KILL&RUN

最悪な贈り物

KILL &RUN

バァァァン!!!!!

夜の中に銃声が響いた。

月の欠けた夜。

午前1時32分。


その男は、白いスーツを身に纏い、頭には帽子を被る。


死神やら、天使やら、はたまた神の使いやら悪魔の使いやら。


様々な呼び名で言われていた男は、殺し屋だった。


その名は…


「待てぇ!!!!このガキが!!!!!」


 (くそ!!!なんで、俺がこんな目に!!!!)


 男は逃げる。

何から逃げているのか。


それは、悪名高い組織、傀儡教と言われる宗教の集団。


ここ起眞市には、ありとあらゆる犯罪者や殺戮者、能力者が蔓延る。


男はただの一般人だ。

だが、しかし傀儡教の連中に追われる。


男の名前はカントウ。


本業は殺し屋だ。


「くっそ!!!!俺は依頼されただけだってのに!!!!」


殺し屋とはとても難しい仕事なもんで、少し前に依頼人として見ていた奴を、今度はターゲットとして見ないといけないということもしょっちゅうある。


この日もそうだった。


この日のターゲットは傀儡教の教祖、山路秀英ヤマジシュウエイと言う男。

そいつは少し前の依頼人でもあった男だった。


今回の依頼人はTという男。

なぜかインターネットの時代というのに、この男は蝋のスタンプを使って手紙を送りつけてきたのだ。


手紙の中には電脳特殊隊という組織がどうのこうのと言っていたが、そんなのはどうでもよかった。


傀儡教の場所は覚えていた。

その手紙をもらった夜。


早速、暗殺へと向かった。


それは、少し前の依頼の時、秀英が教会の中でパーティーというものをすると聞いたからだった。


今日しかないと思っていた。


しかし、なぜだか、カントウが予定していた、秀英暗殺計画…

それは既に教会に情報が漏れていた。


つまり、仕組まれていた可能性が高い。


(はぁ…はぁ…くそ!!!)

入り組んだ商店街の裏路地のゴミ箱の影にカントウは倒れ込む。

出血して血が滴る腕。


腕の中にはぶち込まれた弾丸。


カントウの体に痛みが響く。

(いってぇ……!!!!ハメやがって!!!!)


「おい!!!どこに行きやがった!!!!」


「探せ!!!!絶対に見つけるんだ!!!!」


路地に隠れていたカントウを通り過ぎて行く傀儡教のメンバー。


カントウの胸ポケットには、ハイポットC9。

この一丁だけだ。


雇用の殺し屋の給料なんてそれほど高いものではない。

なぜなら信頼されていないからだ。


もし敵に寝返っても大丈夫な用、武器代を削ぐ。

それが普通のやり方だ。


(はぁ…はぁ…)


「くっそ…任務失敗かよ…!!!!」


「やあ…お困り…みたいですね?」


暗い路地に響く声。

少し低いような高いような声。


「誰だ!!!!」


カントウは暗闇に向かってハイポットC9を突きつける。

左腕を動かすと、とても痛むが、それでも命には変えられない。


ハイポットC9も、命中制度は悪く、投げた方がマシなんて揶揄されるが、どれだけ命中制度が悪くても、10mほどの距離なら確実に当てられる。


だから突きつけるのだ。


「おお、銃火器ですか。まあ、この街にとっては至極ありふれたものですね。」


「誰だと聞いている!!!傀儡教の者か!?」


男は、暗闇からスナックの看板の光によって照らされる位まで、迫る。

黒色に近い緑色のスーツに手には白い手袋。

ニヤリと笑い、少しだけ若々しく見えるその男はニヤリと笑みを浮かべていた。


「私の名前はアシン。この街の管理者をしています。今日は君に折り入って話がしたくて存じ上げました。」


「は、話!?今の状況を分かってもいねーヤツの話なんて聞けるかよ!!!!」


「いや?今の状況なんていくらでも知っていますよ。」


すると、アシンと名乗る男は、胸ポケットから一冊の小さな本を取り出す。


本チェーンを通して胸ポケットに繋がっており、決して離れないようになっている。


「ふざけてるのか!!?良いのか?撃つぞ!!!!」


「君は撃てないでしょうね。」


「んな!?ふ、ふざけてんのか!?」


「カントウ。本名は無く、親に道端に捨てられ、そしてハマミという当時10歳ほどの女に育てられる。ハマミはお前が16の時に事故で死亡。その事故を起こした人間を暗殺したことにより、殺し屋の職業に就いた。好きな物はチョコレート。特にハマミの作るチョコレートが大好きだった。異世界パラレルワールドではRIのメンバー…ですか…なるほどなるほど…嫌いな物は薄汚い人間と、そんな人間に侵食されている自分。それで、今は傀儡教によって殺されかけている、瀕死の状態。」


