第7話 ジン

だが彼の蹴りは俺の体をすり抜け空を切る。俺はローリングを使用、無敵技だ。ジンは奇妙な出来事に何が起きたと驚き間合いを離す。危なかった、そこまで速いとは。しかし能力者同士の戦闘には慣れていないようだ。今の動きでかなり警戒している。相手が動揺している今がチャンス、今度はこちらのターン、こちらから仕掛ける、ジンに飛びかかった。


「緩い攻撃だ!」


カウンター気味に飛びに合わせて攻撃を放つ。だが俺の体はそのまま後ろに下がっていった。


「なっ」


能力「空中制御」、アクションゲームだと普通だけど、前に飛んで後ろに下がるとか普通に考えてありえないことだ。着地しジンに足払い。これを飛んでかわす。態勢が崩れた状態、幻惑もされながらでこれをよけるなんてすさまじい身体能力だ。だがここは好機、手を緩めず攻める。連続スライディングで近づき斬撃、突き。相手に体勢を立て直す、反撃する隙を与えない。そして遂には体に斬撃が直撃、腹部に入り切り抜ける、ジンは吹き飛んでいった。


「やったか!?」


回転して飛び降り立ち上がる。ぴんぴんしていて効いた様子はない。おかしい、手ごたえはあった。やったと思ったがやっていない。


「全力を出す前にやられるところだった。ここで負けていたら悔やんでも悔やみきれなかっただろうな」


能力で逃れたと考えるべきか。いやそれよりもまだ全力じゃなかっただって!? ジンの目が見開かれる。またパワーアップしやがった! 先ほどと同じようにこちらに突撃、だが今度は能力を使う暇すらなく強烈な一撃を食らう。これは立ち上がれないな、意識が遠のいていく。


「勝った!」


そう叫ぶジンの後ろから突きを放つ。間一髪この攻撃に気づいて大きく飛びのくジン、まさかこの攻撃をかわされるとはな。能力「その場復活」、残機は2ある。倒れた俺は消えている。


(ちっ、能力か。しかし着地後また攻めればいいだけだ)


高い飛翔だ、三階くらいまで飛んだか、あの一瞬で上空高く飛び退くなんて。だがそれが命取りだ。ジンが着地、しかしうまく着地できず転びながら後方へ。能力「大した高さじゃないところから落ちたのに致命傷」、一メートル程度の高さから落ちて大けがするゲームがある、ひどい奴は死んだり。俺の能力だとひどい捻挫程度だがそれでもジンの足を殺した。と考えていたが立ち上がり普通に歩いている、そんなバカな。


「あばらを二、三本やっちまったな」


胸部に攻撃は全くしていない、ということは足の捻挫をあばらに移したのか。ふむ、強敵だが遂に勝機が見えてきた、SPが残り少なそうだな。完全無敵を使ってノーダメージのほうがいいに決まっている。能力者の戦闘でSPが底をつくのは致命的。だがまだ油断はできない、こちらも危機的状況には変わらない、まだ目は見開かれている、このまま攻められると負ける可能性がある。どうする、どう戦う、勝負は一瞬で決まる。少し考える時間が欲しい、そうだ。


「ポーズ」


これで相手は動けなくなった。世界は薄暗くなりPAUSEの文字が刻まれる。こちらも動けないが頭は回る。脳内で作戦会議、この能力ならいけるか。ポーズを解く。


「待たせたな」

「?」


QTEを発動。


「!! 動けんっ」


彼に本領を発揮させては駄目だ、能力で封殺する。ジンに向かって歩いていく。


「ゲームをやったことは?」

「あまりない」


なら俺の勝ちか。剣を構え突きを放つ、ジンの体に直撃、吹っ飛んでいって仰向けに倒れる。意識があり呼吸をしているが立ち上がることができない、SPが完全に切れたか、復活もなさそうだ。息苦しそうだが満足げな表情のジン。


「参った」


俺の勝ちだ。ゲームをやったことがあればもしかしたらかわせたかも。この技は理不尽なところがある。


「ちなみに俺の剣は斬ったり突き刺ったりしない。打撃武器になっている」

「そうか」


ゲームだと剣って打撃武器っぽい、斬って吹っ飛んだりするし。起き上がるジン、胸を痛そうに手でおさえている。かなりのダメージがあるな、あばらが折れてるもんな、それはそうか、医者では時間がかかる、回復してやるか。


「ちょっと待ってて」


街の中をうろつく。あった、能力「その辺りに落ちている草で回復」。戻って食べさせる。


「苦っ……て、嘘だろ、完全に治った」


飛んだり跳ねたりするジン。ゲームの回復薬はとてつもない回復力がある。


「完敗だな、ここの王の座はお前に譲る」

「悪いがそこには興味がない」


王になる話は断る。その代わりに彼を勧誘する。


「今回みたいにまた戦えるところがあるんだが、来ない?」

「いいね、教えてくれ」


喧嘩の街のボス、ジンを撃破し確保。はぁ、今までで一番苦戦した。勝てたのは日頃訓練しているおかげだろう。先生に身柄を渡し俺の仕事は終了。王が負けた話は喧嘩の街にたちまち広まる。そして俺が王の座を捨てたことも。次の王を決める争いがこれから始まりそうだ。街が盛り上がっているようで何より、ジンが抜けたらもしかして冷めて人がいなくなる可能性も考えていた。国としては残したいようだからね。ああ、王争奪戦は国側が考えて煽ったのかもな。

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あるあるバトラーズ! ~ゲームあるあるを具現化する能力でこの世界を生き抜く~ 保戸火喰 @hotkaku

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