ナルシストと美しさ

「宿代と、できれば食事代……欲を言えば名声も欲しいな」

ミュラヴァンとユマは今冒険者仲介所という場所に居た。

冒険者仲介所とは冒険者商会と呼ばれる組織に所属する冒険者に対して、危険地帯の調査や出現した魔物の退治、引っ越しや町の警備なども依頼する事ができる場所だ。冒険者のランクは1〜10まであり、1が最低。当然、依頼内容もランク分けされており、高難易度の依頼は高ランクしか受けられないようになっている。

依頼料と依頼内容が張り出された依頼書という紙が掲示板に貼られており、掲示板から受けたい内容の依頼書を仲介所の受付からハンコを貰うことで受理され、依頼を達成することで依頼料を受け取ることが出来る。

「ふっ、冒険者か……まぁ、勇者の俺にとっては塵に等しいが、人助けも勇者の仕事かってえーすごい!ナニコレ!!知らない文字なのになんか読める〜〜!!」

ユマはさも当然かのような顔でレベルの高い依頼書に目を通す。

「ちょいちょい、私はまだいいとして、あんたみたいなクソガキが出来る依頼があるわけ無いでしょ!?ランク1を見るべきだわ!」

あくまで相手のためという体裁ではあるが、彼女は支援魔法以外はゴミだ。

基本性格が悪いが変なところで真面目なため、子供に支援魔法をかけて戦わせようなどとは考えていないらしい。

「えぇえええ!!ヤダヤダヤダ!!!俺このランク10の“滅亡のディルヴァルド”倒したい〜〜〜!!」

「こーら!私のランクは7なんだから、せめてランク5とかの依頼にしなさい!」

ミュラヴァン・ミトリ―。ランク6冒険者。

過去に所属していたパーティーの花束の園フラフラフラワーのパーティーとしてのランクが8だったので、ギリ嘘。てか普通に嘘。

「はぁ〜〜〜じゃあしゃーないか……これでいいや。」

ユマが手に取ったのはランク5の依頼。内容としては、ニウが墓のところにいて危ないから殺してほしいという内容だ。

ニウというのは小さい狼のような魔獣で、普段は5〜6体の群れで活動している。

「無理。別のにしよ」

「え、でもランク一つ下だし……」

「別のにしよ」

ミュラヴァンの意思は硬かった。

なんせ彼女は日頃から後方で怯えてただけの人間。魔物の恐ろしさは知っているし、命の大切さも知っている。

野生の小型動物を助けるなんていう理由で命を投げ出すような馬鹿に危険な仕事は受けさせられない……という建前で普通に怖いし達成できない依頼は受けたくないのだ。

「えぇ〜〜〜じゃあ、このランク2の“バドゥドゥヂッデッド”の討伐でいいよ」

気怠そうに依頼書を手に取る。

バドゥドゥヂッデッドとは、地球で言うチンチラのような魔物。

可愛らしくまん丸でふわふわだが、農作物をちょっぴり食べちゃうので殺して欲しいというのが依頼内容だ。

「ちょっと見せてみて」

ミュラヴァンが依頼書を覗き込む。

バドゥドゥヂッデッドは夜行性なため、昼のうちに巣を探して殺すというのが一般的。

しかし、巣は土の中に作るので見つけにくく、時間がかかってしまう。

さらにさらにバドゥドゥヂッデッド自体は弱いので依頼料がそこまで高くないという不人気依頼だ。

「依頼料が運賃込みで銀貨5枚。場所がここから1時間……探すのに2時間はかかるだろうから……上等かな」

ちなみにこの世界では銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚のレートで交換できる。

「よしっ!じゃあ行くぞ!ユマ!」

ミュラヴァンは依頼を受理すると、早速依頼先である土地に歩き出した。

しかし、

「ちょっと待ちなっ……お嬢さん方」

突然後ろから声がかけられた。

「「はぁ??」」

ミュラヴァンとユマの声が綺麗にハモると同時に振り向く。

「落としたでっ……ボクへの恋心……ちゅっ」

若干黒ずんだ汚い金髪に長すぎる襟。胸元には異常にはだけた白い服にチェーンなどの装飾品だらけのダメージジーンズ。

見る嘲笑、ナルシストだ。

ユマはその事に気づいた瞬間、「この男はきしょい」という事実に気が付く。

ミュラヴァンも、「キモキっしょ」と同等の感想を抱いた。