「お、お前…その情報をどこから…!!」


「見えるんです。私には、見えるんですよ。」


「見えるだと…!?ふざけた事を言うな!!!」


「では、信じられなくても良いです。それよりも、私に一度、助けられてみませんか?」


「は、は!?ど、どういうことだ!!!」


「そのままの意味。深い意味なんてありませんよ。」


アシンほその右手を差し出す。


「この手を取れば貴方のその腕の傷。そしてこの状況。全てを一転させて差し上げましょう。」


「な、なんだと!?そ、そんなこと…お前に出来るわけ無いだろう!!!」


「果たして…そうでしょうか?」


アシンがそう言うと、アシンの後ろから傀儡教の奴らが迫ってくる。


「おい!!!居たぞ!!!!」


「おや?見つかってしまったようですよ?仕方ないですね。」


アシンが静かに呟くと、パチン!と指を鳴らした。

そして、その音が広がるとともに、傀儡教の者が心臓を抑え、その場に倒れ込む。


「ぐあっ!!!」


傀儡教の男が倒れると、アシンは胸ポケットの手帳のような本を開く。


「ふむ。柴田圭介…ここで死ぬ運命の脇役モブか…特に物語ストーリーに狂いは無い…」


「お、お前、今どうやって!!!」


「ん?ああ。私はこの町の管理者ハンドラーだから。脇役モブの命を奪う事など動作も無いのです。それで?この手を握りますか?握ってくれたら、この危機的状況を必ずや、奪回してあげましょう。」


(くっそ!!!こんな命を簡単に奪い去るような奴なんて…!!抗えるわけないじゃないか!!!)


カントウは唇を噛みしめると、

「くっそ!!!仕方ねぇ!!!!!」

と言いながら、その出された手を右手で握った。


すると、カントウの意識が遠のいていく。

「ぐあぁ…くっそ…だ、ましたのか…?」


「騙したも何も。は完了しました。さて、また一つ、物語が始まったようですね。」


「居たぞ!!!って!!!!柴田!!!!!!ああ!!!くそ!!!!」


男は、再び流れ込んでくる傀儡教の集団の向ける拳銃に怯みもせず、に呟く。

「さてと…ここからはどんな物語が展開されていくのか…」


「な、何を言っているんだ!!!!!撃てぇ!!!!!!」

一方向から放たれる銃弾の雨。


それをアシンは、パチンという指一つの音で、弾丸の雨


「な、何!?」


アシンは、本を開く。

「うーん…浜崎、尾形、紫影、諸橋、八実…全員に主役の未来は無い…か…」


「ご、ごちゃごちゃと!!!!!撃______」

次の言葉が出るよりも、アシンの指の音の方が早かった。


「残念です…今日は一人だけ…まあ、良いでしょう。」

アシンは本を閉じて、胸ポケットに入れる。


「ここからどんな物語ストーリーが生まれてくるか…」


眠ったままのカントウの死体のようなものは、やがて、砂のように崩れて行った…


「これで主役の数は、19人目。この主役はどんな物語を歩むのか…楽しみだとは思いませんか?読者諸君よ。」


管理人ハンドラーはそういうと、暗闇の中に消えて行った。

この世界起眞市の管理人《ハンドラー》のアシンはどこかに消えていった…



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「クソッタレ…」

声を漏らしながらカントウは、裏路地から立ち上がった。


胸ポケットに収められていた銃は今はどこかへと消えてしまった。


頭を押さえながら、立ち上がるカントウは手を壁に突いて体を補助しながら立ち上がる。


なぜか感じていた頭の痛さを抱えながら、立ち上がると、あることに気づく。

(あれ…腕の銃で撃たれた跡が消えている…)


