dedeのお店

dede

第1話 ゲスト:梨早さん


 カランと音が鳴ると扉が少し開いたのでdedeは扉を見た。するとその隙間からひょいと可愛らしい小顔が覗き込む。烏の濡羽のような髪が肩からするりと落ちて揺れていた。


「……こんにちわ。ここがdedeさんのお店で合ってますか?」


 それにdedeは少し緊張した表情で答える。

「あ、はい。合ってます合ってます。梨早さん……で、いいんですよね?初めまして。いらっしゃい」

 梨早はその返事にようやく扉を更に開けて店内に入ってきた。

「はい、初めましてdedeさん。お邪魔します」

 ぺこりと頭を下げる。顔を上げるとしゃんと背筋が伸びた礼儀正しいお嬢さんだった。

「ま、座って」

「はい」

 dedeはぎこちなくカウンターにある椅子を一つ引く。そこに彼女は座る。dedeはその後慌ててカウンターの中に戻った。

「あ、何か飲みますか?」

「はい。……あの、もしかしてdedeさん緊張してますか?」

「あ、あははは。分かりますか?若いコと直接会って話す機会なんてないですし、初対面ですし。割と緊張してます。逆に梨早さんは緊張してなさそうですね?」

「私の方が年下なので敬語は止めて欲しいかもです。その、緊張……私も少しはしてますよ?でも、カクヨムでお話や近況を幾つか読ませて貰いましたから」

 dedeは苦笑いを浮かべる。

「うーん、わかった。それで、どう?イメージと違ってたかな?」

 梨早は思案する。

「そうですね……やっぱりアロハシャツなんですね?」

「スーツの方が良かったかな?」

 梨早は首を横に振った。

「アロハシャツの方が話通りで落ち着きます。それにメガネなんですね?」

「ああ、それは近況に書いてなかったかも?」

「それに……」

「オジサン、だね。女装してた方が良かったかな?」

「それはさすがに……」

「あ、飲み物結局何がイイ?紅茶はダージリンとかアールグレイとかベタなのはあるよ。でも淹れ方は下手だから期待しないでね。珈琲は市販のしかないかな。他は牛乳とトマトジュースぐらいかな?」

「喫茶店なのに、珈琲は市販品なんですか?」

「ココ、雰囲気作りで借りてるだけだから。ウチも初めて来たんだわ」

「『ウチ』?近況では一人称『私』でしたよね?」

「ああ、友達や家族相手だと『ウチ』を使ってるんだよね。一応はココはプライベート空間という事で。『オレ』って、そういえば小学生高学年の時に少し使ったきりだったなぁ」

「へえ、そうなんですね」

「あ、で結局飲み物は?」

「それなんですけど、最近近況にジンジャーエールを投稿してましたよね?あれ、いいですか?」

「え、結構辛いけど平気?」

「そんなにですか?でも、気になってたんですよね」

「じゃあ、ちょっとだけ味見して、平気そうなら足そう」

 dedeは冷蔵庫からシロップと炭酸水と氷を取り出すと、梨早の目の前で少量グラスに注ぐ。

「どうぞ」

「頂きます」

 梨早はグラスを両手で受け取ると、口をつけてゆっくりと傾けた。

「!?」

カッと見開かれた目に涙が溜まっていく。

「辛いです!!水ください!!」

「こっちの方がいいと思うよ」

 そう言って今度は牛乳をグラスに注いで渡す。それを慌てて梨早は飲み干す。

「ぷはーっ。dedeさん、これは結構なんてものではないです、かなり辛いです」

「ごめんネ?」

「なんでこんなの飲めるんですか?……飲み続ければ慣れますか?それとも、大人になれたなら、飲めるようになるものなのでしょうか?」

 梨早は未だ目の端に涙を浮かべたまま俯いて、ジンジャーエールの残ったグラスの淵を指でなぞる。


「いやー、ウチは始めから飲めたから」


 dedeは明るい声でそう答えた。薄っすらと笑顔すら浮かべている。

「大人になれば味覚も変わるかもだけど、無理に飲み続けるもんでもないよ。それにね……」

 そう言ってdedeは別のグラスにジンジャーシロップと牛乳と、それから砂糖を混ぜ合わせる。

「はい、騙されたと思って飲んでごらん?」

 梨早は受け取ったグラスに慎重に口をつけた。

「……あ。これなら飲めます。牛乳でだいぶ辛さが抑えられて、甘くて、……それに体の奥がじんわり温かいです」

 少しだけ、梨早の表情が和らいだ。dedeはウンウンと頷く。

「うん、それがショウガのイイところだよね。無理して飲むことはないけれど、工夫すれば美味しくなる事もあるから。まあ、何事も経験、かな?今後は手作りのジンジャーエールには慎重になれるね。って、中年っぽく人生訓みたいにまとめるよ。なんかゴメンね?折角来て貰ったのに自分の話ばかりで」

「いいえ。ありがとうございます」

 dedeは自分より遥かに年下の高校生に気を遣われた事を申し訳なく思いながら、右腕の腕時計を確認する。

「じゃ、そろそろ梨早さんの話を聞かせて貰おうか?教えて貰った話はカクヨムに書くかもしれないけど、平気かな?」

「はい、問題ありません。あれはですね……」





祐里〈猫部〉様の『プラズマに走れ、声』の登場人物、梨早さんとの対談の一コマでした。


プラズマに走れ、声

https://kakuyomu.jp/works/16818093082890661064


梨早さんからヒアリングしたお話は後日掲載予定(現時点ではまだ書いてる最中。仮タイトルは『オーロラの空耳が、聞こえる席でオチャしましょ?』)。

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