涙枯れるまで…

藤本敏之

涙枯れるまで…

「あの…柊君…私と…つっ…付き合って下さい!」

柊道長は驚いていた。今は放課後…誰もいない体育館裏…下校時刻になり、ロビーで下駄箱を開けたとき、手紙が1枚入っており、道長は中を開けた。

"放課後、体育館裏で待ってます。"

そう書かれた手紙のとおり、道長は人気の無い体育館裏にのこのことやってきた。道長は正直驚いていた。なんせ、何も取り柄が無い自分に、女の子が告白してきたからだ。

「確か…神薙瑠偉…さん…だっけ?」

名前を呼ばれた女の子は、コクリと頷いた。今は夏休み直前、期末テストが終わって答案が返却されているだけの、学生にとってはまったりタイムだ。そんな中で、彼女…神薙瑠偉だけは違った。クラス1の美少女…その容姿だけではなく誰にでも優しく…運動神経も学年トップクラス…友達も多く、周りに人がいないのが不思議に思うほどにいつも誰かと共にいる…そんな女の子が…自分に…?

「あのさ…」

道長は口を再び開いて聞いてみる。

「神薙さん…誰かと間違えていたり、誰かから虐められてるの…?」

そう言うと、瑠偉はキョトンとした顔をした。その顔も可愛いが、道長は続ける。

「まず第一に俺達、同じクラスだけど話したことないよね?それに、君はクラスで間違いなく人気ナンバーワン、成績も優秀だし、運動神経も抜群。そんな君が俺に告白…?誰か近くに隠れて動画を再生しているのか?」

そこまで言われて、瑠偉はハッとする。自分でも浮足だって、何も説明せずに告白したことを、今更ながら後悔している…そんな顔だ。

「いいえ、私は大真面目です!柊道長君、1年3組、学生番号23番、今の席は教室の後ろの扉から入ってすぐの場所。趣味はゲーム、生年月日は…」

「えっと…君はストーカー?」

「違います!」

色々まくし立てられたのが嫌だったので、道長は瑠偉に対して、ストーカーの疑いをかける。瑠偉は全力で否定するが…

「で、そんな俺になんで君が告白するんだ?知ってのとおり俺はオタクで、クラスの皆から煙たがれる存在なんだけど?」

そこまで言われて、瑠偉は少し考えるような仕草をする。

「そうでしょうか…一学期間、チラチラ見てましたが、柊君は嫌われてはないと思いますが?」

「嫌われてなくても、話しかけてくる人もいないんだから…」

「皆さん遠慮してるんですよ?柊君はいつも授業以外の時間、本を読むか、机に突っ伏して寝ていますから…」

確かに、道長はなんのけなしに買った格闘技の本やら、小説を鞄に入れており、休み時間にそれを読むか、眠っている。話しかけてこないのは、自分が嫌われているからと思っていたのだが…

「だからといって、君が俺に告白する意味がわからない。今まで話したこともなかったんだからさ。」

それが一番の謎である。道長と瑠偉の接点…それはたまたま同じクラスになっただけだ。道長は入口近くだが、瑠偉は窓際に席があり、話しかけたことも、話しかけられたこともない。

「えっと…柊君は…私と付き合うのは…嫌?」

「普通の男女ってさ…付き合うならほぼ初対面じゃなくて、何度か話し合ったり、意気投合したら付き合うんじゃないの?」

「そうなんですか?」

「なんも知らんのかい!?」

確かに一目惚れ等例外はあるにしろ、話したこともない、ただの同級生に告白するって…どうなの?そんなふうに道長が思っていると、瑠偉が鞄を開けて、中からスマートフォンを取り出す。

「えっと…あった!」

何やら操作して、瑠偉は道長にスマートフォンの画面を見せる。二人の距離は3メートル程離れていたが、道長はスマートフォンの画面を見るために、少し近寄った。


そこには…


病室のベッド2つと…女性が2人写っていた…それは…神薙瑠偉と…道長の今は亡き母親だった。


瑠偉の話はこうである。


神薙瑠偉は2年前…中学2年迄病院で寝たきりの状態だった。血液の癌にかかり、ドナーが見つかるまで、隔離されていた。たまたま同じ病気にかかっていた道長の母、灯里が出来れば同じ部屋にして欲しいことを頼んで、2人は同じ部屋にいたらしい。そんな時に、瑠偉と灯里はお互いがドナーだったという話を聞かされた。しかし、お互い同じ病気であるがゆえに、手術は不可能だと言われた。しかし万分の一の確率で、助かるかもしれない…そう言われてもいた。そんな時、灯里はこう話したそうだ。


「私はもう充分に生きました。瑠偉ちゃんに…私の健康な部分を移植して欲しい。」


そう言われて、医師達も納得した。この話は道長も、父親から聞かされていた。灯里が自分の命を、誰かのために捨てる決心をした事…だが、道長達にはそれが誰かまでは知らされていなかった。


「1年間…必死にリハビリを受けて、ようやく退院した時、灯里さんの言葉を思い出したの。息子がこの高校を受けるって。私と最愛の人との思い出の場所であるこの高校を受験するんだって…私…それで…必死に勉強もして…」

瑠偉は…泣いていた。

「今…私が…ここにいられるのは…灯里さんのおかげで…出来れば…貴方と…」

そう言われて、道長は混乱していたが…優しく更に近付いて瑠偉を抱き締めた。

「解った…もう…良いんだ…せめて…泣いてくれ。涙が枯れるまで…」

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涙枯れるまで… 藤本敏之 @asagi1984

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