言葉と言葉
たなべ
言葉と言葉
二つの言葉の組合せ。何ということも無い、言葉と言葉のフォークダンス。それだけなのに、私は自然、わくわくする。物語が始まるのではないかと予感する。皆から普段、無視され半ば死んでしまっている言葉たち。そんな彼らに手を差し伸べる。これは、慈善活動ではない。ただ、言葉を愛している。たったそれだけのこと。
これから並べる単語は、私が誰かの小説を読んで偶然見つけたものだったり、自分で思索してああでもない、こうでもないと地べたを這い蹲って獲得したものだったり、様々である。選定基準は、ない。何となく良いと思ったから。個人的に何か感じるものがあったから。それに尽きる。強いて何か言うとすれば、基本的には隅の方で蹲っているような単語を積極的に登用したということだろうか。具体的には、本だとか、家だとか電車だとかいう言葉ではなく、例えば電車だったら、「電車」というよりは、「伊予線」といった方が良い感じがするし、別ベクトルで話をするなら、「汽車」の方が良いし、また違う側面からアプローチするなら、「始発電車」の方が良いだろう、ということである。単に電車といわれても特に何も物語は始まらない。単語が大きすぎる。電車と言って、想像するのは
また、気を付けたいのが、「有り触れた組合せ」になってしまうことである。それでも物語はできてしまうのだが、如何せん詩美でなくなる。当たり前のことだがオリジナリティは物語において大切だ。それでないと読者に失礼である。例えば、「函館と夜景」何て良い組合せだが、誰でもこんなの思いつくし、そこから派生してくる物語は、勿論作者の技量にも依るだろうが、取るに足らないものになるだろう。だから、ここでは、「良い」とはいっても「何か変」という組合せを追求したい。
それと、これは私の感想なのだが、読者がこれを見た時に、私の思索の跡を辿れてしまうような組合せも避けておきたい。具体的にどういうことかと申せば、「浴槽と金魚」という組合せがあったとする。この時、読者は「ああ、浴槽と金魚。どちらも水に関係しているな。つまりこの作者は水から発想を飛ばしたんだ。なるほど」とか思うだろう。個人的にはこれが嫌なのだ。自分の考えが他者に漏れ出ている。そう感じる。これというのは実に不気味で、不快だ。だからそういう組合せ(まあしかしこれは全て読者任せではあるのだが)も避けたいと思う。
そして、注意してもらいたいのが、これら私の考えに同意する必要は全くないということだ。これを書いているのは私の完全なる自己満足だし、誰かの生活の糧になろうとか、自分はこんな素晴らしい感性を持っているのだ凄いだろうとかいうことを誇示するためにこんなことをやっているとかではない。全部私の趣味である。それを先ず、念頭に置いてもらいたい。
では早速、列挙していこう。
卵巣と焼却
メチル盲目と落日
生き残り症候群とプリン
鯉幟と頭蓋骨
椰子の木と焼夷弾
オーデコロンと吐瀉物
ビニールと不感症
金曜日とネオンテトラ
ピザ屋と横浜ナンバー
夜露と痙攣
淋巴腺とドラム缶
燃料補給船と幽霊
病室と墨汁
赤子と線状降水帯
デモノフォビアと白昼夢
睡蓮と琥珀糖
肉食主義と発煙硫酸
睫毛と箒星
ドーナツとアーベル群
二月二九日と満員電車
空想と雑巾
草原と牛乳瓶
死装束とレモンイエロー
サンタクロースと夢遊病
月光浴と揚羽蝶
メリーゴーランドと太陽系
霜柱とミルフィーユ
ルミネセンスと前頭葉
モスクワ・タルトゥ学派と六方最密構造
レイトショーと文庫本
ドリア旋法とイベリア半島
雪兎とピアノ
嘔吐とハネムーン
道玄坂とカカオ豆
芋粥と蛍光灯
シュールレアリスムと糜爛
アンモナイトとアンドロメダ銀河
茜空とソファ問題
パンケーキと腫瘍
寝台列車と雷鳴
空蝉と魔女狩り
バロック時代とカルマン渦
属和音とアルミニウム
コロラド川と指紋
歩行者天国と釜茹でうどん
夕立と駄菓子屋
蜻蛉と蜃気楼
モスキート音と線香花火
さざなみ模様とデキストリン
厚化粧と死体
以上、五十個。
言葉と言葉 たなべ @tauma_2004
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