネール。二人は、アカデミー・ルミエールの歴史に残る優秀な生徒として、ここに卒業を認定します」


 プロフェッサー・アメリー・ルーンクラフトの声が、講堂に響き渡る。拍手が沸き起こる中、エロイーズとルシアンは深々と頭を下げた。


 式が終わり、二人は中庭に出た。春の陽光が、二人を優しく包み込む。


「ついに卒業したわね」


 エロイーズの声には、感慨深さと少しの寂しさが混じっていた。彼女の金髪が、風に揺られて輝いている。


「ああ、長かったようで、あっという間だったな」


 ルシアンは、エロイーズの手を優しく握った。彼の琥珀色の瞳には、未来への期待が輝いていた。


 その時、クロエが駆け寄ってきた。


「エロイーズ、ルシアン! おめでとう!」


 クロエの周りには、いつもの薄い霧が漂っている。彼女の笑顔には、友人たちの幸せを心から喜ぶ気持ちが溢れていた。


「クロエ、ありがとう。あなたがいなかったら、私たち、ここまで来られなかったわ」


 エロイーズの言葉に、クロエは照れくさそうに首を振った。


「そんなことないわ。二人の勇気が、全てを変えたのよ」


 三人は、互いを見つめ合って笑った。その瞬間、空から一枚の花びらが舞い落ちてきた。ルシアンが、それをそっと掌で受け止める。


「ねえ、これって……」


 ルシアンの言葉に、エロイーズとクロエが身を乗り出した。その花びらは、彼らが見たこともない、美しい光沢を放つ花びらだった。


「まさか、伝説の」


 クロエの言葉を遮るように、セレスト・エトワールが現れた。彼女の周りには、星々の光が渦巻いている。


「その通りよ。それは『運命の花』の花びら。二つの星の交わりが生み出した、奇跡の花」


 セレストの言葉に、三人は息を呑んだ。


「二つの星って……まさか」


 エロイーズの言葉を、セレストは優しく頷いて肯定した。


「そう、あなたたち二人のことよ。エロイーズとルシアン、あなたたちの出会いと愛が、この世界に新たな奇跡をもたらしたの」


 セレストの言葉に、エロイーズとルシアンは顔を見合わせた。二人の目に、喜びの涙が浮かぶ。


 その時エロイーズは突然、体に異変を感じた。


「あれ……?」


 ルシアンが心配そうに声をかける。


「どうしたの?」

「私の体が……暖かくなっているの」


 エロイーズは驚きの表情を浮かべた。


「まるで、体の中で何かが溶けていくような...」


 セレストが静かに説明を始めた。


「それは、あなたにかけられていた呪いが解けていく感覚よ。エロイーズ、あなたの父が施した魔法は、本当の愛を見つけることで解けるようになっていたの」

エロイーズの目に涙が浮かんだ。


「父は……最初からこれを望んでいたの?」


 セレストは優しく微笑んだ。


「そう。あなたが強くなり、真の愛を見つけることが、呪いを解く鍵だったのよ」


 ルシアンはエロイーズを抱きしめた。


「君の父さんは、最初から君を信じていたんだね」


 エロイーズは涙を拭いながら頷いた。


「ええ、そうみたいね」


 ルシアンはそれを優しい目で見つめている。


「実は僕も……」


 ルシアンは、そう言うとポケットから一通の手紙を取り出した。


「昨日これが届いたんだ」


 エロイーズは興味深そうに覗き込む。


「何の手紙?」


「フルガルからだ」


 ルシアンは深呼吸をして続けた。


「エーテリアでの私の活動が評価されて、両国の和平交渉が進展したらしい」


 クロエが驚きの声を上げる。


「本当? それはすごいわ! 具体的にどんな活動をしたの?」


 ルシアンは少し照れくさそうに口をひらいた。


「まず、アカデミーでの学びを生かして、エーテリアとフルガルの魔法の違いを分析したんだ。両国の魔法システムの比較研究を行い、それぞれの長所を活かした新しい魔法理論を提案したんだ」


 エロイーズが感心した様子で聞き入る。


「そうだったのね。あなたがいつも図書館で勉強していたのは、そのためだったのか」


 ルシアンは頷いて続けた。


「それに加えて、アカデミーの交流イベントを企画したんだ。フルガルの学生たちをエーテリアに招いて、共同で魔法プロジェクトを行う機会を作ったんだ。これが両国の若い魔法使いたちの相互理解を深めるきっかけになったみたいだ」


 クロエが思い出したように言った。


「あぁ、あの『魔法文化祭』のことね! 確かに、あれは大成功だったわ」

「そう、それ」


 ルシアンは嬉しそうに続けた。


「それから、エーテリアの先進的な魔法技術をフルガルに紹介する一方で、フルガルの伝統的な魔法をエーテリアに伝える活動も行ったんだ。この文化交流が、両国の相互理解を深める大きな要因になったらしい」


 エロイーズはルシアンの手を握った。


 「あなた、本当によく頑張ったのね」


 ルシアンは照れくさそうに頭を掻いた。


「まあ、僕一人の力じゃない。エロイーズや、みんなの協力があってこその結果だよ。特に、エロイーズとの出会いが、僕に新しい視点を与えてくれた。異なる文化や背景を持つ者同士が理解し合える可能性を、身をもって体験できたからね」


 エロイーズは優しく微笑んだ。


「私たちの絆が、国同士の絆にもなったのね」


 セレストが付け加えた。


「そう、あなたたち二人の愛が、世界に波紋を広げているのよ。個人の成長と、それが社会にもたらす変化。まさに、魔法使いとしての理想的な姿勢ね」


 ルシアンとエロイーズは互いを見つめ、誇らしげな表情を浮かべた。彼らの努力が、単に個人的な成長だけでなく、国家間の関係改善にまで及んだことを実感したのだった。


「私たちの物語は、ここから始まるのね」


 エロイーズの言葉に、ルシアンは強く頷いた。


「ああ、これからも一緒に、新しい冒険を続けていこう」


 二人が手を取り合った瞬間、運命の花の花びらが光り輝いた。その光は、瞬く間に中庭全体に広がり、そこにいる全ての人々を包み込んだ。


 アカデミー・ルミエールの塔の頂では、二つの星が寄り添うように輝いている。それは、エロイーズとルシアンの新たな物語の始まりを祝福しているかのようだった。


 風と雷の精霊たちが、花びらと共に舞い踊る。クロエの霧が、その光景を優しく包み込む。セレストの星々が、祝福の光を降り注ぐ。


 エロイーズとルシアンは、互いを見つめ合い、そっと唇を重ねた。二人の愛は、どんな姿でも、どんな困難でも変わることはない。それは、この世界に新たな奇跡をもたらす、永遠の絆なのだ。


 こうして、エロイーズとルシアンの物語は幕を閉じた。しかし、これは終わりではない。二人の新たな冒険は、ここから始まるのだ。


               --- Fin ---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男装王女と女装王子の秘密の恋 〜魔法学園で紡ぐ運命の絆、あるいは風と雷のシンフォニア〜(約42,000字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