「というか…服も少し変わっているような…」

カントウは、なぜか自分でも見覚えのないような服を着ていることに気づいた。


だが、そんなことはどうでもよかった。


なぜなら腕には、何ごともなかったかのように消えた傷跡。

腕を触ってみてもそこには服に穴が空いているだけ。


撃たれたことは間違いないが、それがどうやら、傷だけがなくなったようだ。

「あの男…アシンの言っていた言葉は本当だったのか…」


少しだけ寝ていただけなのだろうか。まだ夜は明けていない。

カントウは千鳥足ながらも歩き出そうと思い、足を踏み出した時、あることに気づく。


「あれ?ここに前…スナック屋があったよな…?」

消えていたのだ…

路地の裏にあったはずのスナック屋が。


そして、スナック屋のあった場所には、WEAPOMと液晶画面に映されている看板があった。


「ウエポン…!?ぶ、武器のことだよな…?」


カントウは恐る恐る、その看板に近ずくと、看板の横にあった扉らしきものが、襖のように横に開いた。


扉の中を覗く。

そこの中には、天井を向いて、大きないびきを立てて眠る店主のような男が一人。

欧米の方の血が混ざっているのだろうが、やけに、目元の堀が深い。


そして、店主のいるカウンターの両サイドには、ガラスケースのようなもので囲まれた、金属で作られたような銃が置いてあった。


しかし、その銃というのも、銃口が四角く、なっており、そして、銃の表面には青いラインが引かれており、まるで、近未来的な銃という感じだった。


現代の物で例えるならば、MAXIM9という銃がその形状に近い。

「ふが!!!!」

店主が息を漏らし、正面へと向きなおる。

「あ?おお!!こりゃあお客さんじゃねぇか!!って…まだガキかよ…帰んな!!!ここはガキが来るようなとこじゃねぇぞ」


「は、はぁ〜!?俺は20だ!!!!ガキじゃねぇぞ!!!!」


「ああそうかい。でもよぉ〜!!お前みてぇなひと昔前の古着着てるようなやつは貧乏モンって相場が決まってんだ!!帰った帰った!!!」


カントウは気づく。

店主が、銃のように、青いラインで引かれたような服を着ていることに。

それこそ、何度も言うことになるが、近未来的なものだ。


「はぁ!?これは最新のファッションだ!!!!少し前の報酬で買った今時の流行もんだぞ!!!!」


「へ〜!!!お前の体内時計は19年代で止まってんのか〜!?今は創和の時代だぜ〜?」


「は!?そ、創和!?な、なんだそれ!?!?」


「は?お前さん何言ってんだ??まさか、今の元号もしらねぇーのか??」


「い、今は令和じゃねぇのかよ!?」


店主は、それを聞くや否や、カウンターを大きな手で叩きながら大袈裟に笑う。


「令和ww??そんなの100年も昔の話じゃねぇか!!!!いつの話してんだっつうの!!!!はーはっはっは!!!!!」


(ど、どういうことだ??100年も昔???そんな筈はない!!!)

カントウは笑われる覚悟で、

「じゃあ、今の西暦は何年だ…?2124年…とかないだろうな…?」


「ああ?今の西暦もしらねぇのかよwww!!!今は2024年!!!9月25日じゃねぇか!!!」


日付と西暦…それはどうやら同じらしいが、どういうことだ?

銃と言い、店主の服装と言い…


「おい!!!この店…エアガンショップだろ?創和ってのは…あれか?この店の設定か?」


「おいおい?あんたさぁ…もしかして頭でもどこかに打ったか??とうとう心配になってくるぞ?その言葉はよぉ」


(この店主の反応…街全体がこんな感じなのか?ま、まさかな…)


「それじゃあ、ここにあるのはエアガンじゃなくて…本物…?」


「ああ。もちろんそうに決まってるだろ?大丈夫か?あんた…」


カントウはポケットの中を確認する。

ポケットの中には少し前にもらった諭吉が3枚。


「おい!!この店で一番安い銃はどこだ!!!?」


「え?ああ、このヘルメスCC9だ…レーザ方式の弾丸だが…命中率もクソもねぇが、護身用くらいには持って置く価値はある…って、まさかあんたこれを買うつもりか!?それだけはやめておいた方がいいぜ…だってこの銃は暴発も激しいし…」


