第7話 「また来年、会えますように」お題・またね

 小説を書き上げた私はパソコンの電源を落とし、原稿用紙げんこうようしに向かう。


 小説本文はパソコンだけど、あとがきは手書きで書く。

 これは作家としてデビューして以来、私のジンクスのようなものだ。

 また、読者と会えるように、との思いを込めた。

 正直、私は遅筆ちひつなほうで、本を出せるのは一年に一度。


 そしてそれは、毎年、七月だ。


 七月は別名、文披月ふみひらきづきと言って、ふみひらいてさらす、という意味があるらしい。

 それで本を出す月は、七月に決めた。

 また来年、私の文章を披いてもらいたいから。


 そうこうしているうちに、あとがきも終わりに近づいている。

 私は最後の文章を書き始めた。

 その結びの文は、毎年決まって、こんな言葉だ。


『読んでくれてありがとう。また来年、文披月に会えますように』


 そう。

 また来年。

 それまで、またね。

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心の中の、大切なものを探し求める物語・七編(2024年文披31題) 明日月なを @nao-asuzuki

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