第6話 街の王

二日目、朝食のおにぎりを食べインスタントの味噌汁で流し込み喧嘩スタート。すぐに喧嘩二連戦をし、あっという間にバッジが10個に。よかった、ジョーカーには当たらなかったぞ。あとはバッジを十個胸元に付け歩き回るだけ。向こうが見つけて誘ってくるはず。


「おう、喧嘩。ああいいや」


喧嘩したそうな男がこちらに寄って来るが胸元のバッジを見て手を振り他へ。暗黙の了解でこの場合は喧嘩を仕掛けないようにしている。ここのボスと戦いたいわけだから来ても断るだけだからね。街の中を歩き回る、ウイニングランに近いかな、プレイヤーや見学者の視線を感じる、中々に気持ちがいい。本当の勝負はこれからだけど。声を掛けられる場所は決まっていないということでとにかく歩く。工場の中に入り廊下を歩いていると事務所の中から女の子が出てきて俺の前に立つ。一礼すると胸元で軽く拍手をする。


「おめでとうございます。あなたは挑戦権を得ました。私がそこまで案内します」


バッジを回収しますと袋を開く。一応罠か確認すると違いますよと笑って答える。証拠としてジンと名前の書かれたここのボスのバッジを見せてくれた。ここまでするなら本物かな? まあ偽物ならちょっと強引になってでも奪い返せばいいか。バッジを外し女の子の持つ袋に入れる。


「こちらへ」


彼女の後をついていく。ついに来たか、喧嘩の街を牛耳る男との対戦が。工場に隣接している体育館へ。そして中には男が一人、奥でシャドーをしている。同い年くらいだろうか、糸目の男。俺に気が付きこちらへ。


「……さあやろうぜ」


タオルを投げ捨て喧嘩に誘ってくる。あまり語らず、寡黙なタイプかな。


「ああ」


構えて喧嘩が始まる。彼の構えは特に型がないな、何かを習っているというわけではなさそうだ。ジリジリと近づき相手の間合いに入ると大振りのパンチを放ってくる。轟音を放ちながら突き進む拳。内側に入りながらカウンターを放つがもう一方の手でこちらのパンチを受け止め、こちらの脚内側にロー、これを嫌い避けながら間合いを離す俺。すさまじい風切り音。


(なかなかやる)


強者を外したここの喧嘩好き住人と比べるとすべてが一段階以上は上の強さ。しかし強いがそこまで速くはない。当たればやばそうではあるが。このまま勝てそうだが、とても嫌な予感がする。数発お互い打ち合ううちにその予感は当たってしまう。俺の動きが完全に見えているようだ。まだ彼は本気を出していないな、男は構えを解き一度後方に下がる。


「やるな」


服を脱ぐ男、中にはインナー。これを脱ぎ床に放り投げる。ゴトンとボーリングの球を落としたような音がした。おいおいまさか。リストと靴下も放り投げると重量がある音がした。彼は高重量の重りを着け俺と戦っていた。となると動きが一気に変わるだろう。シャドーをする男、一段階どころか二段階はあがるか、このまま戦った場合負けるな、周りにギャラリーはいない、ここは仕掛けどころ。彼が能力者なら不利な徒手格闘はせず、能力者バトルに持ち込む。


「お互い本気を出そうじゃないか」

「これからそのつもりだが」

「そうじゃない、不思議な力を使うって話さ。実は俺も持っていてね」

「ほう」


あきらかに空気が変わる。知っている雰囲気だ。


「こういうやつか?」


男の手が光る、こちらにかざすとビーム弾が発射された。剣を生成しこれを弾き飛ばした。体育館の扉が吹き飛び破壊される。


「そうそうこれだ」


やはり能力者だったか。今のところどんな力かはわからないがそれはお互い様。


「なんでもありでやらないか、本気で構わないぞ、俺は不死身だから」

「そうか、ありがたい。俺はずっとこんな戦いを待っていたんだ」


嬉しそうに話しをする男。


「俺は平柳刃(ひらやなぎ じん)、アンタは?」

「今氏勇真だ」


お互い構える。ここからは能力者同士の戦い、剣は出しっぱなしにする。能力を使っておく、「動体視力だけはいい」の能力を発動。運動は基本苦手だったが動体視力だけは飛びぬけていたな、ゲームで鍛えられていたのかも。戦いにおいて見えるかどうかは重要、これでほぼ相手の動きを把握することができる。


「いくぞ!」


ジンが動く、体育館の床を激しく叩くような音が発生。


「!!」


速すぎる、一瞬で俺の近くまで。目は追いついているが体がついていかない、身体を動かし彼の攻撃を防ぐことが出来そうにない。


「もらった!」

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