「いくらだ?」


「はぁ?1万4000円だが…」


「これで足りるよな!!!?」

カントウはポケットからクシャクシャの1万円札2枚を出す。


「た、足りるが…」

カントウは出された銃を握りしめてポケットの中へ突っ込むと、「ありがとよ!!」と言って、店を出た。


「ま、毎度ありー…」

店内に残るのは鉄砲玉を喰らったハトのような顔をする店主だけ。


「ったく…この世間知らずが…って…この金…いつのデザインだ…?まさかあいつ!!!!」


店主が外を出たときには、カントウの面影は無い。

ッチと舌打ちした。







「ま…マジかよ…!!!!!」

路地から抜け、商店街にたどり着いた時、カントウは手を頭にやって、絶句する。


なぜなら、カントウの先に広がっている世界。

それが、紫色に染まり、空中に浮かぶ、看板…いわゆるホログラム。

まさに近未来…サイバーパンクのような町に変わってしまった起眞市の姿。


それが目の前に広がっていたからだ。


そして、空中には車のような面影を残した宙に浮く乗り物。

丸まったデザインのものから、鋭いデザインの物まで。

そして、スポーツカーのように羽の付いた中に浮く車のような物もあった。


(西暦は同じ…だけども元号は違う…令和は100年前の元号…そして俺はその前に気絶をしている…まさか…異世界転生か…?でも…異世界転生というよりは…異世界パラレルワールドに転生…といよりかは転送されたみたいだな…)


起眞タワーと思わしき電波塔が夜の町に待っている。

月の真下にあるタワーは、なぜか、6時を指していた。


「6時…?朝の6時だったら流石に明るいよな…いや待てよ?パラレルワールドだった場合…この世界に朝という存在もあるのか怪しいな…ってあれ?」


川沿いを歩いていたその時、ある一つの物がカントウの目の中に留まる。

それはネオンで彩られた看板に「KM garage」と刻まれた物だった。


「ガレージって車の修理とかか?」

カントウはあの、浮く車に魅入られ、少しの興味で、そのガレージの中に引き込まれる。


「そういえば、ここだけホログラムじゃないな…少し不自然だな…」

カントウは、川の方向を向く車庫の入り口へと覗いてみた。


すると、車庫の中には少し色褪せたランボルギーニが置いてあった。


カントウは、そのランボルギーニにゆっくりと近ずく。

別に逃げるわけでもないのに。


「おい。君は誰だい?」

すると、店の奥から老けた男の声がした。


カントウはびくん!!と肩を振るわせると、すぐに、声の方向へと向き直る。

「あ、いや!!その…素敵な車があるなーって思って……」


「ほほう?どうやら君は、この車の良さがわかる人のようだね。」


「あ!!はい!!!この車はランボルギーニですか?」


「おお!!車種もわかるなんて…!!最近の若者はすごいな〜!」

そう言いながら、目元を手で拭う、白髪の男。

シワのできた顔は、なぜだか、妙に安心感がある。


「お!!!いるじゃねぇか!!!!」

すると、外からまた別の声がガレージの中に響いた。


「おや?今度はどんなお客かな?」


こ、この声は…!!!

聞いたことのある声だった…


「俺はよぉ〜!傀儡教って物なんだけどさ〜!!このガレージ…少し貸してくんないか?なぁに!!別に大したことねぇんだけどさ!!」


目を大きくしたり薄めたりと、とても表情豊かに威圧する。

ガレージの老人は、はぁ、とため息を吐く。


「あ?なんだお前…俺に楯突こうってのか!?いいじゃねえか!!上等だごらぁぁぁ!!!!」


男は上着の中から銃を取り出す。

銃は、引き金に指をかけると、起動したように青い光が、銃の中に走り出した。


「大人しくここを渡すんだな!!!さもないと撃つぞ!!!!」


「したないお客だ…迷惑客には…帰ってもらうよ」

そう言うと老人は、異常なほどに、オーラを放出し始める。


「ん、なんだお前!?」

男もそれに気づいたのか、銃を両手で握り、しっかりと構えた。


「俺か?俺は少し前までは殺し屋だったんだ。名前は知ってるかな…」


「その銃…まさか、火薬の方式の銃とかじゃないよな…?」


「ああ。火薬を使って発射する。H&K45という今は売っていない武器だ。案外使い勝手はいいよ?そんなことは良いのさ。」


「へ!!そんな鉄砲玉で俺を殺せるかな?」

男の後ろから光が差し込む。


1発、男の持っている銃が赤い光を放った。

だが、それは一本のペンのインクを空中に引いたように、一直線の線となって、その場に残った。


「んな!?」

目には一瞬の線が引かれたように見えた。

それも驚くべきことだとは思う。

が、それよりも驚くべきことがあった。


それは、あの一瞬の間に、一見歳老けただけの老人が、H&K45の引き金を引き、男の銃の弾道を避け、そしてその男の頭に鉛玉をぶち込んだことだ。


(な、なんて奴だ!!!)


