アホの子は闇深系魔法少女になってもアホでした

あじゃぴー

1~30

1 闇系アホの子、捨てられる

 灰骨はいぼねパチルは、正真正銘のアホの子である。

 どれくらいアホの子かというと、ホットケーキを作ろうとして薄力粉をぶちまけ、そのままガスコンロに火をつけて粉塵爆発を起こしたぐらいのアホである。

 そうして死んでしまったパチルだったが、運命のいたずらか、それとも酔狂な神のいたずらか、生まれ変わってしまった。


1「闇系アホの子、捨てられる」

 

 生まれ変わりはしたものの、女神さまにチートスキルをもらったとか、そもそもファンタジーな異世界に転生したわけでもなかった。転生したのはごくごく普通の現代日本で、パチルは日本人だった(パチルという名前も、ただのキラキラネームだ)。

 もっとも、その日本は前世と同じ日本ではなかった。いわゆる「パラレルワールド」というやつだ。

 小さかった頃のパチルは、普通に幸せな生活を送れていた……と思う。というか、今のパチルに小さかった頃の記憶はないから正直な話分からない。

 なにしろ4、5歳くらいの時に誘拐にあったうえ、マフィアに売り飛ばされてしまったのだから(ここでパチルはこの日本がパラレルワールドだと確信した。なぜなら前世の日本にマフィアという存在はいなかったからだ)。

 それからというものパチルは、色んな所をたらい回しにされつつ、変な注射を打たれたり身体をいじくられたりした。

 奴隷のような扱いを受けたり、果てには明らかに狂った研究所でモルモットになったりもした。

 黒かった髪の毛も、ぷにぷにでもちもちだった肌も、ストレスで今や全身ガサガサな灰色になってしまっている。

 はっきりいって、地獄だった。今までに何度、死にたいと願ったことだろう。


 そんな日々を送っていたパチルだったが、それも今日で終わりだ――


「ほら、今日からこのゴミ山がお前の家だ。まぁ、明日には息絶えているだろうがな!」

「う……」


 山盛りのゴミの中に無造作に投げつけられたパチルは、痛みのせいでか細い呻き声を漏らす。

 投げた張本人から嘲笑が飛んでくるが、今のパチルに身体を動かす余裕はない。

 まあ、それも当然だ。死にかけと判断されたからこそ、パチルはこうやって棄てられたのだから。


「あばよ!」

 

 パチルに唾を吐きかけた後、不法投棄男(多分「研究所」の警備員かなんかだとパチルは思っている)は振り返りもせずに立ち去っていく。

 誰も居ないゴミ捨て場にい、全身血まみれでまともな部位がほぼない少女など、誰もが死んでいると思うだろう。

 

「あらよっと」

 

 男の姿が完全に見えなくなったのを確認した後、パチルは立ち上がった――まるで何事もなかったかのように。

 

「ミッション・コンプリートなのです!」


 同時にパチルは全身に力を込めて再生を促す……

 数秒ほどで、パチルの身体は傷ひとつない状態にまで戻っていた。

 

(それにしても、もう私って人間って言えないよね)


 パチルは思った。

 今の化け物レベルの再生能力……これは、「研究所」で色々と身体を弄られたせいである。

 実はパチルはこの「異常再生」以外にも色々と不思議な力を使えたりする。

「研究所」で盗み聞きした話によれば、パチルの体内に「精霊」と呼ばれる存在を埋め込んでいるらしい。。


 その話を聞いた時は、流石のパチルも驚いた。

 まあ、白衣を着たいかにもアカデミックな研究員たちが精霊なんてファンタジーな名前の存在について話していたら、誰でもびっくりするだろうが。


 しかし、それでもパチルはなんの力も発揮しなかった。

 しかもいろいろ手を尽くした挙句死にかけたもんだから、パチルを失敗作だと判断したようである。

 だがそれはパチルの策略だった。実は、パチルは意識して能力とやらを(再生も含めて)使わなかっただけなのである。

 だって、パチルは早く「研究所」から出たかったのだ。

 なにせ人体実験を平気で行う研究所だ、不要になった実験体は供養なんてせず捨てて当然だろう。

 そうパチルは(前世よりかは)賢くなった頭で確信していた(その場で処分される可能性を思いつかなかった、というあたりまだアホの子が残っているが)。


 とにかく、パチルは今自由になった。

 それに、これからの目的はとっくに決めていた。


「とりあえず、警察に行くのです」


「明らかにこれ違法だろ」っていう研究をしている研究所である、警察が黙っているわけがない。

 駆け込めば助けてくれるだろうし、施設の生活も「研究所」よりかはましだろう。

 もっとも、警察署や交番がどこにあるのかなんてわからないが……


(まあ、そのあたりは少しずつ考えていくのです)


 そうと決まれば、出発しよう。

 そう思って体を見下ろして、パチルは気付いた。

 今のパチルは、全身血まみれなのだ。


 ……服、どうしよう……

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