第2話
寺の坊主、橋本寛太はとある村で起こった、魔獣による殺人事件を解決し、その地を離れた。
寺の坊主は決まった住居を持っていない。なので、あちこちの寺を巡り歩き、お経を唱え、
大抵の霊はそれで払えるのだが、時として現世に恨みや思い入れがあると、その思いが強いほど、普通のお経では払えないのであった。
だが、これは誰でも見えるという訳ではないのだ。まず最初は出家し、その次に敬虔な仏教徒であると示すため、寺で数日過ごす。外の外出したりしてはならないのである。テレビ、ゲーム、漫画、携帯などは、没収され、住職の説教を聞き、部屋の掃除をし、”毒”を輩出するのである。
毒を出し切ればいよいよ、悟りを開く作業に入っていく。独居に籠り、3日、断食、断眠を行う。瞑想はしなくてはいけない。完全に悟るまで、気を抜けばやり直しである。 ただし、3日以内に悟れなければ、再び何日か毒抜き作業に入り、その挑戦を待つのである。根性のないものはここで断念してしまうのである。しかし、断念したところで待っているのは、出家から俗世に戻るだけなので、本人にはペナルティはないが、寺に入る者の大半はどこかの寺の家系なので、幾先などどこにもないのである。
そして、悟れば、”開眼”するのである。独居だと思っていた場所は、独居ではなくなるのである。
これは最初は戸惑う。今まで見えていなかったものが見えているのだから。一瞬3日寝ていないことによる、脳の誤作動だと思うかもしれないが、開眼すれば、見えるようになるのである。
窓に張り付く顔や腕などが、人に見える場合もあれば、猫や猪に見える場合もある。
しかしこれで終わりではないのである。見えたら終わりではなく、その礼は本来、天国や地獄に行かなければならないので、そこに送らなければならないのである。
動物に見えるのは、それは動物の霊がいるということではなく、単に思いが強くなく、人の形をとどめることができずに、動物になってしまうのである。
そして、何の因果かその動物は狂暴化し”魔獣”となり、人々を襲うのである。
これは仮説だが、恨みや嫉みがある程度大きくなれば、魔獣へと変化し、残されたものへの気持ちが強ければ、人型になったり、動物へと変化するのである。
橋本寛太は今日もとある家でお経を唱え、近くの寺で、写経を書いているのである。そうすると、人が訪ねてくるのである。
「すいません。相談したいのですが...」
相談の内容は基本的に葬式やお通夜、49日、お盆などのお経を唱える仕事、そして、お祓い。厄年になったときのお守りなどであるが、たまにやってくるのが霊の相談である。
「どうかいたしましたか」
「この間、山へキャンプに行ったときに撮った写真なんですが...」
相談してきた女は本堂の木製の地面に一枚の写真を置いた。こういった相談をしてくるのはたいてい女である。
写真には男女がそれぞれ3人ずついる。白のワゴン車に、大きいテントが二つ。BBQの鉄板に串刺しにしているのを食べている男や、皿に盛っているものもいる。
この写真を見て、橋本は思った。修行に数年耐えて、妬みや嫉妬の感情など皆無な橋本は思った。”リア充死ね!!”そんな感情は悟られぬように、写真を凝視すると、奥行きに緑の人型の影が見つかった。
「他の人は、気にしてなかったんですか?」
「はい。何かのコスプレじゃないかって。」
「でも、何か気になることでも?」
「ええ。その男の友人がバイクで事故にあったそうなんです」
髪を肩のあたりまで伸ばし、白いワンピースを着、均等の取れた美しい顔をしていた。ただ、大人というよりも、まだ幼さが残る顔をしていた。年は明かしていないがおそらく20歳くらいだろう。
「何で事故にあったんです?」
「バッタがいたそうなんです。」
「バッタ?」
「この写真のバッタです。」
写真にいた緑の人型の影、頭部をよく見ると、2本のアンテナのようなものが立っている。キャンプ場では、テレビがつかないので、アンテナ型のラジオを持参するものが多い。それにかぶさったものかと思ったが、緑の人型の前には、ラジオを使っている客などはいなかった。
目が赤く光っており、服は緑の服を着ているようだった。
「まあ、バッタに見えなくもないですがね。」
キャンプ場から事故現場までは200キロほど離れていた。しかし、まだ不可解なことがあった。これがコスプレだと信じていない彼女になぜこれが見えているのか。そして、事故にあった男も同じ証言をしている。”霊獣”でないことは確かである。
「あなたはこれを何だとお考えなのですか?」
「え。人間ではない何かだと思いますけど。」
「そうですか。」そういうと、寺の固定電話に向かって、橋本は何かを言った。
「お客さん。あなた、誰かに恨みかうようなことしてませんか?」
「え。」
「例えば、誰かを置き去りにしたとか」
「何でそんなこと聞くんですか?」女は戸惑いの表情を隠せなかった。
「このキャンプ場に3人ずつ男女がいるのも関わらず、小さいワゴン車で事足りると思いますか?グランピングなら百歩譲って分かりますが。一つはどこかに置き、もう一つで6人できた。」
「何でわざわざそんなことを?」
「単なる妄想ですが。」
「.....。」
「いずれにせよ。このままでは、危ないですねえ。」
「助けていただけるんですか?」
「まあ、お布施....失礼。お助けいたしますよ。今、本堂に捜索をお願いしているおころです。」
柔道家・橋本寛太の行脚物語 パンチ太郎 @panchitaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。柔道家・橋本寛太の行脚物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます