閑話休題[結婚式]

 ベトナ遺跡再封印から半月後、帝都マグナスの城下町の一角はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。それも無理の無い話でのリーゼロッテ=オルレアン嬢とベトナ鉱山救出、そしてベトナ遺跡発掘の立役者ルーク=ローディス子爵の結婚式が執り行われている


 何より神父に八大賢者の1人、奇跡の賢者、法王 聖クリストフ8世。後見人に一騎当と名高いセルジュ=ウッドランド公爵夫妻と言う普通の貴族でもありえない客層で、しかも皇帝陛下の祝辞と言う破格の扱いに驚きや歓喜そして当然ながら嫉妬まで入り交じる


「これで2人目···っと」


「ハミルさん、コイツも地下牢で?」


「そだね。あーもう!アタシもドレス着てリズ姉様の晴れウェディングドレス姿見たいのにー!」


「しかし、どれだけ嫌われてンすか?ローディス子爵は」


「おおかた最近帝都に来た男爵家か貴族に成り上がりたい商人じゃないの?ルーク先生が元々貴族の生まれって知ってる人はそんな事しないよ。まあ、先生からそんな話しないけどね」


 そこに褐色のイケメン騎士が2人をたしなめる


「おしゃべりは休憩中にしろ」


「はわっ!?フィリップ隊長、すみませんでした!」


「ハミル、今から着替えて総長の護衛にあたれ」


「へ?でも第1師団ウチらは会場正門でしょ?」


「特等席で見に行きたく無いのか?それにソワソワして気が散っているのを見てたら士気に関わる」


「あちゃー。アリス=ハミル、団長の命により総長の護衛に行って来ます!」


 アリスは着替える為にリズや式に参加している婦人達の警護をするミネルバ女性騎士団の控え室に向かうと調理師姿のバーニィが休憩している


「あ、ハミル先輩」


バーニィバニちゃんはドレス着ないの?」


「私は調理場の手伝いと監視です。もしかしたらですけど料理人や給仕に不審者が紛れてる可能性もありますから」


「そっか、休憩してる所悪いけどさ。手首に包帯巻くの手伝って」


 バーニィはアリスの両手首を少しキツめに包帯を巻く、流石にドレスを着たまま帯刀する訳にはいかないので護衛のメンバーも徒手空拳無手で制圧出来たり発動媒体を使わずに魔法が使えるメンバーが選ばれる。無論カミラも魔法部隊で選ばれている


 ボクサーや空手家が手首を保護すまもるように包帯で巻いたその上に肘まであるミトンで隠す


「ありがとね」


「ハミル先輩のグーパンは立派に鈍器ですからねー」


 護衛部隊女性騎士は仲間うちで味方だと分かる様に銀の盾の形をしたペンダントをかけている、アリスはリズの控え室でを見せて中に入る。そこにはシンプルながらも美しいドレスをまとったリズが教会で待つルーク新郎のもとに行く為の馬車を待って居た


