第2話 ゲスト:佐藤さん


「たのもー。あ、本当にdedeさんいた。久しぶりー」


 勢いよく店の扉が開くと一人の女性が姿を見せた。大学生ぐらいだろうか?


「久しぶりー佐藤さん」


 dedeは挨拶を返す。佐藤さんと呼ばれた女性はカツカツと店の中を進むとカウンターに座る。


「ひとまずナマ」

「うち、一応カフェの体裁なんだけど?」

「でもあるんでしょ?」

「いや、あるんだけどさー?」


 そうブツクサ言いながら、dedeは冷蔵庫から瓶を取り出すと栓抜きで蓋を開ける。そして小洒落たグラスを選ぶとそれに注いだ。


「あ」

「相変わらず下手だなー♪」


 グラスの半分以上は泡だった。そしてグラスから泡が溢れていた。dedeは「ごめんね?」と零しながら布巾で拭いている。

 見ていた佐藤さんはカウンターから身を乗り出すとグラスと瓶ビールを奪い取った。


「いいですいいです。それより、ほら、dedeさんも。それともなんです?車だったりします?」

「違うけど。一応お店開けてるから」

「なら大丈夫ですって。私以外どうせ来ないですって。ほら、ほら?」


 dedeは苦笑いを浮かべる。


「じゃ、少しだけ」


 dedeもグラスを選ぶと佐藤さんに向けた。ニタリと笑った佐藤さんはそのグラスにコポコポと注いだ。こちらは泡3割といったところか。


「じゃ、乾杯」

「ええ、かんぱーい」


 チンっとグラスを鳴らすと、双方喉を数回こくんこくんと鳴らす。佐藤さんはぷはーっと口元を拭った。dedeも一息つく。その様子に佐藤さんはフフッと微笑んだ。


「どうしたの?」

「いやー、この間来てた梨早ちゃんって子とは随分態度違うなって思って。緊張してました?」

「そりゃまあねー。身内ほどは砕けた態度取れないって。特に君とビィはウチも話しやすいんだよね」

「お。dedeさん、嬉しい事言ってくれるぅー。あ、そうだ。そのビィさんから伝言」

「なんて?」

「『書くか死ね』って」

「……めっちゃ怒ってる」

「静かにキレてましたよー?まあ、半年放置ですから。頑張って write or fight してくださいね?いや、この場合 write and fight かな?あ、おつまみくださーい」


 そう言って佐藤さんはまたクピクピとビールを飲む。dedeは冷蔵庫から奈良漬けと沢庵と海苔を取り出して皿に盛りつけるとカウンターの上に置いた。


「なんですかこのラインナップ」

「冷蔵庫にあるすぐ食べれるのこれぐらいしかなくて。沢庵と海苔は手巻き寿司の残りな?」

「……まあいいか」


 佐藤さんはポリポリ沢庵を齧ると「うま」と呟いてまたビールを煽った。


「それにしても、どうしたんです急に?」

「なにが?」

「なろう小説からカクヨムの方に移動させるだなんて?分けてたじゃないですか?」

「ああ。そのこと」

「コメントも評価もできない設定にしてたんです、今更誰かにもっと見て欲しい訳でもないですよね?」

「正直カクヨムだけでよく読むヤツまとめて読みたい」

「ああ、dedeさん自分で書いた話よく読んでますもんね。自己愛強いですもんね?」


 なんだか憐れむようなさげすむような表情を浮かべると、無言で空のグラスを差し出してきた。それにdedeも無言でビールを注ぐ。今度は泡1割。


「まあ、あと。『ぼっちざろっく』を映画館で観て、初期の頃の恥ずかしい話をカクヨムの方に置いてないのはフェアじゃない気がしてねぇ」

「恥ずかしい!?私、今恥ずかしいって言われてました!?」

「君たちは恥ずかしくない。恥ずかしいのはウチの書く力の方。むしろ上手く書いてあげれなくてゴメンね?」

「じゃあ続き書いてくださいよ?」

「え、ヤだよ?」


 断られると思っていなかった佐藤さんはショックを受ける。


「なんで!?「3月は失恋シーズン」の方は続き書いてたじゃないですか、ボツになりましたけど」

「他に書くのがあるし。ビィ怒ってるし。ちょうどいい楽曲見つからないし。あとビィ怒ってるし」

「ビィさんの顔色滅茶苦茶気にしてますね。あー、私たちの話って『和ぬか』さんの楽曲が元ネタなんでしたっけ?」


 dedeはコクリと頷く。


「いやー、ネタに走り過ぎて曲知らないと1/4も伝わらないと思う」

「純情な感情よりも伝わってませんよ!?」

「その例えも曲が30年近く昔だから伝わらないと思う。それ以外にも自分にしか分からないネタがふんだんにあるから、何これってなると思う」

「よくある独りよがりな小説だ!!」

「でもウチの成分全部乗せだから。意味はあるんだよ。欲張りすぎなのと書き方が分かってなかったからなと後悔は多いかな」

「じゃ書き直してUPしましょう」

「え、ヤだよ?」


 断られると思っていなかった佐藤さんはショックを受ける。


「なんで!?今の流れなら書き直してくれてもいいじゃないですか!!」

「だったら新しく別の話書くし。その時の事がなかった事にされる気がして、ヤじゃない?」


 そう言われて佐藤さんは「ムムム」と唸る。そして、諦めたようにため息をつく。


「もーいいですよ。で、なろう小説から全部持ってくるんですか?」

「んー、ウチがよく読むのだけかな?それもいつ持ってくるのか決めてないや」

「無計画ですね。でもよろしいんじゃないですか。dedeさんにしか需要ないんですし」

「そうだね。それじゃ、そろそろお開きにしようか?」

「え、ちょっと待ってくださいよ。私まだ2杯しか飲んでません」

「え?まだウチで飲んでく気だったの?出せるおつまみもそれぐらいしかないよ?」

「あ、そうですよ。手巻き寿司。二人で手巻き寿司パーティーしましょ?」

「えー?」

「すしのこ!まだたくさん余ってますよね!減らすのに貢献してあげますよ!ほら、卵焼きとか具材準備してください。飲みながら待ってますから!」

「えー」


 そう不満を言いつつ、それでも一人でない手巻き寿司パーティーだという事で少しだけ嬉しそうなdedeなのでしたー(今日のわんこ風)。



 という訳で、『酔恋すいれん』から佐藤さんでした。

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