第6話.ゴブリンキングⅡ
『グルォォォォオオオオッ!!!』
凄まじい咆哮。
肌のピリつく緊張感と恐怖。
初めて対峙してわかる圧倒的な差。
一匹の蟻とライオンが対峙しているようなものである。
「くそ……」
現代での弱い自分は捨てたはずなのに、今にも逃げ出したい。
恐怖という感情が、心を蝕んでいく。
「やるしかない」
時は遡り数分前。
『して、カフカ。内容を聞かせろ』
「あぁ、まず正攻法であいつに勝つことはどう転んでも不可能だ」
『ゴブリンキングごときと言いたいとこだが、あれはおそらく
「そこで……だ。あいつは
完全に舐められている。が今回はそれが不幸中の幸いだった。
「天井を崩す」
『ほう。あいつを生き埋めにすると……』
「あぁ、だけど、俺はまだ攻撃魔法も覚えてなければ戦闘スキルすらも所持していない」
『ではどうやって……』
「ようやくデバッファーの俺が役に立つというわけだ。どうやら俺のデバフは生物だけでなく物質にも付与できるらしい。そこでガドブレを使って天井を脆くしておく」
『しかし、それで殺せるほどあれは弱くないぞ』
「あくまで半端な知性を持つあいつの虚をつくってだけだ。まぁ当然チャンスは一回。決定的な攻撃手段がない俺達のできる精一杯だ」
『むぅ……』
「勝てる確率なんかはなからゼロに近い。今はできることをやるしかない」
「……さて、流石に一度敗れた相手だ。気を引き締めないとな」
敏捷性も攻撃力もステータスにおける全ての数値は一つを除きあちらが有利。
「知性だけでこの絶対絶命の状況を乗り越えろってか……」
カフカは苦虫を噛み潰したような表情で、布袋から古びた剣を取り出す。
「あまりこの布袋には頼りたくないが……仕方ないな」
カフカは剣に手をかざす。
「やってみるか。『
いつの間にか手に入れていたデバフ魔法『蝕毒付与』を剣に施すカフカ。
直接的ではない攻撃の手段。
「捨て身の攻撃だな……」
バフでも
無論、剣も蝕まれ液状になるが、序盤の数分は解けずに形を保つ。
その数分で、ゴブリンキングの力を削ぎ生き埋めにしようという算段だが。
「そもそも、ここまでの力量がありながらこれをあいつにお見舞いできるかどうか……」
お互いに戦闘態勢に入っているが、ゴブリンキングは未だこちらを敵だとは認めていない様子。
「……くそ。こっちからいくぞッ!」
デバッファーといえど、転移者。
常人よりは少々早い速度で、ゴブリンキングに迫る。が、雄叫びを上げると同時にカフカ目がけ棍棒を横なぎに一閃。
「は?」
瞬きの合間に視界端に迫った棍棒。
冷や汗が滲む額。
カフカは何とか踏みとどまり勢いを殺すと再度後方へ。
「おい……差がありすぎるだろ……」
余りの力量の差に足の震えが止まらず、カフカは攻撃を仕掛けることに恐怖を感じていた。
「くそ……くそくそくそ……」
早まる鼓動。
深呼吸し整えると、カフカはゴブリンキングを見上げる。
「……ッ!!」
同じ目をしていた。
『じゃあな無能』
あの時のあいつらと同じ目をしていた。
親友を演じ、蹴落としたアラタと同じ目をしていた。
一年次に同じクラスで嫌がらせばかりしてきていたタクトと同じ目をしていた。
見て見ぬふりをし、アラタに従う生徒たちと同じ目をしていた。
「なんだよ……それ……」
─── 俺はこの世界でも……
「くそ……くそくそくそ……くそくそくそぉぉおお!!!」
『やめろッ!!カフカッ!!』
パラケルススの制止も聞かず、カフカは怒りに我を忘れゴブリンキングに迫る。
「死ねぇぇええええッ!!!!」
剣が形を保って居られるのは後二分といったところ。
完全耐性のある人間にすら、体調不良くらいであれば促すことの出来るこのデバフ魔法。
ゴブリンキングならば、怯ませることが出来るはずだ。
「絶対に……ッ!!殺してやるッ!!」
カフカは冷静だと自分を言い聞かせて居たが、傍から見ても無謀な突進。
自殺行為に等しい所業だった。
『……』
ゴブリンキングは、まるで呆れたかのように迫るカフカを見やる。
「そんな目でッ!!俺を見るなァァァァア!!!」
高く跳んだカフカは正面から頭部目掛け剣を振り下ろそうとするが。
「ぐはッ」
刃先が皮膚に迫ったと同時に、ゴブリンキングの拳を脇腹にまともに食らい、数メートル後方の壁に勢いおく背を叩きつける。
『冷静になれカフカ』
「だま……れッ!!俺はッ!!俺はッ!!」
蹲っていたカフカ。
再びゴブリンキングに攻撃を仕掛けようと見上げると既に正面には見下しながらニヤリと笑みを浮かべるヤツの姿が。
『危ないカフカッ!!逃げろッ!!』
「あっ」
ボロボロな体で身動きすら取れないカフカ。
振り下ろされる棍棒を回避することすら出来ず、洞窟内には鈍い音が響き渡る。
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デバッファーは最高峰の不遇職って本当ですか?~クラス転移に巻き込まれ国外追放された俺はデバフで最強に至る〜 望米 @mochi_gome
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