第5話 違反

カイさんが紛れ込んでいたくらいだからな、その可能性は十分ある。


「それからこの円が必ずしも正確ではないというのは心にとどめておいてくれ」


気まぐれに今日は違う場所というのは考えられる。また新しい強者がたまたま入ってくるということもある。まあ、負けたらまたやり直すだけさ。地図と強者の写真をみて顔を覚える。実際に強者を確認後、街から出て組織の施設へ、車に乗り家に帰る。次の週末、また喧嘩の街に。


「最近よく来るね、楽しんでいるようだな、はい反射板タスキ」

「今日からはプレイヤーで」

「ええっ」


見合わせる門番の人、困ったなといった顔をしながら考え直した方がいいと彼らは俺を説得しようとする。正直見るからに弱そうだからね、反対の立場なら俺も止めているだろう。それでもとやる気をみせると仕方がないといった様子でバッジをくれた。名前を書かなくては、すぐに思いつかずペンが止まる。意外とゲームで名前を決めるとき悩むタイプ、特にこだわりがあるわけではないけど変な名前だけはつけないようにしなくてはと考えてしまう。名前を記入しバッジを胸元に。危ないと感じたらバッジを捨てて逃げるんだよとアドバイスをくれた、無理はするなよと優しい言葉を掛けられる、二人は俺のお父さんかな?


「気を付けろよ」


トンネルを抜け喧嘩の街に入る。見学の時とは空気が変わったように感じる、嫌いではない緊張感。


「喧嘩、やろうぜ」


早速声を掛けられる。細身で半笑い気味の男。


「あいつは弱狩りのヤスダだ」


弱そうなプレイヤーに仕掛けるという悪い意味で有名な人。とにかくバッジを10個集めてここのボスに挑戦して名を挙げたいという人間。


「いいよ」


バッジを地面に投げる、ヤスダもバッジを地面に、こうして喧嘩が始まる。走りかかってきて大振りのパンチ。懐に潜り込んであごの横っ面に掌底のカウンターを入れ脳を揺らし腕と衣服をつかんで投げる、背後を取りそのまま裸締め。ヤスダが俺の腕をタップし戦闘終了。


「いいぞ!」

「すっとした!」


観客から歓声がおこる、よほど人気がない人物だったんだな。呼吸を荒げている男。うむ、日頃から訓練しているから対一般人なら勝てる。怖いのは殴り合いだな、一発良いもの貰ってしまうと負ける可能性がある。殴り合いには応じず近づいて締め上げる戦法がよさそうだ。バッジを二つ拾いその場を去る。人気のないところへ移動、すると顔を隠した四人の男達に囲まれる。バッジもつけていない。


「バッジを置いていけ」

「ルールは一対一のはずだが」

「ばれなきゃいいのよ」


手段は選ばずとにかくボスと戦って名を上げたい奴らか、悪いことを考える奴らだ。いや、誰かが言えばすぐにばれそうだがな、喧嘩好きはプライドが高いから意外と広まらないのかも。とりあえずこの場を何とかしないとな。もちろん多対一の訓練も受けている。軽そうな男にタックルを仕掛け転がしその場から走って逃げる。


「待てっ」


追ってくる男達、思ったよりも遅いな、そういえば彼らからたばこのに臭いがしたから体力はないかも。逃げ切らないようゆっくり誘導、ビルとビルの狭い隙間に入っていく。ちらりと後方を確認、縦一列に追ってくる男達。くるりとひるがえし、先頭の男を攻撃、あっけなく崩れる、その勢いで二人目も蹴り倒す。やはりな、弱い。徒党を組むということは自信のなさの表れでもある。それでも弱すぎる、もう少し鍛えてから来ないと。


「ひっ」


劣勢に気が付き逃げようとする残りの二人。三人目に追いつき頭をつかみ顔を壁にたたきつけてボディブロー、その場に崩れ落ちる。焦って転ぶ四人目、わざわざ映画さながらに壁を登り回り込んでから仕留めた。俺は案外Sなのかもしれない。彼らのポケットには自分のものだと思われるバッジが入っていた。


「これはアンタの?」

「は、はい」


一応確認してから入手。一気に四個入手できたからボーナスステージだった。戦闘をしたらおなかが減ってきた、太陽は上、そろそろお昼か。安全地帯でホットスナックを食べ休憩。午後からまた喧嘩をして無事勝利、三つのバッジを入手した。袋を確認、現在合計八つか。そろそろ夕方、今日はこの辺にしておこう。夕食はステーキ、運動した後は肉が食べたくなる。ナイフでカット、肉汁滴るステーキをフォークで口まで運ぶ。ん~最高。目の前の店ではドネルケバブを作っている店員さん。食べ物は酒以外なら何でもあるなここ。


「酒は禁止にしている。退去を願おう」

「かてーこと言うなよ、ああっ!?」


持ち込んでこっそり酒を飲んでいた男が暴れようとしたところを一瞬にして取り押さえられた。ボランティアも腕自慢が多い。このように酒はトラブルの元ということで飲酒禁止となっている。20時か、寝るにはまだ早い、安全地帯のアミューズメント施設で暇つぶしするか。ビリヤードにダーツに卓球他にも色々。俺は映画を見ることに、ポップコーンを食べながら鑑賞して時間をつぶし、深夜になりサウナに入ってすっきりし寝袋を出して眠る。

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