57:我が主ふたたび



 いろいろありながらも、順調にダンジョン探索を進める四人。

 リンの結界とマッキーのマップを組み合わせると、最短経路を選択できるし立ち止まる必要もない。

 出遭う魔物も最低限で、結界にぶつかったところを三人で切り刻むだけ。

 その結果、二日目の夕方には十四階のボス部屋前に着いた。


「きれいな空だな」

「どうなってるんだろうねー」


 今さらだが、ダンジョンの中にいることを忘れそうになる景色。

 沈もうとしているあれが星じゃないなら、いったい向こうはどうなっているのだろう。


 そんな感傷はさておき、十四階ボス部屋の前には安全地帯の山小屋がある。

 ここで休んで、ボス対策を万全にしてから臨むべきだろうと僕は提案したが、他の三人は今すぐボスを倒そうという。


「全然元気だしー」


 マッキーはともかく、結界魔法をかけ続けたリンが大変だろうと思ったが、余裕だと返されてしまう。

 リンはアオさんと、ザワート大公国元摂政左大臣レン様の娘だ。レン様は世界で三番目ぐらいの魔法使いで、その上にいるのがアオさんだから、血筋で考えればリンより上の者はいない。

 ただし、魔法は遺伝しない。体内の魔力量も同じで、三ヶ月前に冒険者となった時点でのリンは、新人にしてはすごいという程度だった。


 一言で言えば、アオさんと樹里様が優秀過ぎる。

 三ヶ月前にまったくなかった僕の体内魔力は、二人に鍛えられた結果、既に三ヶ月前のリンを超えているらしい。何しろ、もう少しで結界を張れそうなのだ。

 僕の魔力は基本的に身体強化に振っているし、セイリュウに吸われるので余計な魔法の練習はほとんどしていないが。

 リンは元から魔法を使えたので、僕よりずっと覚えが早い。

 樹里様の指導は…、正直言えば少し自重してほしい。理由は聞くな。



「仕方ない。じゃあボス部屋に入ろう。その代わり、黒いのが出た時の準備はしてくれ」

「うん。……シモンは格好いい」

「それ関係ないから」

「格好いいのに?」


 リンが思いっきり身体を預けてくるので、身体強化しながら耐えると、カイとマッキーがニヤニヤしながら観察して、そして自分たちもいちゃつきだす。

 前回、黒い巨人に全滅寸前だったというのに、みんな余裕ありすぎだろう。

 というか、防具つけたままのしかかられると滅茶苦茶痛い。ボスと戦う前にダメージを負うのでやめてほしいぞ。


 さて。

 十四階のボスは、腕が四本の赤い巨人。見た目は九階ボスの赤い巨人の腕が増えただけだが、増えた二本で棍棒を振り回す厄介な敵だ。

 戦い方としては、盾で攻撃を押さえつつ、腕を斬り落とすことが推奨されている。

 棍棒を手放させれば、逆にこちら側がそれを武器に戦うことも可能。ただ、僕たちの場合は棍棒を振り回しそうな役がいない。


 なお、斬った腕は数回再生する。

 なので、モタモタしていると元に戻ってしまうから、あまり時間をかけずに倒すことが望ましい。

 ――――という内容が、管理事務所の資料に書いてあった。


 僕たちの場合は、リンの強固な結界魔法が使えるので、敵の腕が増えても対応できる。

 セイリュウにリンの魔法を乗せた必殺攻撃は、黒い巨人に通じる威力だから、それさえ決まればじゅうぶん勝てるはずだ。


 問題は、また黒い巨人になった時。

 管理事務所の記録にもなかった黒い巨人は、雄叫びをあげる。それは一種の魔法攻撃で、前回は一発でカイとマッキーが戦闘不能になった。

 セイリュウのおかげで動けた僕も、三発食らえば終わり。


 黒い巨人対策は二つある。

 一つは身体強化や結界による防御。魔法攻撃なので普通の結界ではほとんど効果がないが、工夫すれば少しはマシになる。

 僕たちはそのため、アオさんや樹里様に似たような攻撃を食らいながら実験を重ねた。

 身体強化を一時的に高めれば、カイとマッキーも一撃目を耐えられる。

 僕もセイリュウを持たずに一緒に耐えた。


 しかし、耐えられると言っても万全の状態じゃないから、必ず隙ができる。

 なので別の手段も用意した。

 リンが母親からもらった、結界を作る魔道具。三ヶ月前、九階ボス部屋に置き去りにされた時に使ったあれを、樹里様が改造したものだ。


 樹里様の力を借りるのは、正直言ってズルいと思う。

 ただ、黒い巨人は二十三階ボス相当の強さに設定したらしいので、努力して勝てというのも無茶だ。

 そんなこんなで、どうにかアオさんを説得して味方につけて、二人で樹里様に頼んだ。

 樹里様からは、ギリギリまで使わないようにと念を押され、どんな効果があるか教えてもらえなかったけど…。



 ともかく準備をして、九階ボス部屋より少し大きめの門をくぐった僕たちの視界に入ってきたのは、四本腕の赤い巨人だった。


「良かったー」

「油断するなよ、マッキー」


 黒い巨人がいないことを確かめ、ほっとした僕たち。

 しかし、僕の不幸はまたもただで済ませてくれなかった。


「ようこそいらっしゃいました、我が主様」

「またかよ!」

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不幸から始まる最強冒険者 udg @udg1944

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