柔道家・橋本寛太の行脚物語

第1話

１．　木々に囲まれた、足元の悪い森の中に、散弾銃を持ち、耳栓をした、ごつい男。無精ひげをはやし、黒の長袖長ズボンの、黒いジャンパーを羽織った男だ。

　冷えた夜だった。しかし、獲物を得るのには最適だった。なぜなら、冬眠をしない、四足歩行の動物は、人間が活動をしていない夜を狙って、エサを取りに行くのである。

　男は狙いを定めた。狙いは鹿である。山の平坦のところをもうすぐ通る。すると、かさかさと葉の揺れる音がした。

　男の胸は高鳴る。冷えた夜にもかかわらず、体の内側から熱くなってくる。だが、冷静さを失ってはいけない。そして、引き金を引いた。ぱん。と音を立て、銃口から火花が飛びそして、見事狙い通り、鹿のはらわたに当たる。

２．明け方、とある森に木と木の間に、立ち入り禁止のテープが張り巡らされていた。

　テープの内側には数人の警察官がいた。そして、警官が一人の女性に話を聞いていた。

　彼女は死体発見者の川内恵である。昨夜、狩りに出た夫、川内正弘がいつまでたっても帰ってこないことを心配した恵は、明け方、様子を見に外を出る。近隣住民に聞いても、誰も見ていないという。そして、夫が狩りをしているであろう、森に訪れる。すると、動物注意の看板が出ている、先の道に倒れている人影があった。顔を見ると、背中に３つの大きな切り傷のようなものがある、血だらけの男が倒れていた。

「あなた！！ねえ。しっかりして！！。」首を触ると、冷たくなっていた。

　恵は警察に通報した。そして、鑑識の結果。死亡が確認される。死因は大量失血死そして、体には、凍傷もできていた。

　恵は、警察にもろもろ話、捜査が開始される。辺りに凶器は見つからなかった。

「ご協力ありがとうございます。この度は心よりお悔やみ申し上げます。」そういって警察は去っていった。

　近所の住民は口々に、ささやき始めた。

「これはたたりよ。」

「そうよ。この女が来る前なんか殺人なんてなかったもの。」

「早く出ていってほしいわね。」

３．スキンヘッドに、袈裟を着た男。本来体型など分からないもののはずが、その男は、見たものを”デカい”と言わして見せた。

　寺の本堂にある女が訪ねていた。後ろにはでかでかと仏像がたたずんでいたが、男がデカすぎて一瞬寺の仏像を探したほどである。背中がデカすぎて、顔しか見えていなかったのである。

「膝を崩してくださいな。それで、何かご用件は？」

「実はここ最近。私の周りで殺人事件が起きてまして。」

「そうですか。」

「私は、元々この村の住人じゃないんですが、最近たたりだと騒がれていて、私の話を聞こうとしないんです。それで、厄払いに連れていかれてしまって。」

「そうでしたか。では、お家に向かいましょう。」

　坊主は女性の家に向かった。女の名前は川内恵である。

「ふむ。あなたは、祟りとか、そんなものは信じておられませんでしょう。」

「ええ。」

「まあ。悪徳な商売もする神社や寺もありますからねえ。懐疑的になられるのも分かりますよ。」

「はあ。」

「ここにはいないみたいですね。」

　恵はこの男が何をやっているか全くわからなかった。正直言って、早くこの男から解放されたかったが、ちゃっちゃとお経を唱えて早く帰ってほしいところであったが、それを察してか坊主はこういった。

「早く家に上がって、お経でも唱えてくれ。とお思いになっておりませんか？」あくまで丁寧な口調は崩さなかった。

「もちろんお唱えしますが、ただ唱えたところで、仏様は成仏したがらないでしょう。悪霊になって祟りに会うかもわかりません。」

「どういう意味でしょうか？」

「殺人事件の犯人を捜すという意味です。この集落の中に犯人がいます。」

「それは警察の方が...」

「彼らが追うのは、人が人を殺した殺人のみです。これは故意に行われていますが、人間の技ではございません。」

　近所の者たちは、物不思議そうに坊主を見ていた。

「警察の調べによれば、犯人はこの集落の住民じゃないとみているそうです。防犯カメラには誰も映っていませんし、全員アリバイがある。この集落は基本的に1人暮らしの者は来ません。16世帯基本2人か3人暮らしです。」

　警察は動物の仕業でもないと言っていた。事件は迷宮入りしかかっていた。アリバイを証明できない川内恵が犯人にされかかっていた。

　他の者が殺害されたときは、近所ぐるみで家を行き来していたため、一人が出ても、3人いるので、アリバイは証明できるのである。

　それがなかった川内恵はとうとう手をなくしていたが

「今夜確かめましょうか。」そう言って坊主は話を切り替えた。

４．坊主の名前は橋本寛太という。柔道家で住職も目指しているという。修行中の身ゆえ色んな寺を転々としているという。

　だが、彼の場合お祓いはただお経を唱えたり、お焼香をしたり、線香をあげて手を合わせたりと言うことだけではないらしい。

　一緒にいた恵は、何が何やらわからなかったが、森の前に暗い中来ていた。

　彼の宗派は真言宗であった。『般若心経』を唱える宗派である。

　橋本は手を合わせて、呪文を唱えた。すると、森の木が次々と発火し始めた。

　すると目の前には、二足歩行、3本の爪。とがった耳、ふさふさの体毛。、噛みしめる牙。ううううとうめき声が鳴る。体長は2メートルを優に超えていた。

「こいつが犯人でしょう。」

「何この生き物」見たこともない生き物が獣が

「本来なら見えないものです。こいつは数百年に一度目を覚ます魔獣”狼男”です」

「なぜ、いま目を？」

「猟が原因でしょうね。私肉を食べないので、関係ありませんが、私は彼を祓います。」

　狼男は、鋭利な3本爪で、襲ってきたが、それを躱して、ジャンプしそのまま顔をけった。顔から血を噴出した。

　着地するところを、再びひっかこうとしたが、空中に浮いたまま、後ろの木の枝に空中後方にいき、それを足場にして、飛び蹴りをした。顎にクリーンヒットし、数メートルとんだ。

　狼男は、爪で、木を切った。かまいたちのように次々と気が斬れていった。すると樹木は、雪崩のように倒れたが、それを手で押さえ、圧迫されるのを防いだ。そして、火がついている、木から、火の玉が狼男に放たれた。

　数発の火の玉を受けても、すぐに体についた日を払い復活した。

　橋本は、狼男の右足を、払い、すぐさま腕を掴み、その場に張り倒した。そして、頭にお札を張ると、そのまま手を合わせ、お経を唱えた。

　狼男は押し倒されたとき、針山（廃棄物の山、金属類）に後頭部を刺し、死んでいた。そして、狼男の体は自然に発火し、消滅した。

　煙は天へと昇っていった。

「終わりましたよ。」

「よかったです。」

「お盆の時期にまた、ご主人は帰ってくると思いますので、手を合わせてやってください。」そういって橋本は去っていった。