原石を輝かせる方法(ショート)
隅田 天美
原石を輝かせる方法
部屋の中に、銃声と火薬独特のにおいが満ちる。
シューティングルーム。
地下射撃場である。
豊原県には所謂公の狙撃場は一か所しかない。
だが、ここは違う。
違法に作られたもので厳重な防音とセキュリティーで大抵の市民たちは知らない。
知っているとすれば、裏社会の人間だけである。
ポー・スポークスマンのハンドガンを構える姿は実に絵になる。
裏社会が認める『世界一の狙撃手』だった。
今は、白内障を患い、以前のような細かな制度は出せないが、それでも確実に狙った的に弾丸を打ち込む。
普段は
正行は狙撃が下手だ。
何も予備知識などのない市民から見れば上手かも知れないが、父親の秋水曰く「下手すぎ」
だから、暇を見つけては狙撃の練習をする。
銃はグロック26。
マガジン式の比較的初心者向けの拳銃である。
そこにポーにあった。
正行が撃っていた的を見て「惜しいな」と呟いた。
意味が分からない正行はイヤーマフを取って、真意を問うた。
併設された自販機で冷えた紅茶とコーラを買い、ポーには紅茶を渡した。
その間、ポーは銃を見ていた。
「……うん、ちゃんと整備されているな」
満足げに頷く。
正行からポーは紅茶を受け取り、ペットボトルのふたを開けて一口飲んだ。
代わりに、銃を返す。
正行は缶のプルを開けて一気飲んでポーに言った。
「この拳銃。親父のものです」
「……」
ポーは口を閉ざした。
正行は続けた。
「ポーさんは何で、拳銃を持っているんです?」
青年の問いに熟練の狙撃手は紅茶を一口飲んで答えた。
「いた場所がたまたま、そうしないと生き残れない場所だったからだ」
今度は正行が口を閉ざした。
「……綺麗な武器ですよね、拳銃」
正行が最初に発したのがこの意外な言葉だ。
「でも、
沈黙が流れる。
「……誰しも、最初から自信などない。上達したければ、清濁を受け入れるしかない」
ポーはそう言うと立ち上がった。
正行は帰るのだと思い、同じように立ち上がる。
「今日は気分がいい。平野平正行、少しだけ訓練に付き合おう」
ポーの言葉に正行は頷いた。
正行は知らない。
ポーの言った『清濁』がどれだけ重く、辛く、苦いものかを……
それでも、彼は進む。
原石を輝かせる方法(ショート) 隅田 天美 @sumida-amami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます