第52話 やっぱり不味いんですか?
あれから場を移し、優奈は探索者ギルド押上支部の奥まった部屋に移動した。そこで上質な革張りの座ると腰が沈みそうなクッションにお尻を沈み込ませながら、新藤副ギルド長と対面している。そんな優奈の隣には、代表しての付き添い、ということで茜に同行してもらい、優奈の隣で一緒のソファに腰を下ろしてくれていた。
「さて、まずはこの階に入る前に配信を切ってくれたことに感謝を。すみませんな」
そう言って頭を下げる新藤副ギルド長に、優奈は頭を上げてください、といって首を横に振る。
「いえ、さすがにここにはいろいろと重要な書類だとか資料があると思いますし、警備とかの面でも情報漏洩防止のためにも配信しちゃダメだっていうことくらいは、私みたいな女子高生でも想像がつくことですから」
そう、実は橘とのやり取りについては、優奈は最初からずっと配信を垂れ流しにした状態でいたのだ。配信用ドローンの表示ランプ等については、そのために琴音が三日かけて内部の回線やプログラムを改造し、外装やランプ表示等を見ただけでは気づかれないようにしてくれていたし、コメントも表示されたりしないように専用モードの開発をしてくれていたのだ。
そうして罠を仕掛けた上で、優奈は彼女にいつものように買取を依頼しに行っていたのである。
とはいえ、琴音や茜たちとの打ち合わせでは、橘が優奈の素材買取で横領している証拠か自白を掴んだところで茜たちが乗り込んでくる、というだけの内容だったのだ。仮に優奈に対し、今回はまともな額での取引をしてきたのなら、何故これまでと額が違うのか、という点を優奈が問い詰めていく予定であったのだが、これまで通りの取引額を掲示してきたことでそこが省けたのである。
なお、優奈のサポーターである琴音ではなく茜たちが乗り込んでくることになったのは、琴音本人から、
「あたしだと万が一荒事になった時に対応しづらいし、むしろ優奈の足を引っ張りかねないでしょ。それに、もしも茜さんたちが協力してくれるのなら知名度とかでの影響とかを考えても、スカーレットの皆さんに乗り込んでもらっておく方が注目度を上げられると思うわ」
という意見が出たこと、その琴音の意見を聞いてスカーレットの面々が全面協力を申し出てくれたことで採用となったのだ。
だがしかし、まさかの探索者ギルドの副ギルド長とかいう大物がそこに参戦してくるだなどということは、優奈も茜たちも全員がまったく予想もしていなかった。
「それにしても、驚きました。新藤副ギルド長さんがあそこで茜さんたちと完全に同じタイミングで乗り込んでくるとか、想像もしてなかったのでビックリしちゃいました」
「ホントよね。私たちが騒ぐことで騒動を大きくして、そしたらだれか偉い人を呼んで不正を正させるつもりではいたんだけど、まさかの副ギルド長があのタイミングで向かい側から乗り込んでくるとか想定してなかったから私たちも心底ビックリしたわ」
茜曰く、乗り込んでいったら反対側から怒り心頭のオーガかバーサーカーか、ってのが入ってきてたという感じで驚いて固まってしまっていたらしい。
「いやはや、ゆーなちゃんが突発配信しだしたのを見ていたからの。これまでに例が無い突発配信じゃというのにコメントへの反応が何も無いということで気になって観ておったら、それがまさかあのような事態が流れてくるなどとはまったくもって予想もしておらんかったわい。しかもちょうど会議で
そう言って新藤副ギルド長が自分の頭をぺしり、と叩く。その後、姿勢を正し、優奈たちに向けて深く頭を下げてきた。
「今回のことに関しては、あのような愚か者のことに気かつかず、長年見逃し続けていたワシら探索者ギルド側全体の完全な落ち度じゃ。迷惑をかけてしもうたゆーなちゃんには謝っても謝り切れんわい」
「いえ、それについては新藤副ギルド長さんの責任じゃないと思います。そもそも私が素材の相場とかをちゃんともう少し勉強したり調べたりしていたら、こんな簡単に騙されたりしてなかったと思いますし……」
「そうは言うがのぅ、ゆーなちゃんはまだ年若いんじゃ。
