また、いつか

衣末(えま)

私の太陽

(あぁ、これが走馬灯というやつか)


致命傷を受け、血で真紅に染まった絨毯に倒れた私は、頭の中を次々駆け抜ける懐かしい記憶達に、そんな事を考えた。何も知らない、無垢な、可愛らしい淡い恋をしていた、平民の少女だった記憶を。自分の無力さをただひたすらに呪った、後悔した、忌まわしい事件を。今の『惨虐姫』なんて呼び名がつく私とは似ても付かない、昔の記憶を思い出してしまった。


(いろんな酷い事をしたんだもの。もう、あなたが愛した私じゃない。待っててくれるなんて、都合が良すぎるわよね…)


私は目の前の少年少女達を倒したかった。自分と彼によく似た境遇で育って、生きてきたこの子達をを。かつて私が守れなかったものを守ってきた彼らを否定したかった。あの事件で彼を助けるのは無理じゃなかったと、お前のせいだと、言われ続けているみたいで嫌だった。自分の無力さを呪ったあの頃を嫌でも思い出させてくるくらいに、私達と似ているこの子達が。

体の感覚が遠のいてゆく。所詮はたまたま助かった命だ。今までだって、死に場所を探していたのすぎないから、死ぬのは怖くない。


(私の太陽……愛しているわ)


もうまともに映らない目を開けて、微かに見える光を求めて手を伸ばした。まるで、太陽みたいだった彼を繋ぎ止めるみたいに。早くにいなくなってしまった彼が、私の心からいなくならないように。

そして、最後に呟いた。


「アレク…」


私が生涯で唯一愛した彼の名を。

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