イペリシア王国 海峡戦争記

@nitori256

第1話 われらは常に備えあり

海は広いな大きいなとはよく言ったものだ。幼いころから海を見てきた俺は常々思う。夕日に照らされる海岸線に打ち付ける波、その奥を悠々を航行する船たち。やっぱりいいなと心から思う。これも血筋なのだろうか。俺はひいじいちゃんから親父まで全員船乗りの家計に生まれた。ひいじいちゃんは船に乗って大洋に出たらしい。そこでほかの船を沈め、そして沈められた。帰ってこなかった姿を見ても海にひかれたのかじいちゃんも船乗りになった。そして大時化に会い仲間を救助した後波に消えた。それでも海っていうのは人を引き付ける何かがあるんだろう。親父は、そして俺も船に乗っている。


「直ちに停戦せよ!」

拡声器で前方を航行する船舶に呼び掛けられる。ブリッジの中は緊張感に包まれていた。L旗、発行信号、汽笛などの警告を行う前方の船舶は止まる気配がない。

「SN旗を掲げますか?」

主席航海士が船長に尋ねる。船長は静かに下を向き考えているようだ。10秒程度考えた後顔をあげて言う。

「そうしよう。SN旗を掲げよ」

「了解しました。」

そしてマストにSN旗…≪貴船は、直ちに停戦されたい。逃走したり、ボートを下ろしたり、無線を使用したりするな。もし従わなければ貴船を砲撃する。≫ という意味の旗を掲げる。

だが前方の船に止まる気配はない、じっと監視を続けていると後部後半に人がいるのが見えた。船長に許可を取りブリッジから出、カメラを構える。その瞬間だった。きらっと一瞬、ドン!という音がした。前方の船からロケットランチャーが発射されたのだ。避ける暇もない。弾は俺が立っていた右に着弾する。爆発で吹き飛ばされる。艦橋甲板から落下する、その時には俺の意識はなかった。



 目が覚める。どこか古臭い天井が目に映る。俺は死んだバズでは?そう思いながらも寝たまま手を上にあげる。自分の体を触ってみる。確かに感触がある。確かに俺は生きている。だが体が小さい。ベッドから起き上がり鏡に映った自分の姿を見て驚愕する。そこに映っていたのは5歳くらいの少年の姿だった。混乱する。なぜこんな姿に?そもそもここはどこだ?今の俺は「オレ」なのか?いろんな考えが脳裏をよぎる。俺は深呼吸をしていったん心を落ち着かせる。周りを見渡す。するとテーブルの上に置いてある地図に目が行く。・・言語は日本語ではない、そもそも島(?)の形が俺の知っている世界に存在するものではなかった。だがなぜか文字を読むことができる。「バング島」そう書いてあった。そんな島聞いたことも見たこともない、やはりここは俺のいた世界とは異なるようだ。すると

「アリス~ 遊ぼ~」と声が聞こえる。考える間もなく反射的に返事を返し、部屋から駆けていった。


 原理はわからんがどうやら「転生」とやらを果たしたようだ。だが前世で流行っていた小説のような能力は特段持ち合わせていないらしい。ここはイペリシア王国という島々からなる国で俺はその中のバング島というところに転生した。こっちではストラスト家の長男として生まれた。フルネームはアリス・ストラストというらしい。双子の弟と妹がいるがまだ2歳で話すこともできない。

 なんとこの世界では魔法もあるらしい。この前外で遊んでいるときに魔法の練習をしている子供を見た。小さい火の玉が「ぽっ」と出ていたくらいだったが前世で存在しなかった者には心が躍った。この国には初等教育が整備されているらしい。6歳から10歳までの4年間で最低限の教育を済ませるようだ。そのあとは自分の好きな教育を受けたり仕事をすることになる。首都ーヴァタメリアには魔道学園なる魔法を研究・取得する教育機関と海員を育成する高等海員学校があるようだ。技術水準は現代の日本には遠く及ばない。昔の世界でいえば1600年代~1700年代くらいのようだ。だがところどころ技術が進んでいるようだ。


6歳になり初等教育を受け始めたオレだったが前世でちゃんと社会人として働いていた俺からしたら退屈そのものでしかない。ただ歴史の授業だけは全く異なるので興味を持ち聞くことができていた。10歳になり初等教育最終年度になったそんなある日のこと

「~~今の王様のご先祖様が国を作ることができたのは理由があったんだよ。それは〈異邦人〉と呼ばれる人が現れたんだよ。その人はどこからともなく現れ昔の人たちにいろんなことを教えたらしいんだ。」

突然変なことを言い出す教師に俺は驚いた。よくある建国神話化と思い話の続きを聞く。

「その〈異邦人〉はいろんな本を残していったんだよ。」

どんな本を残していったのか聞くと

「写しがあるよ。こんなの」

と写しをみんなに見せる。それをした俺は言葉を失った。そこに書かれていた文字は…日本語だった。しかも現代の。どういうことだ過去にこの世界に来た日本人がいたのか?そんなことを考えているうちに授業がおわる。授業が終わった瞬間に先生のもとに駆け寄る。

