北の独眼竜VS砂漠の狐

船越麻央

伊達政宗VSロンメル将軍

「ドイツ機甲師団、最上川を強行渡河開始! 現在交戦中!」


 米沢要塞に急報が入った。一大事である。


「ついに来たか。『砂漠の狐』めこの米沢要塞を狙うとは。相手にとって不足はないな」

 要塞司令官、伊達政宗はさすがに落ち着いている。

「しかし殿、油断は禁物です。あのオンナ何をするか分かりません」

「うむ。楽しませてもらうぞ。出撃する! それと……例の将軍をお呼びしろ」

「かしこまりました。すぐにお呼びいたします」

「さーて、待っていろよ『砂漠の狐』ロンメル。俺に勝てるかな」

 隻眼の勇将、『北の独眼竜』伊達政宗。ようやく出番が来た、金髪碧眼のオンナ将軍に会えると内心喜んでいた。


「閣下、渡河作戦完了致しました。全軍進軍可能です。ただちに米沢に向かいますか?」

「あらそう。でも進軍はナシよ。最上川を背にして防御態勢をとって。じきに伊達政宗がやって来るわよ」

 ドイツ機甲師団を率いるロンメル将軍、上機嫌である。

「か、かしこまりました。川を背に……するんですね」

「そうよ、何度も言わせないで。それと……今回敵に例のアイツがいるのよね」

「……やはり……あの将軍が……」

「ウフフフ。待ってるわよ。『北の独眼竜』伊達政宗。アタシに勝てるかしら」

 金髪碧眼のオンナ将軍、『砂漠の狐』ロンメル。神出鬼没、何をするか分からない。ただ実は秘かに伊達政宗をイケメンだと思っていたのである。


 遅れてきた戦国大名、伊達政宗。幼少期に患った天然痘が原因で右眼を失明。隻眼の勇将『北の独眼竜』と呼ばれている。彼がもう10年早く産まれていたら……。歴史は変わっていたかも知れないと言われている。

 一方、金髪碧眼のオンナ将軍ロンメル。この美女は髪をなびかせGoGoGoGo。キューベルワーゲンを駆ってドイツ機甲師団を指揮する。その破天荒な戦いぶりから『砂漠の狐』と恐れらていた。


 今回、ロンメル将軍指揮の下にドイツ機甲師団は最上川を強引に渡河し、米沢要塞を視野に捉えている。

 伊達政宗は迎撃すべく精鋭部隊を率いて米沢要塞を出撃した。


 最強ドイツ機甲師団VS精鋭伊達軍団。戦いの幕が上がった。


 ◇ ◇ ◇


「敵は最上川を背に布陣しています。ティーガー、パンターを前面に配置して待ち構えているようですな」

「うむ、背水の陣のつもりか。うかつに攻めかかると猛反撃を喰らうぞ」

 さすが伊達軍、そう簡単に誘いには乗らない。


「さあ、さっさとかかってこぬか。伊達の名が泣くというものだ」

「……閣下……時間稼ぎをお忘れなく……」

 ドイツ機甲師団、何か策があるようだ。


 さて、こちらは米沢要塞である。その前面に突如として出現したのは……まさかのキューベルワーゲン! 金髪碧眼のオンナ将軍ロンメル! 快速の軽戦車と装甲騎兵を従えてさっそうと姿を現したのである。

「さあ、行くわよ! ついてらっしゃい! 米沢要塞を落とすわよ!」

 なんと、最上川岸の部隊を囮にして、自ら高速機動し米沢要塞攻略を試みたのだ。殺到するロンメル軍。まさしく『砂漠の狐』得意の電撃作戦である。

 ちなみに囮部隊の指揮官は、後に常勝の名将と呼ばれるラインハルトであった。この当時彼はロンメル将軍のもと、頭角を現していたのである。


 一方の米沢要塞。こちらにも伊達政宗がいた。最上川方面には重臣の片倉小十郎景綱を向かわせて、自らロンメルの来襲を待ち構えていたのだ。

 しかしこの作戦を政宗に進言したのは……。ロンメルのライバル、モンゴメリー将軍! なんと政宗が特別軍事顧問としてひそかに招聘していたのである。モンゴメリーは参謀として対ロンメル戦に闘志を燃やしていた。