「黙れ。蹴るぞ」

ミュラヴァンが一言呟き、踵を返そうとすると、

「あぁっ!ごめん!ちょっと待ってや!!」

ナルシストは関西弁で二人を引き止めた。

「西の国の訛りだっけ。方言がウケると思ってる男ほどキツイものはないぞ」

「ナルスストが関西弁喋んな」

息のあった罵倒だ。まさに阿吽の罵倒。ナルシストが少々可哀想だが、ほぼナンパをされていると考えればギリギリ許される。

「辛辣ぅ……ごめんて。ボクの美貌に嫉妬するのはええけど、暴言はやめてや」

「ボクの名前はビューティフォー。世界一のイケメンや。ところで、キミらさっきニウの討伐依頼受けようとしたやろ」

「まぁ、そうだけど……」

意外にも普通に話せそうな奴だとわかり、ミュラヴァンは質問に答えた。

「ボク、一応ランク5冒険者の剣士なんやが、パーティーメンバーがいなくてね……是非ボクと一緒にパーティー組まへん?」

剣士という格好には見えないし、剣も持っていない。しかし、彼は冒険章という自身の名前と冒険ランクが書かれている紙を見せた。

そこには、しっかりとゲルニカ・マイク 冒険ランク5と書かれている。

「名前違うじゃん……」

ミュラヴァンは後方支援能力しか持ってないし、ユマは正直何もできない。

そんな中剣士という貴重な前衛が手に入るかもと期待していたミュラヴァンががっかりした顔でため息を付く。

「ごめん、本名があんまり美しくないからっ」

自信満々なくせにネガティブな事をいうビューティフォー。

「うーん、まぁ、ユマが良いなら……」

正直どっちでも良いミュラヴァンがユマに目配せする。

「じゃあ僕もミュラヴァンが良いなら……」

ユマもミュラヴァンに目配せをした。

「じゃあええってことやんな?優しいねぇっ……愛してるっ……ふっ」

最後謎に息を吹きかけられつつ、ビューティフォーが即席パーティーに加わることが決定した。

ミュラヴァンたちは一旦バドゥドゥヂッデッドの依頼を取り消し、ニウの討伐の依頼に変更してから目的地へ歩き始めた。

そしてそのまま20分後……

「飽きたァ!!!!」

ユマがでかい声で叫ぶ。

子供は歩くと飽きる生き物だ。多少誤差があれど、基本は歩くだけというのは退屈に感じてしまう。

「えぇ〜、後5倍は歩くよ」

ミュラヴァンは呆れた顔をする。

「やだああ!!!!なんか楽しいことしようぜ!!」

「うーん、そうだなぁ……」

ミュラヴァンは考えるような仕草をし、歩き続ける。

「…………」

そんな彼女をユマは期待の眼差しで眺めていた。

10分後

「え!?その感じで何もないの!?」

「お、流石にバレたか」

ボケーっとしてるのがバレたミュラヴァンだが、そこまで慌てていないようだ。

「残念ながら私には秘策があるのだよ……!」

自慢げな表情で偉そうに言い放つ。どうやら、今度こそは秘策があるようだ。

「おぉ……!」

ユマも先程のような期待の眼差しでミュラヴァンを見つめる。

5分後

「殴るぞ」

流石にユマも痺れを切らしていた。

「まぁまぁ、一旦落ち着こうや。な?」

ビューティフォーが間に入る。

ユマは怒っているが、結構冷静だった。

歩いている間彼も考えることがまとまり、その結論が殴るというものだったのだ。

「ほら、あれや。僕の美しさでも見とき?って!!いや!!!そしたら美しすぎて目潰れるやろがァァァい!!!」

場を和ませようとしたのだろう。ビューティフォーが渾身のギャグを放った。

「……ハハッ」

ユマは乾いた笑いを起こし、斜め下を見た。

ミュラヴァンは無視を決め込んでいる。

そんな空気が地獄になった時。

「さて、仲も深まったところで目的地に着いたよ」

目的地は、意外にも住宅街だった。

天気は雨が降り出しそうな曇りだというのに老人から子供まで様々な人が外出をしている。

「おいおい、こんなところにニウがおるわけ……まじでおらんやんけ」

ビューティフォーは辺りを見渡し、驚愕していた。

ニウは小型とはいえど危険な魔獣。そんな魔獣が近くにいるというのにこんなに人々が群雄闊歩しているはずがないのだ。

(まさか、方向音痴か!?)

