エピローグ 悪役令嬢の娘、伝説になる
「えいっ!」
「グギャアアアアアアアアアアアッ!」
アイシスが軽い気合の声と共に拳を撃ち放つと、巨体の鬼が胴体に風穴を開けて倒れた。
「よし、やっつけたよ!」
「アイシス、まだ終わっていない! 油断するな!」
「うん、わかってるよ……すぐに全部やっつけるからね!」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!」
別の鬼が……オーガと呼ばれているモンスターが襲いかかってくる。
アイシスが拳を振るって襲いかかってくる怪物を打ち砕き、エベリアもまた一緒に剣を振るっていた。
「援護する」
「ああ、もう! 気味の悪い顔をした鬼ね!」
エベリアの後方から、レーナが魔法で、ローナが弓で援護をする。
最初は十体ほどいたオーガはどんどん数を減らしていき、最後に一体の頭部をアイシスが掴んで首をねじり切った。
「フウ……今日もお仕事が終わったね。晩御飯は何かなー?」
オーガの血に塗れながら、アイシスがやりきった清々しい笑顔で額の汗をぬぐう。
『戦乙女の歌』の四人は以前と変わらず、冒険者としてモンスターを狩っていた。
変わったことといえば、活動の拠点が帝国……否、かつてエイルーン帝国と呼ばれていた土地になったことくらいである。
皇帝が処刑され、国が滅んではいるものの……棲みついて増殖したモンスターがいなくなるわけではない。
大量のモンスターが生息している旧・帝国は冒険者にとって良い稼ぎ場である。
『戦乙女の歌』を含めた多くの冒険者がこちらに移住してきており、モンスターと戦っていた。
ちなみに……アイシスは半年ほど前、帝都周辺の領主となったカーベルに求婚されている。告白の返答は拒否、普通に断っていた。
「私、貴方のことそんなに好きじゃないから。貴方も私のこと、別に好きじゃないよね?」
そんな飾ることのない返事を受けて、カーベルは苦々しく笑っていた。
カーベルがアイシスに求婚したのは愛や恋といった理由ではなく、アイシスが持っている謎の力……ルーデリヒが『神撃の御手』と呼んでいたものが目当てだろう。
その力の正体をアイシスは知らないが……特に気にした様子もなく、モンスター退治のために積極的に使っていた。
「それにしても……アイシスって、本当にモテるわね。この間も新しい男に結婚を申し込まれてなかった? あの人、騎士だったっけ?」
オーガを片付けて、拠点の町に帰る道中。ローナが思い出したように口を開く。
カーベルから告白されたせいで、アイシスはローナから恨みがましい視線を向けられていた。
しかし……元々、移り気の多い女である。
しばらくするとローナは別の男を追いかけるようになっており、カーベルのことなど忘れてしまっていた。
「ん、アイシスは可愛いから仕方がない」
何故かレーナが自慢げに胸を張る。
レーナは最近、アイシスを飾り立てることを趣味としている。アイシスに服を買ったり、髪を編んであげたりしていた。
いまだに子供っぽさを残しているが……冒険者になって一年、アイシスの美しさには磨きがかかっている。色気もどんどん増しており、周囲には言い寄る男の影が増えていた。
「そうだな。ローテス伯爵もよくアイシスに会いたがっているし、冒険者仲間もことあるごとにアイシスと関係を持ちたがっている。気になっている男はいないのか?」
エベリアが訊ねると、アイシスは腕を組んで「うーん」と唸った。
「男の人には興味ないかな? だって……みんなと一緒にいる時間の方がずっと楽しいもん!」
アイシスは向日葵のような明るい笑顔で仲間達に告げる。
「大公様の奥さんになるよりも、冒険者や兵隊さんの奥さんになるよりも……このまま、ずっとみんなと冒険していたいかな。この国が落ち着いてきたら、他の国にも行ってみようよ。空の王国、海底都市、黄金郷、月の都……私達だったら、きっとどこにだって行けるもん!」
「伝説探しの旅か……それも悪くないかもしれないな」
「ん、楽しそう。素敵」
「いいわ……私は伝説よりもイケメンを探したいんだけどね」
明るく話すアイシスに、仲間達も楽しそうに賛同する。
エイルーン帝国が滅び、図らずも母親の無念を晴らした。
セイレスト王国が帝国に代わって大陸中央の覇者となり、世界情勢が動いても彼女達には関係ない。
『戦乙女の歌』……いずれ伝説として語り継がれることになる四人の冒険は、まだまだ始まったばかりなのである。
おわり
神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました レオナールD @dontokoifuta0605
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