盗まれたプラネタリウム

盗まれたプラネタリウム

小学二年生の二学期。僕はユウキ君のプラネタリウムを盗んだ。


 長い長い夏休みが終わり、二学期が始まった。ユウキ君は自由研究の宿題でプラネタリウムを作ってきた。

 ユウキ君のプラネタリウムは実際の星の位置を正確に捉えられていて、学年で一番の出来だと皆んなから褒められた。


 だからこそ、プラネタリウムが盗まれたとわかったとき、皆んな大騒ぎになった。

 子供たちは、誰がプラネタリウムを盗んだのかという話題で持ちきりになった。先生たちもこの事態をおおごとにして、犯人探しに奔放した。だが、なかなか犯人を見つけることはできなかった。


***


「あなたでしょ。ユウキ君のプラネタリウムを盗んだの」


 皆んなが犯人を見つけることに諦めはじめた頃だった。

 下校時間になり、僕がロッカーから靴を取り出していると、クラスメイトの星野舞が耳元でそう囁いてきた。慌てて振り向くと、舞の二重で切れ長な目がこちらをじっと観察していた。

 僕は驚きと焦りと恥ずかしさで一気に顔が赤くなった。


「やっぱり。だと思ったわ」


「な、なんのこと?僕は何も知らないよ」


「嘘はよして。あなたが盗んだってはっきりと顔に書いてあるわよ」


 皆んなもう下校してしまって、僕たち以外誰もいなかった。眩しい夕日の光が昇降口を包み込み、まるで世界に二人だけしかいないみたいだった。


「わたし、何であなたがユウキ君のプラネタリウムを盗んだのか知ってるわ」


 舞がそう言った瞬間、僕は心臓が爆発しそうになった。


 まさか。やめてくれ。君なんかが理由を知ってるはずがない。もし、仮にそうだとしたら……僕は一体どんな気持ちになればいいんだ。


「あなたもプラネタリウムを作ってきたのよね」


 あぁ——。


「悔しかったんでしょ?ユウキ君のより完成度が低いのはわかっていても、自分が頑張って作ってきた作品が誰にも見向きもされないなんて。『こんなことなら違うのを作ってこれば良かった』と思うとさらに辛くなる。だってあなたは誰よりも星のことが好きなんだもの。斜め後ろの席からいつも観察していたわ。あなたが授業中にこっそり星の図鑑を見て目を輝かせていたりしてたことをね」


 舞は僕のことを全て見透かしていた。

 恐怖や恥ずかしさと同時に、ささやかな喜びが溢れてきて、僕はそれらをせき止めることができず、気づくと涙を流していた。


「ねぇ、わたしと一緒に謝りにいこうよ。きちんと説明すればきっとユウキ君もわかってくれるはずよ。自分を卑下することはないわ。誰しもが持っている感情のひとつなんだから。さぁ、プラネタリウムをどこに隠したのか教えてくれる?」


 小学二年生の二学期。僕はプラネタリウムを盗み、嫉妬という隠し場所に隠した。


 ——これは、ほろ苦くて甘い僕の成長の物語だ。





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