「綺麗···」


「馬子にも衣装ってヤツだ」


「誰が馬番ですか!」


 いつもの調子のリズとディアナを見て護衛役のアリスとカミラは微笑ましく笑った


「あら?アリスはこっちに来て大丈夫なの?」


「フィリップ隊長の命令です」


 するとドアの外から馬車の到着の報告を聞き、父であるオルレアン卿と共に神殿へと向かった


「ディアナさんって馭者も出来るのですね」


「冒険者ギルドの仕事で馬車を使う事があるからね、それで覚えたのサ。それでも···初恋かぁ羨ましいヤツだ」


「へぇ〜」


「私だって女だ、人並みに恋愛に興味あっても良いだろう」


「あのが惚れる相手ってどんな男性ヒトなんですかねぇ?最低限腕っぷしはレオン先生より強くないと」


 唐突にレオン剣聖の名を出され、ちょっと動揺する


「そりゃあレオン先生は尊敬してるし実力も雲の上の人だよ。そうだなぁ···あの人はかな?それにアタシなんて普通の男はビビるだけだしな」


 馬車の後ろを警戒してるカミラが会話に混ざる


「そういえばディアナさんに懐いてる男の子が居られますよね?」


「マイトの事かい?アレは別のパーティで奴隷の様に使われてたから自由にしてやっただけだ、そのパーティは今どこの収容所に居るかは知らんがな」


 一方、馬車の中では嫁入り前の父娘おやこがしみじみと語っている


「リズ、色々背負わせて悪かったな」


「まだ私が男だったらって言いますか?」


「お前も優しい娘だからな。姉のヨハンナもを察して早々に嫁に行ったからなぁ」


「今や西都ティガーの伯爵夫人ですものね。まさか来てくれるとは思ってませんでした」


「それとルーク君とした約束だが、気にするなよ?」


「子供の話ですか?」


 ルークはオルレアン家を存続させる為に婿を提案したのだが、オルレアン卿が丁重に断った為に長男が生まれて10歳になったらオルレアン家の後継ぎとして養子に送る約束をルークが一方的に決めたのだ


「孫が嫌がったら無理をさせんで良い、その時は家督を継げぬ有望なのを迎えるつもりだ。だからと言って親子の縁が切れる訳じゃない」


「お父様···」


「幸せに肩肘張ら約束しなくて良い、振り返って幸せと後悔しない様にしなさい」


「オルレアン卿、リズ。到着したぞ」


「さあ、行こうか」


「ええ。ディアナ、アリス、カミラ、ありがとう」


 馬車から教会へ続く赤いバージンロードを地域の人々から祝福の声を受けて歩く父娘の先には普段の姿からは想像出来ないくらいに白いタキシードを着こなして髪をオールバックに整えたルークが待っていた


 リズ新婦の右手がオルレアン卿父親からルーク新郎に移り法王クリストフ8世の前に並ぶ、法王の咳払いで騒がしかった会場は水を打った様に静かになる


「オホン···新郎ルーク=ローディス子爵、新婦リーゼロッテ=オルレアン。婚姻の女神ヘーラー豊穣の女神デメテール家庭の女神ヘスティアの三柱の前で如何なる時も神々に呼ばれし日まで夫婦であり続けると誓うか?」


 2人が誓う返事をする前に━━パリン━━と頭上からステンドグラスが割れた音と同時に暖かな光と優しげな声が響く


しゅくに、私は三姉妹が長女ヘスティア。此度こたびは我等から祝福を授ける、苦難や諍いもあるであろうがそれも含めて共に歩むが良い」


 突然の女神ゲストの乱入で参列者は地面に平伏したり、気を失ったりして会場は騒然となる。法王クリストフ8世ですら腰を抜かしてその場にへたり込む始末だ


「ルークよ、虚空ヴォイド遺跡にて待つ」


 そう言い残すと光はフッと消えステンドグラスには何事もなく


「はっはっはっ、長い事神職に仕えておるが斯様な事は初めてじゃ。神が直に祝福したのじゃから誓いの言葉なんぞ無用無粋じゃ」


 ルークは慌てずに


「リズ、大丈夫で動けますか?」


「え···ええ。まだびっくりしてますけど」


「動ける方は気絶した方や動けない方を椅子に座らせて下さい!」


 ルークは聖堂内全体を対象に基礎魔法の意識覚醒センス·アウェイクを唱えてから


「皆様、お騒がせいたしました。この様な事態はボクも想定の範囲外でまだビックリしてます」


「普通、アレで驚かない奴ぁ居ねえよ」


(しかし、わざわざ虚空ヴォイドにルークを名指しで呼びつけるたぁ何かあるのか?)


「話されても構いませんが黙っておく事をお勧めします。だって誰も信用しませんよ、こんなハプニング」


 後に教会史の儀典非公式に[女神が直に祝福した結婚式]と記される事になる。まぁ無理も無い事ではあるが「ルークだからな」と一言で片付けられるのも彼の個性キャラクターなのだろう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

基礎魔法しか使えない大賢者 狸穴亭銀六 @ginnrokumamiana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る