第2話 そいつは
「芽衣」
「え?」
仕方がないと思う。逆の立場であったのなら僕も理解が追いつかないとだろう。
「入園 芽衣」
少しの沈黙の後口を開いた。
「怒るよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんきもい奴だけどまさかそこまで最低な奴だとは思わなかった」
「わかってるって。そういう冗談は僕も好きじゃない。でも僕についてそれくらいはわかるだろ? そのぐらいは僕を信頼してくれよ。」
「じゃあ、どういうわなの?」
「芽衣ちゃんはだって」
そこまで言ったとき僕が少し食い気味に割って入った。
「そう、死んだよ。」
「三か月前に。」
今まで反抗的だった妹が急に真剣な僕のことを恐ろしいものでも見るかのように見ていた。
実際もし立場が逆だったらぶん殴ってしまっていたかもしれない。
「そう入園芽衣。僕の幼馴染。僕らが生まれ育ったあの町で隣の家に住んでいた。」
「まさしくあいつだよ」
妹はもう何もしゃべれなくなっていた。
この話だけ聞いて本当の話だと思ってもらえると確信していたほど僕は動揺していたのだろう。
それはわかっている。
加えていつもと変わらないような口調で僕に話しかけてきてこいつが僕のことをどれだけ心配していたのかがよくわかった。
「話は信じるんだけどさ、実際はどういうことなの?」
「うまく想像できないんだけど」
確かにそれは無理もない。
「いわゆる口寄せってやつだよ」
大人な対応をしてくれた妹をみて僕も落ち着きを取り戻せた。
「なにそれ? キス? ちゅー?」
そういやこいつ普通にバカなの忘れてたわ。
「口寄せってのはな? 降霊術みたいなものなんだ。」
「あー、知ってるかも。」
「そらそうだろ」と口走りそうになったがわざわざ真剣に話を聞いてくれているこいつを刺激することないと思いとどまった。
「ちょっと待って、ということはお兄ちゃんの高校にそれをしている人がいるの?」
「そういうことや」
「なんだかよくわからないけれど急にアニメの世界に入ったみたいだね」
それを言いたいのはこっちのセリフだ。
「でも、それインチキなんじゃない?」
当然の疑問だ。
「確かに僕も最初そう思った。」
「でも、僕とあいつしか知らないことも知っていたし、インチキではないと思うんだ。」
「そうなんだ、なら今日の放課後合わせてよ。」
確かにこいつもあいつとは長い付き合いだし数か月前まで本当の姉妹のような関係だったからな。
もしかしたら本物かどうか僕以上に見分けがつくのかもしれないのは確かだ。
「わかったよ」
「学校に迎えに行くから校門で待っとけ」
「うん、わかった」
「そろそろ家でないとお互い遅刻してしまうな」
「転校生が遅刻なんてなんかイメージ悪いから急ぐぞ」
この島の中学高校はそれぞれ一つずつしかなく、しかも隣同士にある。
なのでここに引っ越してきてからは僕がこの子を自転車の後ろに乗せて送迎しているのであった。
「本当はいけないことなんだからな、二人乗り」
「もちろんわかってるって」
「でもこんな車もバイクも通らない道路、歩道ならまだしもルール守るのもばからしいじゃん」
どうやら俺の妹は意外と図太いのかもしれないな。
僕の場合、性格的に憶病なので二人乗りは遠慮したいところなんだが、こいつの自己中に付き合っとかないと後々うだうだ言われて面倒くさいから仕方がない。
それにこいつの言っていることももっともだろう。
「智也! 七乃葉!」
「お弁当忘れてる!」
二人で仲良く自転車にまたがって話していると僕らの母親が玄関から慌てて飛び出してきた。
「真奈恵ちゃんそんなに焦らなくてもいいよ。転んでけがしちゃうよ!」
毎度思うんだが中三女子が実母に向かってちゃん付けは違和感しかない。
実際、彼女はまだ三十代でまだ全然お母さんっていう感じがしない。落ち着きがないというわけではなく、ただただかわいらしいのだ。
実の母親のことをこんな風に言うのは少しおかしく聞こえるかもしれないが、そのくらいかわいいというイメージを持ってほしい。
だから、僕らも少し友達感覚なところがある。
「そういえば親父はどこにいるんだ?」
「まー君ならまだ寝てるよ。」
「最低な親父だな。」
「自分の左遷で家族巻き込んでるくせに生意気な人だね。」
いくらなんでもそれは言い過ぎ何じゃないかと思うが正直僕も内心そんな感じだ。
「あんた達はそんなこと気にせず気を付けて学校行ってきなさい」
いつもより少し機嫌が悪いような気がした。さすがに僕らも言い過ぎた。
それでは行くとするか。
「しっかりつかまってろよ」
「はーい」
そうして人っ子一人いない道を二人乗り安全運転で進んだのだった。
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