第3話 登校




「ありがとう、お兄ちゃん」


 できる兄である僕はきちんと妹を中学生まで送迎した。と言っても僕の通っている高校もすぐ隣にあるから正直なんてことない。


「じゃあ、放課後忘れんなよ」


 遠ざかっていく妹の背中を眺めながらすぐそばにある駐輪場に自転車を置きに行った。


「あれあれ? もしかしてあれ七乃(ななの)ちゃん?」


 ふいに後ろから来た女が耳元でささやいてきた。


「ビックリした! なんだよ」


 すぐさま振り返るとその正体が分かった。


「お前か」


 僕はまた落胆する。後ろに立っていた少女はかつての幼馴染とは髪色もスタイルも違った女の子だ。


 けれど、本物の彼女がそこにいるかのように感じるのは彼女と全く同じ色の瞳が放つオーラのせいだろう。


「智くん? どうしてそんなになっちゃんに合わせないようにしてるの?」


 この頃これしか僕に言ってこない。


「そんなのわかってるだろ」


「一度死んだ人間とそんなに簡単に合わせてたまるかよ」


 不思議そうな顔をしてるところ悪いが僕はそこの境界線は人間としては本来超えてはいけないものだと思っている。


 と言うのは建前だ。僕がこいつと再会したとき僕は一度歓喜で感情が高ぶり情緒がおかしくなってしまったのだ。それと同時に既に芽衣が死んだことを再認識させられて絶望感にさいなまれたのだ。


 七乃にそんな不安定な精神状態にさせたくないというものある。


「へえ、あなたってそんな性格なんだ。人間としての倫理観はあるのね。」


 彼女の周りが一気に冷気に包まれる。


 まるで髪色でも変わるような勢いで彼女の周りに風が吹いたような気がした。


「お前急に入れ替わるなよ。びっくりするだろ⁉」


 さっきまで僕にしつこいくらいかまってちゃんムーブをしていた癖に急に突き放されると何とも言えない気持ちになる。


「どうでもいいけど山岡君、そろそろチャイムが鳴るわよ。」


「ほんとだやべえ。」


 僕のことなんか振り返ることもなくさっさと昇降口へと向かってしまった。


 こいつの名前は海老神 凜々(えびがみ りり)。


 この島の長を代々務める海老神一族の一員らしい。


 それ以外はこいつのことはよくわからない、ただの高校のクラスメイトで隣の席っていうだけだ。


 それにこいつとの出会い方は大したものじゃない。


 転校初日、この女から話しかけてきたのだ、しかもこいつは芽衣を口寄せした状態で話しかけてきた。


 何の前触れもなく僕の目の前に現れてからかいやがったのだ。


 そんな非情なことをしやがるひどい女なんだ。


 そういう経緯なので僕自身この女はあまり好きじゃない。


「まあ、私はどっちでもいいんだけど本当にあの子に合わせないの?」


「いや、悪いんだけど今日の放課後に時間くれ。」


「さすがにあいつに隠し切れなかったし、僕一人の判断が正しいわけでもないからな。」


 小心者の僕にはどっちが正しいのかわからなくなっていて、同じ立場の人間をつくって相談相手になってほしいのもあった。兄としては最低な選択だろう。


「そうよね。普通の人間は身近の人にだけは伝えるのもなのよ。」


「ということはもしかしてお前はほかの人も口寄せできるのか?」


「・・・・・・」


「あなたに教える義理はないわ」


どうやらできないらしい。


「教えてくれてもいいじゃないかよ」


 さすがに言い過ぎた。


「私の家業のことなの。他人に軽々しくいっていいものじゃないのよ」


 少ししつこく詰めてみたが方法から何までこいつは口寄せのことについて何も教えてくれなかった。


 僕のことが嫌いとかそういうのではなく家訓みたいなものがあるのだろう。


 そういうことにしておこう。


 個人的には世界の秩序を乱すこんな技術が身近に存在しているのは凄いとか、羨ましいとかいう感想よりも、自分のそばにもこんな存在があるのだからほかの場所にも存在しうるのではないかと考えてしまう。


 どうしても自分だけが特別な存在だとは思えないのだ。


「そんな技術がこの世界にあるんだからほかの超能力的なものもあるんじゃないのか?」


「私に聞かれてもわからないわよ」


「私が知っているのは私の家業の口寄せだけよ」


 どうやら彼女にとってその異能力は別に特別なものでもないらしい。


「まあ、もし他にもあったとしてもあなたはそれを気にせず今まで生きてこれたんでしょ?」


確かにそうだ。そうだけど、、、、、、


「なら別にどうでもいいじゃないの」


 彼女も僕との話に意識が向き出したその時だった。







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世界が君を忘れさせてくれない。 あざみ みなり @minariazami308

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