最終話 幸せな未来は俺達の手の中に
本当に色々あった。
色々間違えて傷付いて、悩み苦しんで…… 俺達は今、こうして一緒に生活している。
だけどこうして幸せになってから思い返すと、穂乃果は俺達を仲直りさせるためにと誰よりも先に前を向いていたんだな……
『パパとママがケンカした』と言っていたが、勘の良い穂乃果の事だ、俺達に何があったのか薄々気が付いていたのかもしれない。
それでも何としてでも俺達を仲直りさせようと、葉月に頼ってまで穂乃果なりに頑張ってくれたんだと、改めて穂乃果に感謝している。
一歩間違えれば更に穂乃果を傷付けるような行動をしてばかりだったが、穂乃果のポジティブな明るさに、俺達は本当に救われた。
ただ、それだけ穂乃果に気を遣わせ、ある意味大人にしてしまったんだと申し訳なくも思う。
「パパぁー、どうしたのー?」
「えっ? あぁ…… 穂乃果達がいて、パパは幸せだなーって思ってたんだよ」
「えへへっ、あたしもー」
でも、いくら周りの子供よりも大人っぽいからといっても穂乃果はまだ小学生で、まだまだ甘えん坊だ。
今もソファーで福乃助にミルクをあげている俺の隣に座り、ベッタリとくっつきながらミルクを飲む福乃助の様子を眺めている。
「おっ、もうお腹いっぱいかな? じゃあ穂乃果、頼んだよ」
「はーい! 福乃助ー、お姉ちゃんが抱っこしてあげるねー?」
そしてミルクを飲み終わった福乃助をゲップが出るまで穂乃果が抱っこしてあげている。
「ふふっ、また穂乃果が抱っこしてくれているの? 良かったね福乃助」
そんな穂乃果達の姿を見て、楓は幸せそうに笑っている。
穂乃果がいたからこそ楓はあんなに辛い出来事があっても何とか持ちこたえて生きていられたんだと思うが、福乃助を身籠り、そして誕生してからは母親として、子供達を守るために精神的に更に強くなったように感じる。
突然泣き出すような事もなくなり、完全にではないが楓本来の明るさが戻ってきた。
しかもかなりの甘えん坊にもなって、更に可愛く感じるようにもなった。
「大樹さーん、あはっ、実乃梨はお腹いっぱいになって寝ちゃいました」
葉月も…… 辛い期間が長く、楓以上にすべてを諦めてしまうくらい追い込まれていたんだろうが、一緒に暮らすようになって、実乃梨が生まれてからは、更に幸せになったと言ってくれるようになった。
あの時葉月と出会わなければ、俺達はどうなっていたんだろう?
それぞれ苦しみに耐え切れず、誰かが人生を諦めていた可能性だってある。
そんな事にならずに済んで本当に良かった…… だからこそ、この幸せを守らなきゃいけない。
あれから鬼島会長からも定期的に連絡が来るようになった。
言っていた通り、俺達家族を気にかけてくれているみたいでありがたい。
そして八百井達の近況も教えてくれて、どうやら引き続き遠い海の上で償うために働いているらしい。
慰謝料として既にかなりの額が振り込まれていて、それは俺達の将来のために貯金していると楓が言っていたな。
楓も思い出したくはないだろうが、八百井の名前を聞いても怯える事はなくなったので少し安心だ。
「さて…… そろそろ明日の準備しないとな」
「ふふっ、そうだね」
「楽しみですね!」
本当に色々あった。
だけど俺達は俺達なりに幸せになろうと努力して、今の幸せを手に入れたんだ。
…………
…………
はぁぁ…… 緊張する……
今日は羽比町の外れにある小さなチャペルに来ている。
このチャペルは五年前くらいに完成したらしく、外観も内装もとても綺麗だ。
このチャペルのオーナーは鬼島グループで、親戚のためにわざわざ建設したとか言っていた…… さすが大企業、こんなものをポンと建ててしまうんだから。
……その話は今はしなくてもいいか。
じゃあなぜ今日、俺達がこのチャペルに来ているかというと、それは……
「ふふっ、おまたせ……」
「あはっ、大樹さん、どうですか?」
「おお…… 二人とも…… 凄く綺麗だよ」
俺達は今日、結婚式をあげるためにこのチャペルに来たんだ。
純白で同じデザインのウェディングドレスを着た二人が、それぞれの父親に付き添われて、祭壇のある壇上で待っていた俺の元にゆっくりと歩きながらやってきた。
花嫁が二人という特殊な結婚式だから神父さんも頼んでいないし、いるのは身内だけでスタッフさんすら二、三人しかいない。
でも、せめて形だけでもいいから、二人にはウェディングドレスを着せてあげたかったんだ。