男は、にやけたまま、その場に倒れた。


「こ、殺したんですか!?て、てか、あの弾道をどうやって避けたんですか!?」


「ええ?知りたい…?別に何の工夫もしてないんだけどなぁ…?」


多分…話す気がないのだろう。

目も合わせずに、その男の死体に近ずき、握っていた銃を剥ぎ取って、その死体を川に放り込んだ。


「これ、いる?」

そう言いながら、カントウに銃のグリップを向けた。


「え?じゃあ、良いんだったもらっておく…」


「撃ち方は分かる?」


「撃ち方…?まあ、引き金を引くくらい…でしょ?」


「正解。」


そういうと、老人はランボルギーニへと足を運ぶ。

「これ、乗ってく?」


「きゅ、急にか!?」


老人はランボルギーニの扉を開けると、その中に乗り込む。

「少し試乗ってやつ。やってみない?」


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カントウが乗り込むと、「そんじゃ行くよ。ぶっ飛ばすから掴んでね。」そう言い放ち、老人はアクセルを思いっきり踏み込んだ。


「どゅわあああああああ!?!?!?!!?」


いきなり、Gの掛かった座席。

そして、老人はハンドルの中にある一つの怪しげなボタンを押した。


すると、次の瞬間、ランボルギーニの横から機関銃のようなものや、ミサイルを閉じ込めておくボックスのようなものが出てきた。


河川敷をものすごい勢いで走るランボルギーニは、一つの道を一気に曲がり、夜の街へと出た。


「う、うわああああああああ!!!!!!」


「そういえば、名前は?」


物凄い勢いで走る車の中、ギアを1から2へと上げた老人はカントウに問う。


「え!?い、今!?」


「あ、ちなみに、俺はフィクサー。よろしくね。」


「か、カントウゥゥゥゥ!!!!!!」


しばらく、田舎のような道を走っていると、そのうち、大きなビルとホログラムが立ち並ぶ街に来た。


その町ではタイヤのない車が大勢走っていたが、地面から離れることのないランボルギーニはその近未来のような車をどんどんと越しながら進む。


「な、なんか慣れてきた…」


「良かったね。」


「に、にしても、何で急にドライブを…?」


「さっき、何人かの人影があったからね。まあ、逃げてきたのさ。」


(き、気づかなかった…そ、そうだったのか…)


「それって…」


「まあ、大方さっきの傀儡教っていう奴らだろうね。っと…どうやらその傀儡教がおでましのようだね…」


バックミラーに銃を助手席に乗りながら構えた男と、宙に浮いた車を運転するもう一人の男。


首元には紫色のペンダントのようなものが揺れている。


「逃げますかぁ…」

すると、まるでロケットかのようにスピードメーターの横に取り付けられていたスイッチのようなものをフィクサーは押した。


「え、何それぇぇえぇえぇぇぇえぇぇ!?」

次の瞬間、さらにスピードの速かったランボルギーニがまた更に速度を上げた。


「まあ、端的に言ってニトロだね。まあ、こんなんで振り切れるわけでもなさそうだし…」

とフィクサーが言っていると、ランボルギーニの尻に何かが放たれた感触がした。


「こ、今度は何だよ!?」


「撃ってきたね…ちょっとカントウくんこれ」

そう言いつつ、ハンドルを話す。


「っておい!!!あんた!!!!!おい!!!!!!」

フィクサーは少しだけドアを開けると、H&K45を片手でコッキングし、ドアを片手で押さえながら、2発、放つ。


「マジかよ!!!!!」

バックミラーを見ると、そこには、項垂れた男の乗った車があった。


「はい。ありがとさーん」


知っていた。

カントウは知っていた。


フィクサー。

カントウは元の世界でもその名を聞いたことがあった。


もし、ここが異世界パラレルワールドなら、カントウの世界にいた人物も居る。

そして、元の世界でのフィクサー。

それは、最強の殺し屋の一人だ。


(ぜってぇ確定だ…こいつはこの世界での本物の…フィクサー!!!)


