第7話 「失踪?」

「大丈夫ですか!?」


「来るな!」


「でも!」


「良いから!街の冒険者協会に知らせて来い!早く!」



 俺が現場に着くと既にジェールは息絶え、お兄さんの方は紫の服を着た角の生えた魔族の刀を受け止めていた。


 俺にお兄さんが気付くと逃げるように促すが、ここから冒険者協会までは遠い、助けを呼びに行ってたらこの人が死ぬ。



「ん?なんだ、増援かと思ったらただの小僧か……」



 魔族……村の襲撃に関わってたか分からないけど、俺からの認識としては完全に敵だ!


 相手の武器は見たところ刀一振のみ、魔族だから魔法ばかり使うのかと思ったらそうではないようだ。



「そろそろ力比べは飽きてきたろぅ?これで終いだ!」


「くっ、まだ、まだ!」



 お兄さんは風魔法らしきものを剣を持っていない左の手で放ち、地面の砂を巻き上げて目くらまし、ひるんだ魔族の隙を突き俺の方まで一瞬にして下がって来る。



「……くふ、小賢しい……煙幕か。見たところ風魔法だが先程の水魔法もそうだ、これも守り手……お主の魔法はそれは独学か?」


「そんなこと聞いてどうする…………僕の相方を殺しておいて呑気に僕と会話できるとでも思うなよ」


「まぁそう怒るでない。剣の扱いが上手い奴なんてそこら中にいる、それよりも魔法の特異性について語らい合おうじゃないか」


「はぁ?……わけがわからない、やっぱり魔人はイカれてるな」


「そういうのは他種の文化をしっかりと理解してから言って欲しいものだな」


「「!?」」



 なんだ?


 いつの間に後ろにいた?それよりもコイツ、飄々としてるが圧がやべぇ、生粋の化け物だ!身体全体からコイツから離れろと警告を出している!



「まったく最近の若者は他人への理解が乏しいな……そのせいで人間界の魔法はいつまでたっても発展しない……」


「お前だって理解してない、剣は魔法よりも奥深――」


「うわっ!?ぇ……は、ぁ?」



 お兄さんが消えた?


 いや、爆発した?


 空気が血生臭い、身体が生暖かい、血だ。

 お兄さんの血が身体に……殺した?


 なんで。



「あ、すまんすまん。魔法を愚弄したのでつい、な」



 つい、で殺した?


 訳が分からない……。



「はぁ、魔法を愚弄しやがって、誰のためにポーションの効果を薄めたと思ってるんだ、魔法の発展の為だぞ!?道具なんてものに頼ってたら何も発展しないと言うのに、そうだ!前から構想してた魔法をお主に試してやろう。感謝してもいいぞ?これをやるのはお主が初だ。おやすみ――良い夢を



 なん、だ?


 意識が落ち―――



「お主を魔法の楽園へと誘おう」



 !



「ふぅ!このくらいで良いわね!」


「エリアナや、こちらも頼むぞ」


「ちょっと待っててザビ爺!こっち塗ったらすぐそっち行くから!」



 私はミルバ爺の店の看板を塗り終わると、すぐに横の外壁を塗りにペンキの入ったバケツを持って急いだ。


 今日はミルバ爺が取引を終えた後、なにやら気合いが入ったらしくて、客が帰った後すぐに店の外壁塗り直しをやり始めた。


 ミルバ爺はいつも何かしら手伝いをしたらお菓子をくれるので、それを目当てに私もやり始めたのだけれど、途中から何だか楽しくなってきちゃって、ついでにお隣さんの家の外壁を塗ることまで約束してしまった。



「いや~いつも助かるわい!お礼に何か上げんとな、ちょっと待っててくれ……確か戸棚に」


「おーいエリアナ!なんか門の方が騒がしいぞ!一緒に見に行こうぜ!」


「え!何々?今行くー!」



 私は友達のシルヴィに呼ばれ、お礼の事をすっかり忘れて門の方へ走るシルヴィを追い掛ける。



「おや、行ってしまったか。子供は興味関心がコロコロ変わるせいか、老人からしたらついていけんのう」

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