第5話

 橋本寛太は、西川和志と、青年文化館に向かった。

 データベースにある、初美沙希の住所を見るためであった。

 データベースを見るためには、課長のパソコンにあるデータを見なくてはならなかった。

 課長である、川辺俊三かわべとしぞうは、そのことを了承したのであった。

 以外にもあっさりとしていた。

 その理由を尋ねると

「実は、私も彼女をどうにかしてあげたいと思っていたんです...しかし、彼女がなにも騒いでいないのに、こちらが動くと、彼女の親が騒ぎを起こしかねない。」

 しかし、西川が勝手に動くのであれば、話は別である。

 課長である自分は、個人情報の管理を任されているが、その責任を西川に押し付けることは簡単だからであった。

 どこまでも、他責思考な男である。

 公務員には、情報セキュリティーセミナーの受講が義務となっているが、それでも、事故が起こるというのが、公務員の世界であった。

 西川は、その情報をもとに、初美沙希の家を訪ねることにした。


 初美沙希の家は、住宅地にあるごく普通の一軒家であった。

 庭と呼べるスペースもきちんと確保されていた。

 橋本は早速インターホンを推した。

「わたくし、寛永寺の橋本と言うものですが、地鎮祭のご案内に参りました。」

 地鎮祭は家などを立てる工事を行う前に、土地の末永い安全を願って行うものであるが、橋本は、嘘をついたのであった。

 なんとか、初美の母親を外へ出すことができた。

 そして、橋本は、初美の母親に粗品を渡した。

 初美の母親は何の疑問を口にすることなく受け取った。

 すると、その時に、初美沙希が、家に帰ってきたのであった。

 中学校の制服と学生カバン。

 そして、ラケットが抱えられていた。

「こんにちは、沙希ちゃん。部活帰り?」

「うん。何で先生がうちに来てんの?」

「まあ、ちょっと、沙希ちゃん最近元気ないから、家でどんな感じなのかなって聞こうと思って。」

「余計なことしなくていいから!」

 沙希は、不躾な態度で西川に迫った。

 そして、足早に部屋に入ったのであった。

「それでは、よろしくお願いします。」


 橋本と西川はその場を立ち去ると見せかけ、近くのビルから、初美の家を見張っていたのであった。

 その日の夜、初美の家では、母親が何やら叫んでいる声が聞えた。

 すると、近所の人たちは、一斉に窓のカーテンを閉めたのであった。

 夏の蒸し暑い時にである。

 すると、橋本は初美の家に向かった。

 初美の家には、何やら、落書きのようなものが記されていた。

 よく見るとほとんどが感じである。

 それがおびただしく家いっぱいに出現したのであった。

「何ですかこれは...」

「結界の中に妖怪がいるということです。」

 今から数百年前

 この地域の近くに、野原ビールという、日本有数の酒造工場があるが、元々は、初美が住んでいるところにあったようである。

 つまり、規模を拡大するときに、現在の広い土地に建てたようである。

 といっても、現在のような工場ではなく、少し広い酒造と言った感じである。

 しかし、その工場ができる前に、初代会長の野原有三は、3人の息子を残して、この世を旅立ったのである。

 そして、ここから、後継者争いに巻き込まれる。

 長男である、有平ありへいが、会長を継ぐことを、次男と三男は文句を付けなかった。

 しかし、それに異を唱えたのは、彼らの妻である。

 兄弟たちの中は良好であったが、その妻たちはというと、最悪であった。

 その原因は、長男の妻である、明美が次男・三男を将来的に排除しようとしているからであった。

 野原家は、酒をめぐる後継者争いを行った。

 彼らの妻は、兄弟たちを争わせようとしたのである。

 妻たちは、夫の秘書的な役割を担っていた。

 その立場を利用して、三男の妻は、女性の従業員に、長男に迫るように命じたのであった。

 その女性の従業員は、まだ女学生であったが、学費の援助を名目に、協力させたのであった。

 長男はまんまとハニートラップに引っかかったのである。

 長男は、兄弟たちと比べて優秀であった。

 当時の帝国大学を首席で卒業しているのである。

 その女学生は、勉強を教えてもらうことを口実に、何度も長安に迫った。

 実際彼は、そのことを鼻にかけていたのである。

 有平は、未成年に手を出したとして、親族から徹底的に非難された。

 当時の価値観から言っても、不倫は良くないことであった。

 十分に非難の対象となる。

 彼は、会長としての重責に、耐えられずこんなことをした上に、プライドも高かった。

 これ以上、蔑まされては、恥の上塗りだ。

 そう思い、彼は、怨念を残して自殺を図ったのであった。


 橋本は、初美の家に侵入した。

 そこには、四足歩行で歩く、初美の母親と、逃げ惑う沙希の姿があった。

 骨格が完全に獣のそれであった。

 うめき声をあげながら、階段を上がっていた。

 犬はすでに、食い散らかされた後あった。

 橋本は、妖怪の上に飛び乗った。

 妖怪はそこに踏み潰されたのであった。

「がやああああああ」

 橋本は、妖怪の首を捕まえ、階段から放り投げた。

 

 

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