「あんた…現役時代は何してたんだよ…」


「現役時代…?もしかして、僕の過去を知っている人?」

カントウはフィクサーが聞き返してきた時点で、銃を突きつけられること位は覚悟してはいたが、どうやら、その可能性は無さそうだ。


「いいや…わからないから聞いている…だが、あんたが最強の殺し屋のフィクサーだってことは分かるさ…」


フィクサーはハンドルを握り、カントウは背もたれに全体重を任せる。


「へ〜…まあ、現役時代は相棒と駆け抜けてきたよ。」


「相棒…?」


「うん。ユミーっていう相棒が居たんだ。少し前に殺されたんだけどね。青の騎士…っていえば分かるかな…?」


「青の騎士…」

その名前も聞いたことはあった。

最強の殺し屋の一人だと…


どっちが強いのかは未だにわからないけど…


「そんでユミーが殺された時、俺はまあ、その業界から足を洗うことにして、そんで、今は昔からずっとやっている、地を這う車の修理屋さ。」


「なるほど…傀儡教とは何か関連が…?」


フィクサーは少し黙りこんで、少し間をあけた後、口を開いた。


「ユミーを殺したのが傀儡教だよ…あいつらには、少しだけ、まあ、何だろうね…復讐心というのがあるのかも…」


「なるほどな…そういえば、夜っていつになったら明けるんだ…?」


「え?明ける?どういうこと?」


「え?あ…朝が来るってことだが…」


「朝?何それ…」


「ああ……太陽ってので地面が照らされて、光に包まれる…」


「太陽…?僕らをいつも照らしているのはお月様だけじゃないか。太陽なんてよそものは知らないよ?」


(確定だ…この世界には夜しかない…)


「まあ、いいさ。君…一体どこから来た人なの?服はなんか最近のファッションを入れてるみたいだけど、そんな粗悪品の銃を持っている人なんて、怪しいよ?」


「え?こ、これか?」


カントウは、1万で買った銃をポケットから出す。


「そうそう。ヘルメスだよヘルメス。そんなものよりも、そのメドューサを使った方が良いよ。」


「め、メドューサ!?」


「そうそう。さっきあげた銃。」


カントウはホルスターと一緒になって渡してくれた銃を出す。

確かにメドューサの刻印が施されていた。


「本当に…この世界はよくわからないな…」


「そんな、異世界から来たみたいな言い方するんだね。」


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「着いたよ。」


しばらく車を走らせていると、暗い道の中へと入り、そしてその中で急に車を止め、そしてフィクサーはそう言った。


寝ていたカントウは目を擦って起き上がる。

夜は明けない。


「ここは…?」


カントウが質問しながらドアから出ると、そこには、薄気味悪い一つの家が人気の無い商店街の中に立っていた。


「傀儡教。少し鬱陶しいし、ちょっとだけ潰そうかなって思ってさ。」


「は!?そ、そんなコンビニに行くのとは訳が違うんだぞ!?」


「でも、強盗するのと同じ感覚でしょ?じゃあ、銃があったら大丈夫だよ。」


カントウは頭を抱えて、苦い声を漏らすと、「弾薬は?」と聞く。


「ああ。ちゃんといっぱい持ってきたよ。100人は殺せるね。」


カントウは銃口に重心の集まったメドューサを握る。

さっき教えてもらったやり方では、コッキングは必要ないらしく、温度が上昇するとオーバーヒートするようだ。

そして、トリガーを長押しすることによって、一本のレーザーを放つことができる。

そのレーザーはトリガーを離さなければずっと放たれたままらしい。

ちなみに弾丸はこの重くなった重心を一度外し、新しいカートリッジを装填することで、リロードができる。

反動は偏った重心のおかげで制御しやすい。


カントウは、念のため、カートリッジを交換すると、「よし」とだけ言った。


フィクサーは薬室にある弾丸を確認する。

「それじゃあ、行くよ。」


そういうと、H&K45を両手で抑える。


その商店街の家はシャッターによって閉じられていて、まあ、普通なら通れる訳がない。


しかし。


「そんじゃ、お願いね。」


「はいよ!!!」

カントウは銃を構えると、トリガーを長押し、そして、円状にシャッターをくり抜く。人一人分ほどが通れる穴が開くと、その中にフィクサーがなんの合図もなく飛び込んだ。


「って!!!おい!!!!」

次の瞬間、穴から響く6回の銃声。


穴の中…傀儡教の中へと入ると、そこには6人の死体が転がっていた。

「え、えぐいなお前…」


「そう?この街じゃ当たり前の光景じゃない?」


(こ、この街はスラム街かなんかかよ…)


