実は私、病気で読字困難です。

真衣 優夢

本当に怖い話

 実は私、文字がうまく読めません。


 じゃあ、今、どうやって書いているのかって?

 訓練したんです。

 繰り返し繰り返し、読めない文字を、どうにかこうにか読みつづけたんです。

 スマホで訓練したので、横書きのスマホはある程度まで読めるようになりました。

 しかし、紙媒体は読めません。本を開くことも困難です。

 縦書きの表記は、スマホであってもほぼ読めません。



 どうしてこうなったかって?

 うつ病です。

 正確には、うつ病の後遺症です。


 こころの病について、世間はまだまだ、正しく理解が浸透していません。

 医学的にも、まだ病名が微妙なものもたくさんあります。

 見えなくて形がなくて、精神を蝕む病。

 健康な人には想像がつかない、地獄の苦しみです。


 うつ病とは、どういうものでしょうか。

 実は症状も千差万別です。

 ひとくくりに、うつ病、って言っちゃうの、強引だと思います。

 それでも、今はそうとしか言えないのです。

 細かに分類されはじめていますが、どこにも当てはまらないうつ病の人は、山ほどいます。


 ここで怖い話。

 あなたは、執筆を異常に頑張りすぎていませんか?

 私生活も仕事もなにもかも、全部頑張っていませんか?

 うつ病は、頑張りすぎる人がかかりやすい病です。

 完璧を目指して頑張りすぎて、病気になってしまう、それがうつ病です。

 しかも、初期には自分でも理解できません。

 おかしいな、なにか変だな、と思いながら、己が壊れるまで頑張ってしまいます。


 うつ病は、いろんな症状があります。

 その中で、作家殺しの症状をいくつか上げてみましょう。


 集中力の低下。

 やる気が出ない、という程度の自覚症状の場合もあります。

 なにかをしようとしても数分も続かず、呆然とする重度もあります。

 集中力が低下すると、行動の質が落ちます。

 つまり、文章の質ががた落ちします。


 興味の低下。

 本来好きだったこと、やりたかったことから、急速に興味がうすれます。

 興味という、楽しさを司る部分がうまく働かなくなります。

 好きだったことが、急にできなくなったり、どうでもよくなったりします。

 おかしい、と感じて無理に手をつけても、うまくいきません。

 なぜってこれは、病気の症状だから。

 風邪で熱が出るのと同様に、吹き出してくる症状だから。


 思考力の低下。

 頭が回らなくなります。

 ぼーっとしたり、ええと、なんだっけ、と思ったり、雑念でぐちゃぐちゃになったりします。

 この状態では、芸術的な文字など、書けるはずもありません。

 書けないと気づいた時のショックはすさまじいです。


 読字困難、という私の症状は、けっこう重度といえます。

 日常生活に影響するからです。

 縦書きの文字があると、何度も目が滑って読み込めず、時間をかけて読みます。

 かなりきついです。


 私は本が大好きで、山盛りに本を積んでは読んでいくのが好きでした。

 それが、ある日、気がつくと読めなくなっています。

 どんなに興味をそそられる本でも、3ページも読むと、次回、続きを読めるかどうかは神のみぞ知る、です。

 自力ではどうにもなりません。


 私は執筆も大好きでしたが、一時期、離れていました。

 書ける余裕がなかったこと、興味を失ったこと、病気やいろいろが重なったこと。


 そんな私が、再び書き始めたのは、意味があります。

 書くという行為は、自分にとって自己価値そのものだったと気づいたこと。

 そして、自分の書いた文章は一度脳で整頓されて出てくるので、世界で唯一、すらすら読める文章だということです。


 自分で書いたものしか読めない世界。

 なんと狭くて、なんと恐ろしいのでしょう。

 それでも私は、自分で書いたものなら読める、というところまでリハビリで回復し、過去作品を読めたときは涙しました。


 うつ病は、作家殺しです。

 軽度でも絶対に侮らないでください。

 作家として大切なものが、ぼろり、ぼろりと崩れて、壊れてゆくのです。


 私は、他の方の作品を、ほぼジャンル問わず、読むのが好きでした。

 一気に読んでは読後感に浸っていたものです。

 もう、今は、できません。


 数行、あるいは一話、うまく行けば二話。

 深呼吸をし、何度も読んで、なぞるように文字を追います。

 もどかしく、苦しく、つらいです。

 読むことを放棄したくなるときもあります。


 でもここで放棄したら、私は一生、読めないでしょう。

 病床で、スマホの文字と向き合い続けた時間が、私に横書きの世界を取り戻してくれたように。

 繰り返し、繰り返し、訓練していくしかないのです。


 できれば訓練の過程は楽しくありたい。

 過度にこころに負担をかけず、リラックスしつつ。

 無理をしたからこうなってしまったので、無理はしないように、休憩を何度も挟んで。


 どうか、頑張り屋さんのあなた。

 うつ病っぽさを感じたら、すぐ受診するか、周囲に相談してください。

 文字がひとつも読めなくなった瞬間の私は、絶望しかありませんでした。

 泣きながら訓練するようなことが、私以外に、あってほしくない。


 私は、自分の文章は、お世辞にもうまくありません。

 それでも書きます。

 私が唯一すらすら読める文章をつくるために。


 そして私は皆様の作品を覗きにいきます。

 数行しか読めないかもしれません。面白いとかそうでないとかがわかる前に、読み込める量の限界が来てしまうことがあるからです。


 少しずつ。亀よりも遅く。

 治るかどうかわからない病と、一緒に歩いていくために。

 あなたのもとへ訪れ、あなたの作品に目を通そうとするでしょう。


 読み合いに憧れます。

 かつて私は得意でした。

 いつか未来に、すらすら読めるようになって、他の方の作品を楽しめるようになれると信じています。

 今は訓練のみです。


 私の症状は、うつ病の後遺症によるものです。

 生来のものではありません。

 誰もに起こりうるかもしれなことなのです。


 頑張りすぎないこと。

 休憩をはさむこと。

 自分をいたわること。

 これを、どうか忘れずに。


 あなたが、これからも文字とともに生きていけるように。

 どうか、絶望など味わわないままに、一生をお過ごしください。


 読めない作家ほど、哀れなものはありません。

 インプットができなければ、廃れてゆくばかり。


 私は底辺を這いずって、書きましょう。

 地獄を知ったからこそ、歌える文字を書きましょう。


 お大事になさってくださいね。

 本当に本当に、無理はしないでくださいね。

 蓄積疲労が、一番怖いですよ。




   優夢 より

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実は私、病気で読字困難です。 真衣 優夢 @yurayurahituji

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