エピローグ ◇◇◇

30 決断


「クロガネも、そろそろ表舞台に出て来なさい」


 元女王の執務室、コノハ様が王弟殿下に国政への参加を要請した。


 部屋には、コノハ様、国王陛下、王弟殿下、そして私の四名だけだ。



「俺は、初等部だ、若すぎる」


 王弟殿下は、若いからと断ったが、表舞台は面倒だというのが本音だろう。まだまだ青い。


 今回の件で、王弟殿下への処罰を検討したが、方法はともかく、彼の正義を貫く姿勢を考えあわせ、不問にすることになった。


 王弟殿下が隠れていたのは、元女王の寝室だった。彼の中には、まだ子供が残っているようだ。



 王族たちは、ひじ掛けの付いたソファーセットに座っている。


 私は、体中が筋肉痛であるが、おくびにも出さず、両手をお腹の前で揃え、メイド立ちを崩さない。



「ワシは、王国の安定を一番に考え、政略結婚することに決めた」


 国王陛下の一大決心である。

 彼は、流行り病に罹患し、子供が授からないかもしれないと、ずっと、結婚に踏み切れないでいた。



「クロガネは、恋愛結婚を考えてくれ」


 国王陛下が、王弟殿下へ語りかけた。

 弟が、自分へ流行り病をうつしたと悩んでいることを知っている。その悩みを和らげたい優しさだ。



「闇属性であるピエール侯爵の妹を、正妃とする」


 ピエール侯爵の妹との政略結婚を決めた。


「そして、貴族院で力を持つ侯爵から、光属性の令嬢を探し、側妃とする」


 国王は王国の安定を一番に考える。貴族院で派閥のバランスをとる心づもりだ。



「アルテミスは、メイドからメイド長へ昇格させる」


 国王の宣言によって、私は、メイドからメイド長へと昇格した。ただし、部下のメイドはいない。


「これからも、ニニギを支えてくれ」


 コノハ様から、労いの言葉とともに、意味深げな言葉があった。この元女王は、どこまで先を読んでいるのだろう。


「国王専属メイド長を拝命いたします。今後も、国王のために、この身を捧げます」


 国王専属メイド長である。ということは、彼の側に立ち、いつも一緒だ。



「アルテミス……執行聖女を引退してくれないか」


 国王陛下から、執行聖女を引退するようにお願いされた。私を危険な仕事から離し、いつも自分の側にいてくれという願いだ。



 ◇◇



「あなたの悪行は、ここまでよ」


 月明りの下、王宮の中庭へ逃げてきた男に、私は言った。


 男は、足を止め、肩で息をしている。



「臓器の密売が出来なくなったからと、強盗に転職なんて、愚の骨頂ね!」


 臓器密売ルートは潰れた。残党が、逃亡資金が欲しくて、王宮へ強盗に入ったのだ。



「誰だお前! 道を開けないと、女であっても、痛い目を見るぜ」


「国王専属メイド長、執行聖女よ」



「痛みが強く長いほど、貴方の罪は浄化され、天界へと導かれます」


 強盗の足元で、六芒星が輝く。



「お幸せに」


 今夜も、いつものように、私は執行聖女として仕事をする。



―― FIN ――





(お礼の言葉)

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 二十年ほど後の、アルテミスや、マーキュリーの活躍を、異世界恋愛として仕上げた「恋愛小説『聖女の七日間』婚約破棄、爵位失墜にめげず、愛する貴方のため、聖女の力に目覚め……え、聖女は誰なの?」の中に描いています。

 そちらは、別の令嬢が主人公の恋愛小説なので、執行聖女は出てきませんが、よろしければ、合わせて読んでいただければ幸いです。

 ではまた、次回作で。(*^-^*)ノシ

        2024年10月 甘い秋空

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国王専属メイドは執行聖女 甘い秋空 @Amai-Akisora

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