母に「とある女の子を誘拐して欲しい」と言われた。
りわとこ
第1話 はじめてのゆうかい
冷たくも澄んだ空気を吸い込み、バスから降りて目の前の建物へと入る。もう体が覚えつつある目的地に向かう足取りは軽くも重くもないといったところだろうか。
「で、今日は何の話をしようか……。」
こっちが黙ってると彼女がどうとかお前は健康を大事にしろうんぬんとか言われるのはわかっている。そのくせ自分のことはまったく喋ろうとしないんだから、大人っていやよねぇ。
「ヘイ、マイマム。調子はどう?」
「あ、
引き戸を開け部屋の中へ入ると、母が笑顔で迎えてくれる。俺の母はいつも
「なんか楽しいことでもあったん?」
「うーん…楽しいことってわけじゃないんだけど、ちょっと春人にやってほしいことができたの。」
「ふーん……?」
「とある女の子を誘拐してほしくて。」
「………………は?」
◆
「えっと?背は低め、黒のロングヘアで靴がボロくてノーメイクで……」
中学生を絞り込む条件にメイクの有無があるの、時代を感じるなぁ。校則で禁止されてないのかな。
「最近は小学生でも普通にメイクしてるらしいしなぁ……。オヂサンびっくり(゚д゚)しちゃうナ😅」
母に誘拐をお願いされてから数日後、情報をもらい段取りも決めた俺はもう実行に移すだけとなっていた。とある女の子を頑張って見つけ、うまいこと手懐けて、目的地へと連れて行く。完璧な計画だな、うん。
世間がクリスマスからの年末に向けてウォーミングアップを始める11月上旬。雲一つ無い空を見上げながら目的の女の子が通っている中学校の前でシガレット型砂糖菓子を噛み砕く。
俺はこのタバコに似たお菓子の味が大好きでよく食べるのだが、17年生きてきて味の良さについて共感されたことは一度もない。おいしいのに…………。
「っと。ソロ雑談に興じてる場合じゃないよな。もう下校のお時間だ。」
ターゲットを逃さないために学校を抜け出してきたんだ。ちゃんと誘拐しないとただの問題児になっちまう。いや誘拐するやつは問題児超えて犯罪者なんだけど。
頭の中でだーれにもーなーいしょでーゆーうかいなのよーと歌いながら校門前で帰宅部のエースたちを眺める。立ち番の教師がいないなんて、誘拐対策がずさんな学校だな、ここは。
「…………あれか?」
少しして、元気に下校する少年少女の中に事前に聞いていた特徴を完璧に備えた女の子を見つけた。背中を丸め下を向いて歩く彼女は、声をかけるのを少しためらってしまうくらい負のオーラをまとっている……ように感じた。
しかし怖気づいている暇はない。だって今も少年少女に「ずっと校門前で突っ立ってるけど誰こいつ?」みたいな目で見られてるからね。え、携帯手に持ってる子がいるけど通報してないよね?
「……ねぇ、君が
「え?…はい、そうです…………。」
「おっけ、良かったぁ……。あ、俺は
「…………そう、ですか。えっと………。」
目的の少女に近づくいて声をかけたのだが……もしかして不審がられてる!?…………まぁ状況を考えれば当たり前田のクラッカーか。
ここで目の前の少女を目的地へと連れて行くための方法として、俺には選択肢が3つある。それぞれ吟味してみよう。
➀力ずくで無理やり連れてく
→さすがに難しい。他の生徒の目があるから今逃げ切れたとしても後々問題になる。現実的ではないだろう。
②お菓子などで手懐ける
→コ○アシガレットしかもってないから無理。なんで駄菓子のくせして子供向けの味じゃないんだ、コイツは。ハッカの要素必要か?
③口説き落とす
→いやいや、俺は童貞だ。誠に遺憾だが女の子を落とす口説き文句なんて持ってない。これも無理だ。
……熟考に熟考を重ねた末に、今俺は詰んでいることがわかった。
いやまずいまずいまずいまずい!!17歳男が4つ下の女の子に話しかけるのはワンチャン犯罪だ。このままじゃへんたいふしんしゃさんになってしまう!!!社会的に死んでしm
「あ、あの…もしかして……私を連れていくんですか?」
「…………………………え?」
「お母さんの、お知り合いですか?」
「……!!」
母に「とある女の子を誘拐して欲しい」と言われた。 りわとこ @riwatoko
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