第8話 「悪夢?」

 ――――――俺、いつの間にか寝てたのか……ここ、どこだ?


 真っ暗闇で何も見えねぇ…………ん?は?拘束されてる?なんだなにが起こった?


 さっきまで、何してたっけ?


 ダメだ頭が回らねぇ、何だか長い間寝てたみたいに頭が完全に覚醒し切ってない、手足も痺れてて拘束から抜け出そうとする試みも出来ねぇ……。


 周りの音は、聞こえ……悲鳴!?


 それに何かが爆発する音、さっきまで水の中でそれを聞いてたような音の濁り方をしていたが、頭がやっと現状に追い付いて来たのか、はっきりとその暴力的な音が聞こえて来る。



「我が魔力よ!眼前に立ち塞がる壁を燃やせ!溶かせ!その全てを灰に帰す熱量を!スコーチングサン!」



 誰かが、戦ってる?


 これは、上級魔法?


 そんなオーバースペックな魔法を使わないといけない戦いが近くで起きているのか?


 うわっ眩し……い。


 なんだこの人、俺に魔法を使っているのか?


 なんでだ?


 それに俺自身なにも感じていないのが更に謎だ。



「この化け物――」


「アイジャナ!くそ、一旦引く―――」


「逃げろ!」



「俺が殺してる?なんで?俺は何も動いてない!手足も痺れて、殺すなんて意思を持ってなんか。逃げてくれ!早く!聞こえないのか?俺から逃げてくれ!」



 聞こえて無いのか?


 確実に俺が、いや俺じゃないけど俺が殺している。


 この場にいるハズなのに……。



「―――――!――――――――――!」


「――――――――――!」



 場面が変わった?


 ここでも人が死んでいる。


 どうなってんだ?


 今度は言葉も分からないし、だがこの人達が恐怖しているのは分かる。


 村が燃えて、人も燃えて、空気が澱んで、まるであの時の俺の村みたいに。


 それと今回も声は届かなかった。



「ひっ!許してくれ!金ならある!金が欲―――――」


「あぁ!そんな、殺さなく――――」



 どうにかして止められないのか?


 もう殺したりしたくねぇ……。


 どういうわけか俺の意思関係無く殺戮が行われている……もう訳が分からねぇ、これが現実なのか悪夢なのか俺にはもう理解できない。


 俺じゃない俺が人々を殺している。



「…………」


「死ね!死ね!死ね!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!痛い!痛い!熱い!…………何なん、だこいつら!ぐぅうう……痛い、抵抗できない、身体中に刃物がっあ゛あ゛!も、もうやめてくれ!死なせてくれよ!ふざけんなよ!俺が何したってんだ!」


「気持ち悪いわ。身体中刺されてると言うのに悲鳴の一つも上げずに」



 聞こえてんだろ全部!


 聞こえないふりするなよ!


 ふざけんじゃねぇ!


 この声も全部聞こえてんだろ!?


 目を反らすなよ!


 !


「何なんだお前は、なんでこんな事平気で出来るんだよ!」


「村が、お前のせいで村が!」


「何でお前が生きてる?死ねよ」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 !


「は、っはは。ぶはははは!あっははははは!!ふふ、んふふふふふ……」



 薄暗い研究室のような部屋で、無機質な台に手足を拘束された男の子が、目を尋常じゃない程開いて笑い続けている。


 その横で二人の魔族はそれを見て少し残念そうな顔をしている。



「うーん、もう壊れたか……なんですぐ壊れてしまうんだろうか」


「なんでって、自分でやっといてそんな事も理解して無かったのか……」



 紫色の肌をした魔族はなぜ人間はすぐに壊れてしまうのか疑問に思って口に出す。


 それに対して、赤色の肌を持ち額に一本の角が生えた魔族が呆れている。



「どうしてだ?魔法を使ってる所を見せてるだけなんだが」


「まぁどちらにせよ廃棄だね。意思疎通の取れない兵器は今必要無い」


「ふん、お主には期待をしてたのだぞ?たった1年で壊れやがって」



 口の端が裂けながらも笑い狂いもだえる少年を見て、魔族の少年は冷たい目で見降ろしながら言う。


 一方期待していた少年がすぐ壊れた事に怒っている紫色の肌を持ち、額から一本青白い角を生やした魔族はそうイカれた少年に向かって吐露した。



「でもまぁしばらくは置いておこうかね。500年分ある記憶はまだあと400年残ってる」


「400年か、あと4年ほどかな。人間の感覚だと少し長いくらいかな」


「そんぐらいなんじゃないですか?私達魔族からしてみれば何もしないでいれるギリギリの時間くらいですかね?」


「それはお主だけだ。個人的に5秒待ったらもう魔法の研究をしたくなるな」


「それこそアナタだけですよ”魔導王アーヴィル様”」


「その名はこっぱずかしいから止めんか!今はただのアーヴィルと呼べと言ったろシュリー!……全く何百年前の話だそれは」



 冗談交じりに言った角の魔族は”魔導王アーヴィル様”と呼ばれた事が恥ずかしいのか、恥ずかしさを誤魔化す為に角を触りながら”アーヴィル”だと訂正する。



「私からすれば昨日……いや、今日の出来事にもできますよ」


「記憶魔法は便利だな」


「意外とコツがいるんですよ?と言っても分からないか」


「お主の種族の固有魔法だからな。そういう固有の類いは魔道具にしたりするのが良いらしいが、その魔法が使えるのはもうお主しかいないからな」


「私そんな理由で生かされてるんですか?」



 魔族の少年改めシュリ―は驚きながらも、アーヴィルなら当然の思考かと思いながら会話を返していく。



「他人に渡るよりかは良いだろう」


「まぁ確かに、存外自由にさせてもらってますしね。文句はありませんよ」


「それとわしの研究に必要だしな」


「意思疎通の出来る生体魔導兵器でしたっけ?彼で実験体としては何体目ですかね?」


「うーん、2149体くらい?成功したのは2体だけだがね」


「そういえば彼女らはどこへ?」


「二人共今は魔王やってるかな?」


「ノリが軽すぎませんか?」


「わしも詳しくは把握して無いな。人口多い割に魔法があまり普及してないところに置いてるだけだしね。あの抑止力がわしの世界の魔法力底上げに繋がるんだ」


「別に魔法が全てって――」


「わしの友達だとしても魔法を侮辱することは許さないぞ?次の同じ類いの発言したら分かっているな?」


「ごめん」


「分かればいいんだ。少し前に勢い余って殺した時からわしは反省してるんだ」



 急に態度を変えて魔力を放出するアーヴィルに委縮するシュリーは、少しばつの悪そうな顔をして後ろ手を組んで俯き謝る。


 それに対してスッと表情を明るくしたアーヴィルは過去を振り返って反省する。



「止めてくださいよ。再生するの痛いんですから」


「あ、そろそろ街へ行かないとな。さてシュリー行くぞ!」


「一応今回の記憶も完全に壊れるまでこの実験体に注ぎ込みますかね」


「それが良いだろうね」



 二人が部屋を出た後ドアがバタンと閉まり、部屋の中には不気味な笑い声と、身体が強張り拘束具と肉体が擦れる音が響くだけが残った。

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