「それよりさ、あれ。」

フィクサーが指さした先。狭い傀儡教のスペースの奥に、少し大きめの幅の地下鉄につながっていそうな階段があった。


「ここは入り口ってわけね…」


「そんじゃ、行きましょか〜」


「っておい!!!!」


フィクサーは敵がいるかもしれないというのに、ぐいぐいと攻め込む。

そして、下の方へと着くと、そこには駐車場のように広く、そして所々にドラム缶のようなものが転がっており、そこでカジノのようにゲームをしている傀儡教のメンバー。


パッと見でも20人以上は居る。


そして、迷うことなく、片端から傀儡教の頭を貫いていくフィクサー。

その異常さから敵ということを認知した傀儡教の残ったメンバーは、ドラム缶に隠れる。


「カントウくん〜」


「クッソが!!!!」

そう言いつつカントウはドラム缶に向かってレーザーを放った。


ドラム缶の中は何かしらの液体が入っており、火炎性のレーザーでは歯が立たない。


(液で満たして銃弾も防げるってか!?クソが!!!!)


だが、そんなことなど気にせず、元からドラム缶などなかったようにフィクサーは弾倉を取り替えて、少しでた頭を貫く。

傀儡教に攻撃の余地すら与えずに撃ち込む。


「がは!!!!!」


わずか20秒。


ほぼ全ての敵を片付けるまでそれほど時間を要さなかったようだ。


「は、早すぎだろ…」


「まあ、これでも元最強の殺し屋だからね。こんな初心者よりもよっぽど銃の扱いには慣れてるもんだよ。」


フィクサーは振り返り、そして、その先の一つの扉に向かう。


「行くよ。」


「はいよ」


カントウとフィクサーはその先の扉を蹴ると、そこには長い廊下があった。

廊下には一定間隔で扉が並んでおり、そしてその一番奥には特別大きい扉がある。


「多分だけど一番奥の扉。そこがボス部屋だよ。」


「まあ、だろうな…」


カントウはカートリッジを交換する。

先ほどの死体には替えのカートリッジが何本もあって良かった。


扉に近付き、そしてその奥へと進むベく、フィクサーは2枚の大きな扉を開いた。


とすぐにカントウの目に入ったのは白衣を着た科学者のような人物だった。

そして、その科学者は言う。


「おかえり、カントウ。いや、実験体M693。」


白衣の科学者はこちらに踵を返すと、その何も無いのっぺらぼうの顔を見せた。

「うわー…キモォ…ってカントウくん?」


カントウは黙っていた。

なぜか、なぜ黙っていたのか…

それは、なぜかこいつを見た瞬間、何かの記憶が流れ出したからだ…


それは、雨の日だった…

傀儡教に追い詰められ、路地裏で傀儡教によって拘束され、そして一つの大きな液体で満たされたカプセルに入れられる。


そこから電気を流されたり、頭に変なチューブを通されたり…最悪な苦痛を味わった日々…


「な、なんだこの記憶…」


「ん?何かあったの?」


「わからない…でも…感じたことのない記憶が流れてくるんだ…」


研究者はニヒルに笑った。


「な、なんだよ…」


「いや、まあ、君の魂はすでにこの世にはなかったはずなんだけど…まさか、その魂とは別の魂が呼び込まれるとはね…」


(現世では違っていた服…パラレルワールド…別の魂が呼び込まれる…まさか!!!!)


「こ、この世界の俺は…すでに魂が死んでいて…そして俺が呼び出された…そう言うことか!?」


科学者は、「そういうこと」と呟くと、科学者の背後にあったカプセルに付いていたボタンを押す。


「君はさ、傀儡教…いわゆる傀儡かいらいを作り出すための被験体だったんだ。結果的に、君はコントローラーとしての役割を負ってもらうことになってしまったけどね。」


「ど、どう言うことだよ!?」


「死人を復活させ、そしてUNDEBTアンデットとして傀儡を操るコントローラーになってもらおうと思っていたんだ。さっき殺された傀儡教のメンバーを一生死なない怪物として街に放ち、恐怖で満たそうとしようと思っていたんだ。まあ、途中で実験が失敗して、なぜか君の魂だけが持って行かれたんだけど…まあ、神の領域に手をつけた罰ってところかな…まあ、でも今度はきっと上手く行く。」


科学者はポケットに突っ込んでいた両手を出して、腕を広げる。


「さあ、実験を始めようか。」


科学者の言った言葉の次に、カントウの頭に何かが走った。

それは電気のように、何かの快楽の一種のような感覚だった。


(俺は…あそこに行かなければいけない…)


科学者の元へとカントウは一歩踏み出す。


「抗えねぇ!!!!!」

一歩。また一歩。


「カントウくん?大丈夫?」


「ああ!!!くそ!!!!」


(このまま行ったら…!!あいつの言うことが正しいのなら!!!!街にUNDEBTが!!!!!!)


