Abaddon

 赤い扉に手をかける。扉のてっぺんから下の方まで目の覚めるような赤色だった。

 赤は警告の色だ。

 なにか危険がひそんでいるのだろうか?

 真鍮しんちゅうの取っ手を握るのがためらわれた。

 それでも僕は勇気をふりしぼり、扉を開けた。


 ぎいい。

 音を鳴らして、少しずつドアを開いた。

 またしても同じ作りの正方形の部屋に出た。

 部屋に入ると、突き当り――南側にドアがあるのが見えた。

 このまま、まっすぐ突っ切れということか。


 最初の一歩を踏み出したとき、猿のような鳴き声が右の方から聞こえてきた。

 視線を向けようとしたとき、強い痛みが喉に走った。

 叫ぼうとたが――がぁっ――悲鳴は、つぶされたカエルの鳴き声のような、力なくみにくい声色となって部屋のなかに鳴りひびいた。

 喉に何かが刺さっていた。細くて長いものだ。それが矢であることを認識するのに長い時間はかからなかった。


 ぎぎぎぎぎ……。

 猿のような鳴き声がふたたび聞こえてきた。

 僕の視線がとらえた。その生き物の正体を。

 そいつは子どものような背丈だった。赤子のようなしわくちゃな顔、豚の鼻、上半身は裸で、下半身は茶色く汚らしい被毛におおわれていた。まるで中世の戯画ぎがにあらわれる悪魔の姿そのものだった。

 手に持っているのは弓。

 いまや二発目の矢がつがえられているところだった。

 悪魔は耳まで張り裂けんばかりに笑った。赤茶色の歯肉から伸びた乱ぐい歯は黄ばんでいて、ところどころ赤茶色をしていた。


「ZDLKNKOM」

 意味のわからない音声が、悪魔の口からこぼれる。声は甲高く、まるでバイオリンの最も高い音をならしたかのようだった。

 悪魔が弓を引きしぼる。またわけのわからない言葉を言って、笑い声を上げる。

 身をかわそうとして、それが無駄であることを知る。喉からあふれ出た血が僕の体の前面をしとどに濡らしていた。どっちにしても僕は死ぬ。

 そして矢が飛んだ。

 僕の額に突き刺さったと思ったとき、そこですべてが終わった。



 BAD END




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https://kakuyomu.jp/works/16818093085371501586/episodes/16818093085373197789

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