「先生!さっきの〈異邦人〉の遺した本を見せてください!」

「ど、どうしたの⁈これ?あげるよ」

そう言って私に本の写しを渡してくれた。すぐにそれを読み漁る。過去のにこの世界に来た人間の日記のようだった。ところどころに現代技術が所せましと書き連ねられていた。昔この世界に来た奴はよっぽど物知りだったようだ。文化から技術、化学、天文、海洋、医療などなど多岐にわたることが書かれてある。そこまで読んである程度理解した、確かにこれくらいの人間なら国の統一にも役立つだろう。

夕日の差し込む教室で〈異邦人〉の遺した本を読んでいると

「アリス?何やってるの?早く帰ろうよ」

そう話しかけてきたのは俺の近所に住んでいて一緒に遊んでいる女子、フィオナだった

「先生からもらったんだ。ほら昔の〈異邦人〉が遺したっていう本の写しをもらったんだ。それを読んでいたんだ。」

「アリスそれ読めるの?」

「うん。一応ね、例えばー『ほんとに読めるの⁈』」

フィオナが身を机の上に乗り出して聞いてくる。近い近い、俺の鼻にフィオナの香りが入ってくる。落ち着くいい匂いだ。いや違う違うそんなことを考えている場合じゃない。心を落ち着かせて言う

「これって読める人いないの?」

「いないよ!国の中でも頭のいい人たちが必死に解読しようとしているんだよ!明日でも先生に行った方がいいよ!」

それは…めんどくさい。フィオナの話を聞く限り解読出来たらメレン島に行きエリートになる道が確約されているらしい。だがおれはそんなことには今は興味がない。また海に出ていこか、前の世界にはなかった魔法を学んでみようか悩んでいるところだ。

「それはどうしようかな。別に偉くなりたいわけじゃないし。」

「…そう」

つぶやいたフィオナは体を起こし俺の前に立つ。そして

「まあいいや。今日は帰ろうか」

そう言って俺の手を取る。もうすぐ日の沈む。続きは家で読むか。そう決めて席を立ちフィオナと共に教室を出る。

家への帰り道の途中突然フィオナが口を開く

「アリスってさ…ちょっと変わっているよね。私たちの年齢でほかの人より色々知っててさ。すごいというかなんというか。それにエルフとのハーフの私とも仲良くしてくれているしさ。」

「それは……家が近いからね。あと家に本がたくさんあってさ、それを読んでたら色々覚えたんだよ。」

適当な言い訳をする。この国には〈異邦人〉という前例がある。転生したなんて言ったら同じようになるに決まっている。だから転生したなんて死んでも言うつもりはない。

「そう…本が好きでも無理はしないでね?もしヴァタメリアに行くときは私もついていくからね?」

なぜか心配されている。

「別にヴァタメリアに行くつもりなんてないよ。これからどうしようかも悩んでいるんだよね。」

軽く弁解をしていると家に着く。

「じゃあまた明日。」

「またね」

そうとだけ言って家のドアを開け、自室にこもり本を読む。

「アリス~ごはんよ~」

母親の声が聞こえる。階段をおり食卓へ着く

「兄ちゃん今日は帰ってくるの遅かったね」

竜騎兵ドラグーンの人たちと話ししてた?」

弟と妹が矢継ぎ早に質問してくる。

「いや学校に残って勉強してただけだよ。」

ほんとに~などど聞こえてくるが反応はせず晩御飯を急いで井の中に流し込む。ごちそうさまでした。そう告げ部屋に戻る。昔この世界に来た人がどんな考えをもって行動していたか書かれてあるのではないかそう考えて読んでいくが先生からもらった写しだけでは得られることは少なかった。その時頭の中に一つの選択肢がよぎる。それは「ヴァタメリアに行き国立高等学校に行く」ことだった。

 次の日学校に行くと俺の周りに人が集まってくる。話を聞くと俺が〈異邦人〉の遺した本を読むことができる、ということが広まった結果らしい。その日のうちに先生と面談を済ませると面談の終わりに

「アリス・ストラスト君。ヴァタメリアに行って勉強する気はないかい?」

簡単に聞かれる。おれは即答したーー



初等教育を終えたオレは船着き場にいた。海を眺める。どこの世界でも海だけは変わらない。安心することができる。感傷にふけっていると「おーい」という声が聞こえる。振り向くとそこには俺の同行者ーーフィオナがいた。俺がヴァタメリアに行く、と言ったら自分もついてくるといって聞かなかった。フィオナは勉強もできるしエルフの血が流れているだけあって魔法もうまく扱うことができる。あっちに行っても心配することはないだろう。ここでも勉強はまだできるのでなぜ付いてきたいといったのかはわからんが。

 俺とフィオナは船に乗り込む。しばらくして岸壁のもやい索が放たれる。ついに出航の時が来た。岸壁に立っている両親と妹、弟に手を振り「元気でー」などと叫ぶ。別に永遠の別れではないがやはり寂しいのはある。船が帆を開く。縦帆いっぱいに風をとらえ岸壁から離れていく、ある程度なはれメレン島に進路を取るとコースセイルがいっぱいに開かれる。まだ見たことのない土地、前世ぶりの船、そして〈異邦人〉の遺した本に近づいていくのを感じ俺の心は高ぶっていた。

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