焦燥感と不安感を抱えながら依頼書を見る。

しかし、歩いてきた経路を考えると場所は完全に合っていた。

「うん、気付いた?」

何故か偉そうなミュラヴァン。しかし、足は震えていた。

「なんか、変なとこ来ちゃった……」

もう泣きそうである。

場所は住宅地の真ん中の噴水のある広場。

しかし地図上では、この場所周辺には墓しか無い。

つまり、そういうことである。








「おいなんでこんなことになってるんや!!普通気付くやろ!こんなん!!」

「だってだってだって!!!ユマが駄々こねるし、ビューティフォーはキモいし、何も考えてなかったんだもん!!」

「いや!!……え?キモい?え?」

「キモイキモイキモイ!!」

ミュラヴァンとビューティフォーが言い争っているのをよそに、ユマは1人で周りを観察していた。

一見すると、薄暗いが綺麗な町だ。

町を歩く人は皆笑顔というところ以外はおかしい点は見当たらない。

だが、ユマは一つ異変に気がついた。

ミュラヴァン達の言い争い以外の音が何一つ聞こえないのだ。

つまり、今話してるように見えるあの人達も、駆け回っているあの子供も、話してすらいなければ足音も立てていないということが分かる。

非常に冷静を見渡すことはできているが、ユマには弱点がった。

「クソッ!何も分かんねぇ……!!」

頭が悪いのだ。

ユマから見たら誰も喋ってないだけで普通の町だし、ここが墓とかいう会話は聞こえているだけ理解はできていない。それに異世界からやってきたばっかなので知識も情報もほぼ持ち合わせていない。(持っていても活用ができるとは限らない)

そんな風に頭を悩ませているユマの隣で15歳と27歳は言い争いを続けている。

「あーもう死ね!!!」

「黙れ!死ね!!!!!!」

二人が死ねという言葉を出した。

その瞬間、周囲の人の首が全てミュラヴァン達の方へ向く。

「「「あ……」」」

笑顔な人々の視線が、全てこちらを向いた。

それに気付いた瞬間全員が同時に走り出していた。

「ちょっ、ついてくんなよお前ら!!俺関係ねーから!!!」

先頭を走るのはユマ。50m走が7秒台で、ガキの割にはそこそこ速い。

「いやいや!!ここまで来たなら運命共同体や!!!一緒に……死ねやッ!!」

2番手は我らがビューティフォー。アラサーだが腐っても冒険者の前衛。膝にガタは来ていないようである。ただ、美しく走りたいという欲求のせいで走るフォームがキモく、速度がなかなか出ない。こんな危機的状況だというのに美しい彼のプロフェッショナルには脱帽だ。

「あっ……ちょっ……終わったわ…………」

最後尾は当然ミュラヴァン。

普段から「私ぃ、太らない体質なの〜〜♡」なんて豪語して甘いものばかり食べていたが、決してそんなことはなく少食なためなんとか体型を維持できていた奇跡の少女。運動はほとんどしたことがない。

「ヒャッハー!俺の代わりに餌がいて助かったぜぇ!!」

全速力でユマが最前線を駆け抜けるが、よくよく考えれば彼らは囲まれていたので、前とか後ろとかあまり関係がない。

よって、前方にもこの町の住人がいる。

「あっ……」

ユマはここで死を悟り、諦めた。

「疲れたなぁ……」

ミュラヴァンは5秒程走った後すべてを諦め、のんびりと歩き出した。

しかし、こんな絶望的な状況の中でも1人だけ諦めない男がいた。

(なにか打開策はないんか……!?)

そう、ビューティフォーである。

(絶対に、絶対に諦めるわけにはいかないんや!!!)

彼はまだ諦めるわけには行かない。彼には、夢があるのだ。




ビューティフォー

本名ゲルニカ・マイク。

パール村という、のどかな村で生まれた内気な少年だった。

教育熱心な親によって否定され続けて生き、外見が悪いため学校でも周りにいじめられて、彼の精神は疲弊しきっていた。

「どうして、俺は……」

葉のない木の下で自分の人生を嘆く。

彼は、生きたくなかった。

しかし、自殺する勇気などない。

そんな中途半端で意気地なしの自分のことも嫌いだった。

「誰か……殺して…………」

涙は流さなかった。

涙を流すことの無意味さを彼は知っていたから。

涙を流しても、誰も自分を慰めはしなかったから。

「じゃあ、殺したるわ」

木の上から声がした。

ゲルニカが上を見上げると、そこには美しい男が居た。

黒ずんだ金髪に無駄に多い装飾品。そしてゲルニカの心をくすぐるかっこいい服。

「美しいボクがだっせーお前を、殺したるわっ……」

吐息混じりの耳に悪い声。

しかし、ゲルニカにはその男のすべてが美しく、かっこよく見えた。

「お願いします……俺を……いや、ボクをっ!!!」

「ボクを、美しくしてください!師匠!!」

「ええで」

美しい男の名前はビューティフォーといった。

その日から、ゲルニカとビューティフォーの特訓は始まった。

「態度は常にセクシーに!!腰に手を当て、足をくねらす!!そして片目を閉じて!吐息を込めて、“愛してるっ……”」

「愛してるっ……」

「良い調子だっ……!」

ビューティフォーの特訓は厳しいものだった。

血反吐を吐くほど愛を告げ、全身をクネクネしたせいで毎日が筋肉痛。

しかし、ゲルニカは特訓を辞めなかった。

この時すでに彼は会得していたのだ。

美しい、不屈の精神を……

8年後

2人は、世界で最も険しいと呼ばれているエバリーン山の頂上に座っていた。

「もう、キミに教えることはないさっ……」

すっかり年を食い、おじさんになってしまっていたビューティフォー。

「ありがとうっ……っていうか、愛してるっ……ちゅっ」

これはゲルニカの新技、kiss...である。

「技も応用できるなんてね……すごい成長や」

ゲルニカは、立派に美しくなっていた。

「これで、ダサいキミは死んだ」

ビューティフォーが立ち上がる。

「グッバイ。少年。キミは美しい」

そして太陽の方向にゆっくりと向かっていった。

「師匠……」

天に上がっていく師匠を見て、ゲルニカは初めて師匠が人間でないことに気がついた。あと、よく見たら羽が生えていた。






そして現在。

「ボクは師匠に会うまで!!死ねないんやぁアアあ!!!」

ビューティフォー、もといゲルニカはのんびり歩いているミュラヴァンと、絶望し棒立ちしているユマを捕まえ、近くの家の中に避難した。

そこで、気が付いた。

「別に誰も追っかけて来てないやんけ!!」

全員がこちらを向いただけで、特に何も起こってなかったのだ。

だがパニックでそのことに誰も気付けず、ただ爆走し絶望しただけの間抜けな3人が出来上がってしまっていた。

「あら、そうだったようね。私は何も困ってないけど」

「まぁ、そうだよな。 僕は知ってたぜ」

お得意の虚勢である。

「そか……まぁええわ。何もあらへんのやったらもう普通に帰るか」

安心したゲルニカが家の扉を開けようとする。しかし、ミュラヴァンが

「あっ、そういえばさっき空間魔法を使おうとしたんだけどー、なんか弾かれちゃった。多分、ここは現実じゃないからどんだけ歩いても帰れないよ〜」

と告げた。割と絶望できなことを、サラッと。

「はぁ??」「いや、キミ空間魔法とか……え?聞いたこともあらへんで?」

「話してなかったっけ?私の突破魔法ブレイクスルースキルの空間魔法。まぁ使えないんだし意味ないけど〜」

「え?いや、えぇ……?」

この世には魔法スキル突破魔法ブレイクスルースキル、そして特殊魔法スペシャルスキルが存在する。

魔法スキルは魔力がある人が努力すれば使える魔法で、火を出したり風を出したりなど色々出来る。

そんな魔法の中でも、魔法を極めまくって作られた独自の魔法が突破魔法ブレイクスルースキルだ。世間一般にはない、完全オリジナルの魔法である。

そしてもう1つ、特殊魔法スペシャルスキルというものがある。

これは天性の才能で取得している魔法で、人によっては魔力を消費せずに使える場合もある。

突破魔法ブレイクスルースキル特殊魔法スペシャルスキルもどちらもただの魔法スキルと比べれば非常に強力な魔法だ。

「そんなモン持っとるなら仲介所から現場まで飛べたやろ!!」

ゲルニカがミュラヴァンを詰めると、

「いや〜〜疲れるし〜〜〜」

とミュラヴァンが話をはぐらかした。自分の突破魔法ブレイクスルースキルを完全に忘れていたらしい。

「そんなことより、ここって現実じゃないの?」

ユマが家の中を探索しながら重要な質問をする。

「うん。まぁ、かなり現実に近いようには見えるけど……」

「じゃあ多分ここは誰かの魔法空間の中や」

「魔法空間??」

ユマが聞いておいて別の部屋に入っていく。

「おん。ただ完全に現実と切り離されて、このレベルの魔法空間を作れる奴となると、きっとエグいぐらい強いやつが……」「うわああああ誰だああああ!!!」

ユマが大声で叫んだ。

「どうしたの!?」「なんや!?」

ミュラヴァンとゲルニカが急いで奥の部屋に向かう。

「いや、こっちのセリフにゃんですけど……」

奥の部屋のタンスの中。

そこには猫耳の少女が居た。

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追放された魔法使いとその他諸々、取り敢えず魔王でも倒す 結城朱雀 @Suzakusuyama

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