酒の肴になる恋を

電さん

プロローグ 宮蔵彩華はクズである

 俺は藤ヶ谷涼。社会学部の大学一年生だ。サブカルチャーの地域貢献を主に研究している。


 今日、俺が受ける講義は午前中だけで終わった。俺は体を伸ばしながらキャンパス内を歩いていた。足は食道へと向けている。今日は何を食べようかなと考えながら心地よい九月の日差しに当たっていた。

 

 そんな時に肩をちょいちょい叩かれたのだ。


「どした? 彩華、眠そうな顔してるぞ?」


 あくびをしているこいつは宮蔵彩華。二年生の先輩で俺の彼女である。学部は同じく社会学部。専門は教育と福祉の社会制度だ。165cmとそこそこな身長があり髪は金色に染めている。

酒好きでサボり癖がありタバコも好きと言う屑っぷりである。本当にこいつの専門が教育と福祉なのかと疑いたくなる。何でそんな奴が彼女なのかは見てたらわかる。


「後輩〜おはよー。すっかり空気も冷えて寒いんだけど学校来る必要ある?」


「来てから言うだけまだ良いが………午前の授業は?」


俺がそう聞くと絢香は不思議そうな顔をして単純に呟いた。すまん、見ても分からんかも知れん。


「ん? サボったよ。さっき起きたばっかだし」


俺は呆れて顔を手で押さえた。確か彩華の授業は午前中に集中していたはずだ。それならば多くの単位が取れるのも午前。まだ午後をサボるのは分かるが午前をサボるとは……


「じゃあ、何で学校に?」


「ご飯安い。あとは君に会いに来た。それだけ、午後は授業無いし」


尚更、午前に来いよとツッコミを入れたくなった。嬉しい様で嬉しく無い発言に俺は苦笑を浮かべる。そんな事も気にせずに彩華は俺の手を取って食道方面へとグイグイ引いた。どうやら寝ていても腹は減る様だ。


 食堂に着いた。彩華は焼肉定食を、俺はカツ丼を注文して席に座った。学食という事もありカツ丼は破格の430円だ。焼肉定食は520円する。


「後輩、カツ丼一ちょうだい? サラダやるから」


「……ちゃんと野菜食べてください。肌荒れしますよ?」


 あまりにも横暴な提案に俺は自分側にカツ丼を引く。せっかくの飯を屑にやる訳にはいかない。

肝心の彩華は口を尖らせて文句を言う体勢を整えていた。よくよく見るとその顔には肌荒れ一つ無かった。


「後輩のケチ、キャンパスでタバコ吸えないから気が立ってるの。だから襲っちゃうぞ?」


「ヤニカス……」


俺がボソッと呟いたら彩華はこちらに身を乗り出して来たので必死に押さえつけて落ち着かせた。本当に厄介な奴である。


「そういえば今日サークルある? よかったら出席だけつけといてくれない?」


落ち着きを取り戻した彩華は突拍子もなくそう言った。


「無いです。仮にあったとしてもそれしたら処分喰らうの俺なんですから絶対にやりませんよ?」


因み俺達が所属しているサークルはツーリング同好会。人数七名の弱小サークルだ。週に二回活動がある。


「ケチ〜、リスクを負ってこそ男でしょ?」


「まだ在籍一年目になので早々に処分喰らいたく無いです」


俺は彩華の煽りを華麗にスルーしてカツ丼を頬張る。それを羨ましそうに見つめる彩華。どうしてコイツもカツ丼にしなかったのだろうか?


「そんなに食べたいならカツ丼頼めば良いじゃ無いですか……」


「……太りそうじゃん?」


 俺は思った。自堕落な生活をしている奴が言うセリフでは無いなと。二時に寝て十時に起きる彩華が言える様なセリフでは無いと。

そんな俺の想いも届かずにこちらを見つめる彩華に俺も面倒くさくなって結局、一口だけ彩華にカツ丼をやった。言うまでも無く結構な量を持っていかれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

酒の肴になる恋を 電さん @tatibana1945

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画