Lilith

 おそるおそる扉を開く。

 あんな悪魔に襲われるのはもうゴメンだ。

 慎重にあたりを見渡す。

 そのせいで、驚愕のあまり僕は悲鳴を上げるところだった。

 そこに人間がいると思ったからである。

 だが、それは人ではなかった。壁に飾られた肖像画だった。


 安全を確かめてから、部屋のなかへと立ち入った。

 肖像画は、かなり大きく、そこに描かれた人物は等身大と言えるような大きさであった。

 白髪の老婆が描かれていた。

 意思の強そうなまなざし。ひきしまった口元。

 年のころ六十ぐらいで、身なりはよく、藍色あいいろのケープのようなものを身に付けていた。膝の上で組まれた十本の指には指輪がはめられており、その台座の上には色とりどりの宝石が輝いていた。


 絵は古く、表面にはほこりが堆積していた。

 画風も時代がかっていて、この人物が西洋人なのか日本人なのか、判別しがたかった。

 古い時代にありがちな画風だが、それを裏付けるような証明が絵の右端にかきつけてった。


 明治30年4月21日 


 何者なのだろう?

 きっとこの屋敷の主人であったに違いない。

 あの悪魔となにか関係があるのか?

 どちらにしろ、彼女から直接その話を聞き出すことはかなわなそうだ。


 向かって右手――つまりは東の方向に扉があった。茶色い扉だった。

 僕は真鍮のドアに手をかけた。


・次に進む

https://kakuyomu.jp/works/16818093085371501586/episodes/16818093085395316315

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