第3話 ゲスト:委員長


 店のドアがゆっくりと丁寧に開かれた。


「こんにちわー?dedeさんいらっしゃいますかー?」


 高校生くらいの女の子がよく通る声で訪ねた。


「やー、委員長。入って入って。座って座って」

「あ、はい」


彼女は丁寧にドアを閉めるとカウンターの席に座った。


「あのーdedeさん?」

「なにかな、委員長?」

「その、仕方ないと思うんですけど。私、dedeさんの委員長だった事はないですし、今は委員長でもないんですよ?」

「あ、今高校生だっけ?」

「はい、無事志望校に入れました」

「おお、おめでとう!じゃ、お祝いも兼ねて今名前決めちゃおう!!」

「え」


dedeの急な提案に不穏な空気を感じた彼女は、焦り始める。


「あの、少し悪戯心が過ぎただけで本気で思ってた訳じゃないですし。ほら、あだ名みたいなものでしょ?いいじゃないですか、今更名前なくても」

「いや、でも名前ないと困るでしょ?」

「いえ、困りませんよ……え、困る事態になるんですか?え、もしかして」

「続編」

「ちょっと!?」


突然彼女は立ち上がると思いっきりカウンターを手で叩いた。


「あ・れ・だ・け!あれだけ佐藤さんには続き書かない書かないって言ってましたよね!」

「いやー、佐藤さんはほら。アレコレ理由つけたけど、性格的に幸せになれそうにないのよねー?」

「佐藤さんにチクりますよ!?そこをどうにかしてくださいよ!?手腕で!!」

「手も足も出ないよ。まあ、実際一番ありそうなの委員長の続編なのよね」


彼女は思いっきり首をブンブンと振る。


「望んでませんって!私幸せですから!果報者ですから!大丈夫ですから!むしろ続編なんて書かれたら佐藤さんとビィさんに恨まれて不幸になれますから!」

「いや、でも、委員長さ」

「dedeさん」


急に彼女は声のトーンを落として、静かな声で言った。


「私、本当に幸せですから。だから大丈夫です。あ、それよりビィさんから伝言承ってます」


dedeが背筋を伸ばした。


「聞きましょうか」

「あのですね、『もう知らん』って言ってました」

「めっちゃ怒ってるじゃん!?」

「いえ、その、補足情報がありまして……部屋の隅っこで体育座りして小さな声で言ってました。『もう知らん』って」

「めっちゃ拗ねてるじゃん!?」

「あの、本当に私の事はいいんで。もっとビィさんに構ってあげてください」

「善処します。あ、そうだ。ごめんごめん。飲み物出してなかったね?何飲む?」


ようやく彼女は再び椅子に腰を下ろす。少し悩んだ後


「スムージーとか野菜ジュースって置いてあります?」

「え?そんなんでいいの?」

「これでも美容とか健康、結構気にしてるんですよ。最近肌荒れが気になってて」

「今でも十分綺麗だと思うけど。まあ、わかった。トマトジュースとキャロットジュース、どっちがいい?」

「まさかの二択!?一つでもあればいいぐらいに思ってたのに」

「あっはっははは。健康茶はもっと種類豊富だよ?ハブ茶にルイボスティー、コーン茶にびわ茶。ローズヒップティーとかにする?」

「あ、いや、その、トマトジュースで」

「じゃ、ウチも飲もうかな」

グラス二つにトマトジュースを注ぐ。片方は手元に、もう片方はコースターを添えて彼女の目の前に置いた。

「乾杯」

「はい、乾杯」

二人してグラスを傾けるとコクコクと喉を鳴らす。


「それにしても、なろう小説から主要な話、全部持ってきちゃいましたね。『金魚鉢の人魚姫』に私たちの話も移ったら、あとはビィさんの話ぐらいですよね。持ってくるんですか?」

「え、ヤだよ?」

「そうなんですね。それじゃビィさん、益々拗ねそうだなぁ」


dedeは思ってた反応が返ってこなかったので少しだけ寂しさを覚えた。


「私たちの話も、影響を受けた楽曲があるんでしたよね?」

「super cellさんの『Today Is A Beautiful Day』ってアルバムね。一番影響受けたのは『LOVE & ROLL』だけど、まあ、酔恋ほど組み入れてないから。聞いてないと分からないって事はないよ」

「あ、そうなんですね」


少しホッとした様子の委員長。


「普通に意味が分からないだけだから」

「ダメなヤツじゃないですか」

「そもそも書き始めたキッカケが『インラインスケートっ娘の魅力と可能性を模索する活動の一環』だったから」

「え、なんて?」

「『インラインスケートっ娘の魅力と可能性』。youtubeのコメント欄でインラインスケートを履いてる女の子が可愛いと盛り上がって、つい」

「ついって……そもそも4話あっても、履いてたの1話だけですよね?あ、いや、もういいです」


dedeは女子高生に残念なものを見る目つきで見られていた。


「そういえば、dedeさん」

「ん?」

「残念ついでにもう一言いいですか?」

「いいよ」

「ゲスト、女性ばかりですよね?やっぱり女の子がお好きだからですか?」


委員長の目つきは先ほどから変らないままだった。


「いやー、それが。今回改めて来店してもらう人選別してて気づいたんだけど。男が女の子に較べて個性に乏しくて」

「個性」

「キャラが立ってないというか。正直描き分けられる気がしなくてねぇ。今後の課題だなー」

「案外普通の事考えてたんですね。驚きました」

「おっと、普通な事を言って女子高生を驚かせてしまった。でさ、女子高生さん?」

「どうしたんです?dedeさん」

「続編、本当にいらない?」

「dedeさん。蛇足ですよ?」

「そっか」

「あ、でも名前はやっぱり頂いてもいいですか?さっきも言いましたけど、もう委員長してないですし。あの二人も放っておくといつまでも委員長って呼びそうですから」

「わかった。ちゃんと考えておくね」

「お願いします」


そう言って彼女はグラスに残ったトマトジュースをグーっと一気に飲み干したのだった。


「それじゃあ、この後約束あるので」

「あの二人?」

「はい」

「行ってっらしゃい」

「はい」

そう言って柔らかく微笑むと、彼女は来た時のように静かに扉を開けて店を出て行ったのだった。


という訳で『レディ、スターター』から、委員長でした。

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