怪獣退治
大星雲進次郎
怪獣退治
怪獣退治
怪獣ニャゴラン。
体高18メートル、体重4トン。特徴ニャーと鳴く。
それだけ書くと「あ、可愛いかも」となりがちだが、怪獣指定されるれっきとした怪獣だ。
いつも夜に音もなく現れる。
基準は分からないが、気に入らないビルの看板を目にも止まらぬ速さのパンチで破壊する。怪獣のセンスなんて誰にも分からないが、こないだの朝、ニャゴランに破壊されたとおぼしき看板を見て、市民は内心賞賛したものだ。ギラギラホストの顔だけが打ち抜かれていた。
体格に比して軽い体重のおかげで、ジャンプ力は非常識レベルだ。まあ怪獣自体が非常識だし。
こないだも
夜の街だけど、都市高速なんかある街だから、時間が遅くてもそこそこの数の車が走っている。高速で走る車は追いかけられて前足で潰される。ノロノロ車はイラッとして潰される。対向車にはパンチ一閃!一番惨く潰される!
そんなだから早期の討伐はニャゴラン発生当初から強く望まれていた。
ニャゴランの巣が発見されたのは、夏の早朝だった。
夏休みに入った工事現場の大きなダンプトラックの荷台に丸まった状態で寝ているのが発見された。
他のダンプは雨水が溜まるのを防ぐために荷台を立てていたのだが、立て忘れたのか倒されたのか、とにかくニャゴランはダンプの荷台を満たした状態で発見されたのだ。
早速ヒーローチームが派遣された。
作戦は簡単だ。ニャゴランの眠るダンプごと太平洋に投棄するのだ。
作戦のために急遽開発された、マタタビ注射。
その辺の工場から徴集された、スリングワイヤー。
全国から集められた、ヘリコプターは4機。
ここで問題が起きた。ヘリのパイロットが計画に難色を示したのだ。それは当然だろう。これではニャゴランを吊って離陸することすら出来ない。
「全責任はワシがとる!」
ざわつく現場にそう一喝した司令官はその場で責任をとらされ、現場を去った。
結局はニャゴランが眠るダンプの荷台を取り外し、ヒーローが飛んで運ぶことになる。しかしそこでも問題が発生した。
身長が50メートルもあるヒーローは、ダンプの荷台をガッシリと掴み、その恐るべきパワーで荷台ごと持ち上げる!そしてやや悩むと、荷台をそっと地面に置いた。「どういうことだ?」いつも頼りになるヒーローのおかげで、やっと解決が見えてきたところなのに……。
「……海まで握力が保たないそうだ」
そんなの気力でどうにか……。頑張れば……。喉まで出掛かった言葉を、皆は飲み込んで拳をニギニギした。確かにキツいかも知れない。それに、途中で落とせば二次被害は洒落にならないだろう。
現場に轟音が響いた。
何事か。皆がプレハブの会議室から出てくると、目を覚ましたニャゴランのパンチをアゴにもらったヒーローが、綺麗にダウンしていた。
事態が動いたのはそれから一週間後。港の古倉庫でのことだった。
シャッターが閉まった倉庫が並ぶ港の荷役エリア。その中に一つだけシャッターを右半分だけ開けた怪しい倉庫。マタタビの香りを充満させたそこに、ニャゴランが入り込んだのだ。
これはヒーローを失った特別チームの最後の策。
今までの研究から、ニャゴランは狭い箱に入りたがる確率が50パーセント以上であると確信できた。そこに誘い込み、フルファイヤーでの殲滅。それしかなかった。
かくして作戦は最終フェーズに入る。
追加のマタタビ弾でニャゴランの動きを止める。
そして……。
犠牲者を100人以上も出した、怪獣ニャゴラン。
最後の作戦に参加し、最終フェーズでトリガーを引けた隊員は特別チーム実働部隊の定員の半数しかいなかった。
彼らはどうしても撃てなかったのだという。
隊長もそれを責めることはなかった。
彼は今も、ニャゴランが倒れた倉庫に花を添えている。
怪獣退治 大星雲進次郎 @SHINJIRO_G
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