しかもここに来るまでの間にも聞かせてもらったが、ずっとあの者がお主を信用させつづけとったんじゃろ。だとしたらあれの言うことを信じてしまっておってもおかしくはなかろうて。それに横領されておった金額の累積を想像すると、かなりの額になっておるはずじゃろ。それだけでもゆーなちゃんがギルドに対し裁判を行ってもあたりまえと言えるレベルのことじゃよ」
とはいえ、ここまで愚かなことをしておる者がいるとはのぅ……、と新藤副ギルド長がため息を吐き出す。
「ひとまず、今回の件はゆーなちゃんが被害者だったが、他にも類似の被害者がおるやもしれん。いや、むしろいないと考える方がおかしいじゃろうな。恐らく、配信ではああ言ってはおいたものの、今頃は各地のギルドに探索者たちから自分たちも横領されているんじゃないのかとの苦情が山のように来ておることじゃろうて。手配した者たちが地方の支部の緊急監査に乗り込めるか苦情が先に行って逃げ出したり証拠隠滅を計る者が出てくるかが、今後の捜査を迅速に行えるかの鍵となることじゃろうなぁ……。
なにせ、もしもゆーなちゃんが他の支部でモンスター素材の換金を行おうとしたら、普通ならその時点ですぐに気づかれることになるはずのことじゃ。じゃが、それでもあやつがこんなことを平気でしていた、ということは……」
「他の支部でも、同じようにしている者たちが居る。下手をすると全国規模で、ということですよね?」
茜さんがそう言って新藤副ギルド長のことを目を細めて見据える。それに新藤副ギルド長が肩を落として「はぁ」と大きなため息を吐き出した。
「そうじゃ。特定の探索者だけを獲物にしておったのか、それについても各所のギルド単位なのか全都道府県規模なのか。受付だけの悪事なのかそれ以外の部署も含めての悪事なのか。それらについてを、まずはこれから見当をつけねばならんじゃろうな。
先ほど配信を切ってもらう前にワシの名の下にすぐに全国のギルド支部に強制監査を送る、だから少しでも他にいないかどうかの証拠を掴むためにも軽挙妄動は少しの間だけ待って欲しい、と視聴者たちに向けて告げさせてもらったのはそのせいじゃ。……これほどのことじゃ、規模はまず確実に大きくなるであろうと考えると、このようなことが一人二人の計画でできるようなものではないとワシは思っておるからの。
正直な話、これがもしも探索者に払うべき金額を少なくごまかして差額を懐に入れる程度のちょっとした横領程度というのであれば、あの者一人の出来心という可能性もほんのわずかに捨てきれんかったが……そこにB級モンスターの素材の処理という物事が関わってくるんじゃからな。それはつまり……」
「B級モンスターを狩れるだけのクランかパーティーが裏で関わっている可能性が高い、ということですよね」
その茜の言葉に、新藤副ギルド長が大きく頷く。
「そうなるわな。そうでなければ没収した後の素材を換金する際に、誰が倒して持ち込んだ素材なのか、という点が不明なままとなってしまうわい。であれば換金することができんじゃろう。狩り手がおらん素材を購入した、などということになるのじゃからな。帳簿を見れば一発で不自然さが顕わになっておることじゃろうて。
かといってB級以上のクランやパーティーが関わっておらず、ギルド以外で処理するとなれば、それはそれでまたも大問題じゃ。ギルドを通さずそういうことができるというのであれば、アンダーグラウンドなダンジョン素材の取引マーケットと接触があることになるからの。しかもそれで素材が海外やテロ組織なんぞに流れてしまっておれば、国際的な問題にまで発展しかねん」
なんだか急に話の規模が大きくなってきた気がしてならない。優奈は目を白黒させて新藤副ギルド長と茜さんの二人が交わすこれらの話を理解しようと頑張った。
そして、頑張った上で、わからないことについては素直に質問してみる。
「ええっと……その、海外とかに流れたりしたら、やっぱり不味いんですか?」
次の更新予定
ぶっ壊れ性能の辻支援さんは、現代ダンジョンでのんびり観光していたい。 亜麻ハル @mihuehinoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぶっ壊れ性能の辻支援さんは、現代ダンジョンでのんびり観光していたい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます