絶食男子を攻略せよ!

桔梗 浬

○○男子にご用心!

 世の中にはたくさんの人がいて、当たり前のように誰かを想い、愛し、悩み、涙し、そして笑って生きている。

 そしてある程度歳を重ねると「人生のパートナー探し」が始まったりするのだ。


 ……私はいつも乗り遅れるけど。


 だって、私の周りにはあまりにも変な人が多くて、そんな胡散臭い事が自分の身に起きるだなんて、面倒なことこの上ない! と思っていた。


 ま、私の恋愛論や恋愛事情は置いといて……。


 かつての私は、お見合いおばさんバリに男女交流会、異文化交流で他人のお世話に奮闘していた。所詮他人事、他人の恋愛話には興味があったからだ。なんて性格が悪いのでしょ。ふふ。

 だから、人見知りでマメとは言えない私が、瞬発力だけでお世話を焼いていたのである。


 その中で出会った希少男子が彼だ。彼は『草食』を通り越して何も食べない『絶食』を極める男子だ。転職して初めて知った『絶食男子』の生態は、失礼かもしれないがとても興味深いものだった。


 彼はライターという職業で、女子の多いい職場の中でうまく溶け込んでいた。私たちは同世代、チームを組んで仕事をしていたのだ。彼は物腰が低く穏やかな口調、本を読むのが大好きで、人と交流するより本を読んでいる方が好きだと言わんばかりの空気をいつも醸し出していた。


 よく女子会に参加できちゃう、女子力の高い男子を『草食男子』と言ったものだけれど、だいたいそういう男子は羊の皮を被った狼だったりする。従順な狼? とでも言うのかな。来るもの拒まず「がるぅぅぅ」っていう感じで、美味しくいただいちゃうのだ。そういう男子に惚れると女子は苦労する。だって誰にでも優しくて従順だから、相手の女子が誤解してこじれる事が多いい(浬の恋愛統計学より)。


 ふぅ~困ったモノだ。だがしかし! 我らの絶食男子くん、全くもってそんな気配がない。まるで空気のように溶け込んで、あわよくば「僕の事は気にしないで」と気配を消す術を心得ている。

 でも、絶対君にベストマッチングな女子がいる! 私はその女子を知っている! そんなお節介ばぁ~さんよろしく、私は彼に接近。何としても好みのタイプを聞き出そう、とヒーロースイッチを点灯させた(力を入れるところを確実に間違っている (汗))。


 そんなことがありつつも、まぁまぁ私たちは上手くやれていた……と、思う。仕事の仲間としてという意味で。彼はいつも自信なさげに話す。背が高く、髪はボサボサ。前髪も長く前が見えているのかも心配になる。ただのコミュ障かと思いきや、書く文章は優しさに溢れ、統一表記など間違えた事等私の知る限りない。むしろ優しすぎて、パンチのあるキャンペーンのキャッチコピーに苦労していたくらいだ。私は安心して仕事ができる仲間として、やはり彼に「幸せになって欲しい」と思っていた。


 そんな彼は年上の女子に可愛いがられる。少ない男性陣とも上手くやっているようだ。


 ある日男性陣が某レストランにランチに行くという。『オラオラ男子』『草食男子』『絶食男子』の3名だ。後から聞いた話だが、そのお店は店員さんが超ミニスカで胸元を強調したメイドさん風のユニフォームで料理をサーブしてくれるらしい。絶食男子の彼は何事も無かったようにしれっとしたものだった。


 「どうだった?」の私の質問に、オラオラくんは興奮気味で店内と女子の話を教えてくれた。わざとフォークを落として拾ってもらった、なんて武勇伝付きだ。草食くんは、「女子が行くとこじゃないね」と冷静に我々目線の回答をくれた。一方、絶食くんはというと……、まるで何があったかも我関せず「飯、普通だった」とボソッっと答えたのである。


 人を分類するのはどうかとも思うけど、やっぱり違いは明白だった。


 私は何人かの友人を彼に引き合わせてみたものの、彼が動く事は一度もなかった。ま、私の知らんとこで友人と何かがあったのであれば別だけど。

 そんなある日、彼はボソッと私に言った言葉がある。それは私の考え方を改めるきっかけとなった言葉だ。


「僕は全く異性に興味がない。今までもこれからも」


 それって……同性がいいってことか!? ぱーぷりんな私は邪推した。そんな私の顔を見て彼はこう続けたのだ。


「変な想像はしないで。僕はただ静かに心穏やかにいたいんだ。もう僕の事は構わないで」


 いつか言おうと思っていたらしい。ただ優しさゆえに言えなかったのか、私が怖かったのか……今となってはわからない。今なら確実にハラスメントで訴えられる案件だ。


 お節介はほどほどにしよう! と心に決めた瞬間だ。人はきっと不思議な縁で繋がっている。それに私のようなものが面白半分で縁結びをしようとしても、なかなか上手くいかない。

 それでも『人生のパートナー』を探す友人たちに協力したいと思わずにはいられない……。


 「幸せ」は、人それぞれなのだ。改めてそう思う。


 えっ!? 私?

 ご興味いただけるのであれば、それはまたどこかで。



END

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