第5話(終)


「まって、クロちゃん⁉︎」

「ヤバい、クロちゃん、ワイルドすぎる!」

 頭の先まで泥水に浸かった私を見て、みんなが笑う。

 私の近くの水を見る。汚い水は、私から漏れ出る黒を抱き込んで、ごまかす。

 そうか。私は透明なところにいるから、自分の色が気になったんだ。

 色があるところにいれば、自分の色なんて、気にしなくたっていいんだ。

 外からは、未だ雨の音がする。

 水位は下がるどころか上がっていく。

 泥水が跳ねる。

 笑い声が響く。

「コラァ、お前らぁ! すぐに上がれ!」

 先生にバレた。仕方なしに水から上がる。

 右を見る。左を見る。みんなおそろいの、泥水だらけ。

「ああ、楽しかった。もう、このまま人生が終わっても、後悔ないや」

「そんなこと言わないでよぅ」

「でも、なんか終わりそうじゃん?」

「確かに」

 泥水だらけで、清々しい顔をするみんなを見ながら、私はみんなとは違うことを考える。


 世界に、続きがありますように。

 せっかく、自分の色を気にしない生き方に指の先が届いたのだ。

 今、世界が終わったら、私はきっと、最後の最後まで気づけなかったことを後悔する。

 私は、こんな体だって構わないから、もっともっと、生きてみたい。

 世界は透明じゃなくて、身の回りに広がっているのは泥水だと思って、自分は溶け込めるものなのだと信じて、思いっきり泳いでみたい。

 つー、と伝った涙をぬぐう。

 止まない雨音を聞き、黒い雫の線を見つめながら、私は晴れた未来を思い描いた。

 

 

 

 

 

 

〈了〉



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どろみず 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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