「来たわね、ロンメル。言った通りでしょ。最上川岸の部隊を囮にしたわね。ミスター政宗、今こそ打って出て蹴散らしてしまいましょう!」

 銀髪青眼のオンナ将軍モンゴメリー。ロンメルの戦法を見破り対策を政宗にアドバイスしていたのである。そしてライバル意識をむき出しにして独眼竜を𠮟咤激励した。「さあ『砂漠の狐』に一泡吹かせましょう!」


 『北の独眼竜』伊達政宗に率いられた米沢要塞守備部隊は、ロンメル軍に襲い掛かった。


「アハハハ、伊達政宗……さすがはモンゴメリーね。こんなことだと思ったわ。ふん、これで裏をかいたと思ったら大間違いよ。勝負はこれからこれから!」


 ロンメル軍は出撃して来た伊達軍を圧倒した。激戦になったが、さすが何度も修羅場を経験した部隊である。軽戦車と装甲騎兵が暴れまわり手がつけられない。政宗は奮戦したが後退を余儀なくされた。ティーガーもパンターもいないドイツ機甲師団であったが見事な戦いぶりであった。


「ミスター政宗、いったん要塞内にさがって態勢を立て直しましょう」

 モンゴメリーは悔しさをこらえて言った。

「うーむ、ロンメルめ……」唸る伊達政宗。

「……もう、しょうがないなあ……これで終わりじゃないと思うんだけど……」

 モンゴメリー将軍の隣で頭を掻きながらボヤクのは若いヤン中尉だった……。


「敵は基地内に逃げ込んだわね。全軍反転! 最上川に向かうわ! 伊達軍を挟み撃ちよ!」

 ロンメル将軍はキューベルワーゲンの上で叫んだ。ロンメル軍はあっという間に戦場から消えてしまった。


 ◇ ◇ ◇


 その頃、最上川では。川を背にして布陣していたドイツ機甲師団が動き出した。ティーガー重戦車隊を先頭に対峙していた伊達軍に襲い掛かったのだ。キャタピラ音を響かせ殺到するドイツ機甲師団!

 迎え撃つ片倉小十郎景綱指揮下の伊達軍。こちらも精鋭部隊である。

「来たな! ドイツ軍を最上川に追い落とせ!」


 こちらはどちらも退かぬ激戦になった。


 満を持して突進するドイツ機甲師団。厚い装甲を誇る重戦車、精強な装甲歩兵の突撃である。伊達軍もひるむことなく善戦していた。両軍入り乱れての乱戦の様相を呈していた。


 しかしその戦場に突然、ロンメル軍が姿を現した。米沢要塞から反転し伊達軍の背後に襲い掛かったのである。

 これにはさすがの伊達軍も参った。

「いかん、挟み撃ちだ! このままでは全滅するぞ。いったん退却だっ」

「一か所だけ退路があります! 戦場から脱出できます!」

「よし、ロンメルめ覚えておれ!」


 伊達軍はロンメルがわざと開けておいた退路からほうほうのていで逃げ出した。ドイツ機甲師団の勝利であった。

 ロンメルは軍を整えると、再び最上川を渡河し悠然と引き上げていった。伊達政宗に追撃する余力はなかった。

 結局米沢要塞こそ落とせなかったが、伊達軍を翻弄したドイツ機甲師団の勝利であったと言えるだろう。


 ◇ ◇ ◇


「ロンメルめ、いったい何をしに来たのだ! この伊達政宗を愚弄しおって。モンゴメリー将軍、『砂漠の狐』はいつもこうなのか!」

「まあまあミスター政宗、この米沢要塞を落とされなかっただけでもラッキーでしょ」

「ラ、ラッキーだと! こ、小十郎! 何とか言え!」

 怒り狂う『北の独眼竜』伊達政宗であった。


「モンゴメリー将軍、覚えてらっしゃい! まったくいまいましいオンナよ。でもいいわ……伊達政宗、思った通りのイケメンだったし」

「……閣下……まさか……伊達政宗に会いたくて今回の作戦を……」

「えっ! 言ってなかったかしら……『北の独眼竜』、次は戦場外で会えないかなあ。アタシもアイパッチ付けようかしら。ウフフフ」


 金髪碧眼のオンナ将軍『砂漠の狐』ロンメル。いったい何を考えているのだろうか。



 



 




 



 


 


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