「フィクサー!!!!撃て!!!!!」


「え?良いの?」


抗おうとしても足は踏み出されてしまう…段差を一歩一歩、強制的に踏み出させられる…


「早くしろ!!!!!!」


「………わかった。」

次の瞬間、2度、銃声が響いた。


1発目はカントウの心臓。

2発目は科学者の心臓に。


そして、カントウはその場に倒れ込んだ。

(クッソ…意識が…クソが…)


カントウの意識が薄れていく。

死に向かって行くカントウの体。


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「さてと…これで、特殊体質。傀儡をゲットしたわけか。」


静かになった傀儡教の実験室の中。


俺は呟いた。


まさか、こうも簡単にゲットできるとは思っていなかった。


傀儡教の中で一番最初に科学者、ヤミィの目論見に気づき、そして、実行できたこの俺は本当に運が良いな。


「おい…フィクサー…!計画は…連れてくるだけ…だっただろうが…」

地べたを這う科学者は言う。


俺はその科学者の頭に全体重を乗せると、科学者はグギギと歯を鳴らした。

「あ、えーと、確か計画って傀儡教を全員殺してアンデット作って世界征服?でしたっけ。ああーすいませんね〜俺も傀儡のような操り人形にされちゃ嫌なんで〜」


「裏切った…な!!!!!」


「ええ…そりゃあ裏切りますよ…だって僕は…フィクサー黒幕…なんですから。」

そう言いながら、被っていた老人の皮を剥ぐ。


ある日、青の騎士が殺された。


それは、死者を操れるという傀儡教の計画を知った時だった。

操れるのは死者限定。

ならば最強の殺し屋を殺せば、絶対に死なないUNDEBTが作れる。


俺の狙いは世界征服なんてちっぽけな話じゃ終われないんだ。


「別に魂は誰のでも良いんですよね?確か。」


俺は赤い髪を晒し、そして、地べたに這いつくばる科学者を持ち上げた。


「おい!!!待て!!!!まだ俺以外いくらでも居るだろ!!!!そ、それに俺はエンジニア、傀儡教トップだぞ!!!!俺がいなければ…」


「そしたら他の科学者に頼むさ。」


俺はそう言いながら、二つあるカプセルの内の一つに投入した。


「そんじゃ、魂の媒体となってくれね〜」

そして俺はもう一つの方のカプセルにカントウくんの死体を入れる。


「これでポチッとな!」

そして、科学者の悲鳴がカプセルの中で鳴り響く。


ユミーの死体はちゃんと管理してあるんだ。


「があああああああああああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ…………………」


息絶えたのか、科学者の悲鳴は途絶える。

そして、それと同時に、カプセルの横にあった棺桶のような箱から、一人の人間…いや、ゾンビが放たれた。


「おはよ…ユミー。それじゃ、俺のために、これから働いてもらうよ。」


「………了解しました…マスター

開くその瞳は赤く染まっていた。


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「う…うぐぅぅぅ…」


カントウは目を開く…

目を開いた先…そこは太陽の光によって照らされた明るい路地…


「こ、ここは…?」


手元にはグロック。


「ま、まさか…夢…?」


服装は…最初に傀儡教に襲われた時と同じ……


そして、腕にはしっかり銃弾の痕が…


「も、戻ってきたのか…」


心臓には穴は空いていない…


(いや、ただの夢…だったのか…?)


カントウは立ち上がると、その痛む腕を抑えながら立ち上がる。


「か、帰るか…」


カントウは立ち上がると、千鳥足で帰宅路に着いた。

(痛てぇ…)






「さてと…一体全体、あっちの世界線のフィクサーは何をする気なのでしょうか。」


アシンは一人呟く。

そして胸元のポケットを開く。


「なるほど…フィクサーもなかなかの悪党ですね。さすがです。」


アシンは感心したようにニッコリと笑顔を浮かべる。


「おっと。これはまたの別のお話でしたね。それでは。」


アシンは笑顔が真顔かと思うほど、表情を崩さずに立ち去る。


起眞市は今日も表面上の平和を保っていた。













起眞市サブストーリー


KILL &RUN 終わり

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