楓と結婚した時はすぐに穂乃果がお腹にいる事が分かってそれどころじゃなく、いつか落ち着いたら式を上げようと話していただけで、その後あんな事になってしまったから、結婚式どころかウェディングドレスすら着せてあげられなかった。
だから今回は、正式にやるには複雑な家庭で育児もあるし準備も大変で時間的に難しいからと、せめて結婚写真だけでも撮っておこうと思っていたら…… 鬼島さんのご厚意で、このチャペルを使用させてもらえる事になったんだ。
「パパー! あたしはー? どう? 綺麗ー?」
「うん、穂乃果も凄く綺麗で可愛いよ!」
「えへへーっ!」
穂乃果も白いフリルがたくさん付いたドレスを着て楓と葉月の前を歩き、カゴの中に入った花びらを撒いて二人を先導して歩いてくれた。
「大樹くん、私達より穂乃果の方がリアクション大きくない?」
「そーですよ! こんな可愛い花嫁さん二人もいるんですから、もっと反応して下さい!」
「ごめんごめん…… 二人とも、本当に綺麗だ……」
「ふふっ、ありがと」
「ありがとうございます!」
そんな俺達のやりとりを、ベンチに座って見守る家族や友人などがクスクス笑っていた。
友人といっても俺達家族の事情を知っている、草薙くんに柑奈さん、あとは管理人さん家族と、ご近所の若い夫婦くらいだけどな。
実乃梨と福乃助はそれぞれ葉月と楓のお母さん達に抱っこされて、今の所大人しくしている。
「さて…… じゃあ、指輪の交換をしようか」
「うん!」
「はい!」
新しく作った俺達三人のための結婚指輪。
シンプルな銀色のリングに外側には小さな葉っぱの模様が描かれ、内側には『D』『K』『H』と三人の名前の頭文字のアルファベットが彫られている。
それを俺が楓と葉月に…… 俺には、楓が俺の手を支え、指に葉月が指輪をはめてくれた。
「次は…… 誓いのキスか」
「そうだね」
「あはっ」
そして俺は二人のヴェールを上げ……
「今まで大変だったけど、絶対に家族を守って幸せにする…… だから、楓、葉月…… これからもずっと一緒にいて欲しい」
「私も…… 色々迷惑かけたけど、みんなでずっと一緒にいたい…… これからもよろしくね」
「あたしは大樹さん達に救われました、だからこの先も一緒にいたいですし、みんなでもっと幸せになりたいです、これからもよろしくお願いします」
そして…… 家族に見守られる中、俺達は誓いのキスをした……
それからチャペル内にある別の会場に移動して、みんなで食事をしながら、みんなに祝福の言葉をたくさんもらった。
「あら、福乃助…… よしよし……」
「実乃梨ー? あはっ、リボンを口に入れちゃダメだよー」
式を終えてから実乃梨と福乃助がぐずり始めたので、ウェディングドレス姿で食事をしつつ子供達を抱っこする楓と葉月。
そんな二人の顔はいつも以上に幸せそうに見えた。
「パパ、あたしこれ食べたーい」
「これ? はい、あーん……」
穂乃果は俺の膝の上に座り、素敵なドレスを着させてもらって今日はお姫様気分なったのか、俺に食べ物を取らせては食べさせろと口を開けて待っている。
そして一口食べると嬉しそうに俺の方に振り向いて笑っていた。
そんな俺達家族の姿を、みんなは優しく微笑みながら見つめていた。
最初は写真だけのつもりだった。
でもこうしてみんなに祝福してもらえたことで、改めてみんなが一緒にいてくれて本当に良かったと心から思えた。
…………
…………
「穂乃果ー、早くしないと学校に遅れるよー?」
「はーい! じゃあ行って来まーす!」
「大樹さんものんびりしていたら遅刻しますよ!」
「おっと、俺も急がないと! 実乃梨、福乃助、パパはお仕事に行って来るからねー」
「あぅ、ぱぁぱ、ばいばい」
「…………」
「ははっ、実乃梨バイバイ、福乃助はおねむみたいだな…… じゃあ二人とも行って来るよ」
「「行ってらっしゃーい、頑張ってねー」」
子供達に構っていたら時間がギリギリになってしまった!
そして玄関で靴を履き、ふとシューズボックスの上に飾られている写真に目をやると、そこには……
満面の笑みで福乃助を抱く楓と実乃梨を抱く葉月、その間には笑顔でピースする穂乃果とその後ろに、そんな家族の幸せそうな顔を見て嬉しそうに笑う俺が写った家族写真が飾られていた。
この笑顔を、俺はこれからも全力で守っていく。
妻に不倫されて離婚したシングルファーザーの俺と、大人のお店で出会った彼女と…… ぱぴっぷ @papipupepyou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます