第二章
第一話 いつもの朝
では、そろそろこの本の著者である私と、この頃の私について当時の情勢を踏まえながら本格的に物語を進めて行こうと思う
それは、事件が起きて厳戒態勢が敷かれてから暫く経った頃だった。最後に述べた通り、この頃の私はキャメロットのアカデミーを修了し、見習いとして働き始めようとしていた頃であった。その時期にこの度の事件が起き、飛空艇乗りを目指す者たちにとっては厳しい日々が続いていた時であった。そんな時期からこの物語は始まる。
私-パトリムパスは、中層の中でも裕福な家庭の生まれで、複数の工場をもつシロイルカの一家の生まれだった。だが、兄弟の末であった私は、その家督を継ぐようなこともなく、ロンディウム大学で学業に励みつつ、敷かれたレールの上を進む人生であったが、そんな人生を送るなら飛空艇乗りやプリウェン達の活躍に、屋敷の書庫に収められた小説や物語の様な世界を夢見て飛空艇乗りを目指そうと思ったのだ。
しかし、両親は大反対した。プリウェン達や飛空艇乗り達の存在は軽視できないものとなって言ったが、急な勢力の台頭や、行政への進出等を快くよく思わない勢力や人びとは少なくなかった。両親もそんな人びとの一員でもあり、大喧嘩になった挙句、最低限の荷物とお情けを含めたそれなりの財産が入った口座のパンチカードを渡されて勘当されたのであった。が、ただ、住む場所に困って野垂死ぬのは困るのか、知り合いの伝手を頼って両親の知り合いが大家をするアパルトメントを借り家賃は、飛空艇乗りとして暮らせるようになった時にという温情までしてもらっていた。その日も、そんな日の一日だった。
その日の朝、目覚まし時計の騒音で起きると同時に、アパルトメントのドアを叩きながら私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「パトリムパスさん」
「パトリムパスさん」
「はーい、今開けます」
パジャマ姿のまま、ドアを開けると、灰バトの姿をしたモノクルを付けた鳥人の男性が新聞をもって立っていた
「おはようございます。パトリムパスさん」と礼儀正しいお辞儀をする
「おはようございます。ノキアンさん」
この、灰バトの男性がアパルトメントの大屋で、両親の知り合いでもあるノキアンという人物だった。両親の言いつけかは分からないが、何かと世話を焼いてくれて、先述した。家賃の件だけでなく、生活の世話まで見てもらっていた。
「食事の用意に来ましたよ、それと今朝の新聞です」
「ありがとう」と、新聞を受け取る
「ささ、着替えて準備をしてきなさい」
「はい」と、着替えに行くと
「では、お邪魔します。」とノキアンさんも部屋に上がってきた
それから、着替えて洗顔などを済ませて居間に来ると台所からいい匂いがしてくる。丁度、ノキアンさんが食事を運んできたところだった。
「いいタイミングですね、出来立てが出来ていますよ」
「いつもありがとうございます。」
「いえいえ、その分、本分に全力を尽くしてくださいね」と、トレーに乗った食事を置いてくれる。
トレーの上には、トーストにバター、目玉焼き、焼いたベーコンと軽いサラダ、更にはスープとミルクが付いていた。半熟目玉焼きやベーコンには塩コショウが振られていて、香辛料の匂いが気分をキリっとしてくれる。これは、ノキアンさんが食べる分も含めていて、二人分の食事であった。
「コーヒーは飲みます?」
「うん、頂くよ」
「砂糖は?」
「お願い、ミルクも」
「分かりました」と、コーヒーの入ったポットにコーヒーを注ぎ、砂糖とミルクを用意してくれた。
席に着き「いただきます」と言って、朝食を食べ始める、そして、新聞のある一面を見始めた。すると、ノキアンさんもその反対側に座って朝食を取り始めた。
「どうです?」とその一面と睨めっこする僕にノキアンさんは声をかける。
「あるけど、皆慎重になっているのか、経験の浅い人用は少ないですね」と、私は、バターを塗ったトーストを食べながら机に置いた新聞を横目に見る
新聞の広告面には、飛空艇乗りを募集するページがある。私が見ていたのはその紙面だった。見習いもそうだが、経験の浅い飛空艇乗りは、最初は人手不足の飛空艇団からの募集から参加して経験を積むのが定石だった。しかし、厳重体制が敷かれたことで、募集を募る飛空艇団が減り、飛空艇も出入りが制限された。
そのため、少しでも経験の浅い飛空艇乗り向けの枠や広告が出来ると、そこに大量の募集が舞い込む。それは、公的機関のキャメロットでも同じだった。結果として高倍率の抽選や参加の順番待ちが起こり、経験を積もうにも積めない見習いが続出した。以前は、事務所やドックに直談判して自信を売り込むと言う方法もあったみたいだが、今は広告や求人の窓口受付以外受け入れないというのが当たり前だった。
広告面を見るのが憂鬱になった私は、もう一枚のトーストに目玉焼きやベーコンを乗せ被りつきながら別の面に何か明るい話題を探す。しかし、一面を飾るのは
『襲撃事件から、未だ進捗あらず、蒸機士達への不満が議会に上がる。同業者達からも不安の声』
という、見出しの一面だった。
実際、あの4件の襲撃事件から、暫く経つが目立つ事件はあれから起きていない。が、明確に原因が分かったと言うこともなく、依然としてキャメロットは血眼になって敵勢艦を捕まえるために探していた。そして、安全が保障されてない為に厳戒態勢も解かれていないのであった。依然として尻尾もつかめていない状況にキャメロットに多くの不満が募っていた。
新聞すら読む事も憂鬱になった私は、新聞を読むのをやめ、卓上うに置きふと時計を見る
「わわ、時間だ、行かなくちゃ」
残りの朝食を平らげると、最後にコーヒーをもう一杯だけ注ぎ口にすると「美味しかったですノキアンさん。ご馳走様です。」と言って食事を終える。すると 「お粗末様です」と返してくれた。
「ああ、そうだ、昼食作りましょうか?サンドイッチとか」
「いや、一日駆け回ってそうだから、行先のどこかで適当に食べようかなって、それに、朝食たくさん取ったから大丈夫。」
「そうですか、私もこの後外出する際お弁当を持っていくつもりだっので、ついでにと思ったのですが」
「すみません、また今度頂きます」と、そんなやりとりをすると、自室に戻り外出の支度をして現れる
「今日も、キャメロットか身売りに?」と、ノキアンさんが、私の食器を片付けた後、自分の残りを食べながら声を掛けた
「身売りって…まあ、うん、温情から直談判でも受け入れてくれる人もいると聞くし、少しでも可能性があるなら行かなくちゃ」
「そうですか、行ってらっしゃい、いい方に出会えるといいですね。」
「ありがとう、行ってきます」
それから、私は、ロンディウムの街に繰り出した。それは、いつもの変わらぬ日常であり朝の光景であった。しかし、家を出た時から、これから始まる物語の扉はすでに開かれていた。
煙海より来る 木菟斗 @tukuto
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