第9話 「準備万端?」

 リンターが薬草採取に出掛けてから失踪して、約四年が経とうとしていた。


 私、エリアナは昨年18歳になり、冒険者になることを協会から許可されたので、仮冒険者となり他の中級冒険者のパーティーに加わり、三カ月の期間を経て下級冒険者に成った。


 そして私は冒険者の情報網を駆使して、リンターに関するあらゆる情報を探り、目星が付いたところやリンターの特徴に類似した情報を頼りに、その真相を確かめに行っていたが、そのどれもがいわゆるハズレであった。


 当初の私は一年の付き合いではあるが、あの年にしては賢かったし、魔法などを教えてもらっていた為、リンターを過信していた。


 そしてきっと数日後には帰って来るだろうと信じていたが、リンターは帰っては来なかった。


 だが、楽観的だった私は、一時期『私が冒険者に成って、絶対にリンターを見つける!』と息巻いていたが、視野の狭かったあの時の私は、この広い世界でたった一人の人間を見つける難しさを理解していなかった。



 リンターの失踪と聖なる泉での高級冒険者二人の死を皮切りに、魔族との抗争は年々激しさを増している。


 既に魔族達は聖なる泉付近まで進軍していて、そこを中心としてたくさんの魔族の小さな拠点が建てられている。


 みんなはそれをどうにかしようと躍起になっているけれど、魔族の使う魔術は人のものとは比べ物にならないほど練度が高く、私達はそれを警戒して攻めあぐねいていた。


 そしてそんな戦いの日々を繰り広げていると、魔族が建てた大型の拠点をもう少しで崩壊させられそうという情報が入った。


 すぐさま冒険者協会はその拠点に対しての総攻撃依頼を発行した。


 私もミルバ爺の店を護る為、そしてリンターの情報を集める為にその依頼に参加したのだった。



 !



「じゃあ行ってくるわね」


「気を付けて行くんじゃぞ……あと、わしの店の商品を乗せた馬車も頼む」


「これを冒険者達に渡しちゃって本当に良いの?」


「こういう時は助け合いじゃよ」



 拠点への攻撃は今から30分後、私はミルバ爺に別れを告げ、このポーションをみんなに分ける為、少し早めに冒険者協会に向かった。


 協会に着くと、もう既に沢山の冒険者たちが集まっていて、装備や武器を整備したり、道具の確認をしている最中だった。



「おぉ、ミルバ薬師やくしの娘さんじゃないか?」



 ミルバ爺のポーション類は冒険者の間では有名で、よく私が店番している時も冒険者が買いに来たりしていた為、なぜか私はミルバ爺の娘として認識されている。


 別に悪い気はしないけれど、自分の行動一つでミルバ爺の評判も落ちてしまうのではないかと心配になり、仕草や言葉に気をつけないとならない気がして、一向に気が休まらないので正直そう呼んで欲しくなかった。



「みんな、今日の為にミルバじ……薬師がポーションを作ってくれたの!この馬車に乗ってる道具とかポーション類は自由に持って行ってくれて構わないわ!」


「おぉ!助かるよ!」


「丁度連戦続きでポーションの補充が出来ていなかったんだ。協力感謝するよ」


「是非有効に使ってくださいね。ポーションは魔族のように無限じゃないので」


「あぁ、もちろんそうするよ」



 この白髪長身の男はヴァン・シュレイという名前で、冒険者の間ではかなり有名だ。


 高火力の火の魔法を主に使っていて、彼が戦闘を行った場所には魔物や魔族の灰が降ることに由来して、別名灰の雨アッシュレインと呼ばれている。


 その他にも色々な地域から高級冒険者が集まっていて、この作戦に対する冒険者協会の熱意が伝わって来た。


 下級冒険者の私は後方の援護で、彼らの戦いを目の前で見れないのは残念だけど、きっと魔物や魔族が一瞬にして吹き飛ぶさまはとても気持ちが良いものだと思う。



「よし!そろそろ出発するぞ!みんな気合い入れろー!」



 誰かがそう叫ぶと、それが連鎖したのかみんな次々と雄叫びを上げていた。


 そして魔族の拠点への攻撃が始まった。



 !



 僕はリーダーとして皆をまとめなければならない、だが同じ作戦を遂行するという目的じゃなく、魔族を討ち倒すという目的でこの作戦に参加している人が大半で、更にそのほとんどが元々ソロの冒険者、それを一つにまとめ上げるのは至難の業だろう。


 こんな時、兄さんなら……シュレイ家の長男だったら……一体どうやってこの寄せ集めをまとめ上げるのだろうか。


 いや、兄さんが言っていたじゃないか『ヴァンなら絶対に上手くやれる』って、そうだよ!僕は高級冒険者だ……きっとやれる、絶対に成し遂げて見せる。



「なぁヴァン」


「なんだい?」


「今回の作戦本当に大丈夫なのか?」


「どういう意味だ?」


「いや、こんな寄せ集めのチームで大丈夫なのかって話だ」


「次の休憩でみんなと話してみる」



 昔からのパーティーメンバーの一人であるホーウェンは、僕と同じようなことを考えており、その疑問に対して僕はまた癖である先延ばしをしてしまった。


 ホーウェンも僕の癖が出たことを察知したのか、ため息を一つついて喋り始めた。



「あのな、命掛けの選択に先延ばしもくそもないんだ。リーダーとしてしっかり頼むよ」


「分かった……」



 ホーウェンの提案に乗り、今この場で即席のサブリーダーやその他パーティーに必要な役割を割り振ることにした。


 正直魔族との戦争に役割なんてものは存在しないと思うが、やはり定義上こういうのは決めといて良いだろう。


 そう思いながら今座っている馬車の操縦席に立ち、みんなに声を掛けようとしていた時であった。


 遠方からまばゆい光が飛んできて、僕はなにかに突き飛ばされた衝撃で気を失ったのだった。

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