第3話

 橋本寛太は、言われた場所に向かった。

 電話がかかってきたのは女が寺にやってきてから数時間後の事であった。

 場所は女が通っていた中学校であった。

 そこはもうすでに廃校となっていた。

 理由は複数あるが、ひとつはいじめ問題に対しての対処の杜撰さであった。

 いじめているものではなく、いじめられている側を先生と言うものは責めるのであった。

「お前がいじめられたって勘違いしてるんじゃねえか?」

「いやいや、ただのいじりだから!!」

 ある時は、くつに犬の糞を入れ、ある時は、自殺の練習と称して首絞めを行い、トイレをしているところを後ろから殴ったり、ズボンのベルトを奪われ、SMごっこをさせられたりとそのような事実があるのにもかかわらず、学校側は見て見ぬふりをしていた。

「あの女性が人間ではない存在だと断言した理由....それはあなたが死んだ人間....というより、殺されたが、見つかっていない人間だからじゃないですか?」

「その通りだ....」緑の怪人はそういった。

 通常死体がなにもされず放置された場合、肉が腐り、異臭が放たれる。

 しかし、彼の場合はそうはならず異形の存在となってしまったのであった。

「そうですか...いろいろ事情はあるようですが、あなたを成仏いたします。」

「それは、させんな。この時の為に7年もの間山奥で鍛えてきたんだ。」

 腕や足を見ると人間のそれではない太さの、しかし、昆虫類の固さを持った光沢のある肉体をしていた。

 バッタの肉体に人間の手足が生えたような恰好をしていた。

 バッタの怪人は、マッハの速度でパンチを繰り出した。

 橋本の前に風圧が来た。

 そのパンチを寸前のところで、避ける。

 しかし、その直後、重いローキックを喰らってしまった。

 橋本は右ひざに大ダメージを受けた。

 橋本は怪人の腕と胸を取った。

 だが、怪人は跳躍力を応用して、膝蹴りをした。

 それを腹に喰らう。

 それにひるまず、腕を取って、背負い投げをした。

 そして、背を打ち付けたバッタの怪人に膝を胸に落とした。

 通常の人間なら、胸骨が折れ肺が傷つけられているところだが、固い感触に膝が押し返された。

 バッタの怪人は橋本の顔面に茶色い液体を吹きかけた。

 橋本の視界は茶色一色となった。

 そして再びマッハパンチを繰り出した。

 橋本の右頬に綺麗に当たった。

 普通の人間であれば、たたではすまない。しかし、橋本はすぐさま起き上がった。

「柔道の技だけでは勝てないようですね。」

 橋本の目が青く光った。

 バッタの怪人も目を赤く光らせた。

 バッタの怪人が仕掛けてきた。

 ドロップキックであった。

 橋本は両腕でボディーを固めた。

 強烈な蹴りであった。

 橋本は倒れなかった。

 しかし、腕のダメージは尋常ではなかった。

 橋本はすぐさま、怪人の腰に飛びき両腕で抱えた。

 タックルである。

 橋本は右足で、怪人の足を掛け、そのまま前に体重をかけた。

 その蛇のように絡みついた足を、両足で絡めた。

 両腕で怪人の足を持つ。

 怪人は悲鳴を上げた。

「ぎゃああああああ」

 怪人の膝から、びち、みち、と言う音が聞えた。

 人間の数倍強い足を、両腕、両足を使って極めていった。

 そして

「ぼき」

 と言う音がした。

 橋本は怪人から離れた。

 怪人は右足を引きずりながらもたった。

「あんた、人間じゃねえな」

 怪人はそう言った。

 橋本は、何も言わなかった。

 作務衣を着ながら身軽に動けるこの男が...と言う意味ではない。

 もっと直接的な意味合いであった。

 橋本は一気に間合いを詰め、腹に拳を当てた。

 そして、打ってきた蹴りを右腕でふさぎ、上段蹴りを怪人の顎に当てた。

 橋本は理性を失いかけていた。

 怪人は倒れた。

 しかし、ここは試合場ではない。ダウンしたとて、勝負が終わるわけではないのである。

「今までは、おでこにお札を張って、お経を唱えればそれで天に召されてくれましたが、これではだめなようです。」

 橋本は足を顔の高さまで上げ、それをそのまま降ろした。

 橋本はおでこにお札を張り、そのままお経を唱えた。

 バッタの怪人は徐々に姿を消していった。

 すると、物陰からぬらりと現れた。大きな男であった。

 スキンヘッドに黒のスーツ。

 肌の色は黒かった。

「おみごとです。橋本寛太さん。」流暢な日本語であった。

「どちら様ですか?」

「まあ、なんでもいいでしょう。あなたは選ばれしものなんですから。」

「何をおっしゃっているのですか?」

「隠さなくてもいいのです。あなたも先ほどの者と同じ”怪人”なんですから。しかし、あなたは理性で現在の姿を保っていますが、いずれ怪人になります。」

「私は死人だと?」

「それは分かりません。また、いずれ逢うことになるでしょう。」

 奥野正幸は13歳のころ、同級生の坂田貫太郎に河川敷で殺害されたのであった。

 その時に集まってきたのは、男子は、坂田、奥村、五軒家。女子は清田、臼井、土屋であった。

 そいつらは、いわゆる”一軍”であった。

 いつも一人でいる、奥野を寄ってたかってイジメていたのであった。

 学校の帰り、臼井が奥野に侵されたと嘘の吹聴をした。

 誰も奥野の味方はいなかった。

 河川敷に連れ込まれ”制裁”と称して、金属バットでぼこぼこにされたのであった。

 動かなくなった、奥野を見て人々は思った。

「このまま置いて帰ってもバレないだろう」

 監視カメラも通行人もいない。

 もしばれても、臼井の父親がもみ消してくれるからであった。

 その後、奥野は行方不明者として、発見されないままなのであった。

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柔道家・橋本寛太の行脚物語 パンチ太郎 @panchitaro

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