勝利

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 ──勝利



 帝国議会議事堂に魔王軍の黒旗が翻っている。


 魔王軍は帝都ローランドでの勝利を宣言した。


 ローランドは今や陥落し、汎人類帝国軍は壊滅している。彼らにはもはや戦う力はなく、軍は離散して烏合の衆となり、各地に逃げ散った。


 首相のジャック・デュヴァルも、陸軍参謀総長のガムラン元帥も、首都ローランドで戦って、全員が戦死したのである。


 皇帝ルイ=オーギュストの行方は未だ不明だが、大した脅威ではない。


 こうして魔王軍は全ての敵を倒し、勝利したのだ。


「我々の勝利に」


「我々の勝利に!」


 王都バビロンでは大規模な戦勝祝賀会が開かれ、魔王ソロモンが杯を掲げた。


 しかし、彼は儀礼的な行事に参加したのみで、それ以上のことはせず、ただ執務室でカーミラを傍に置き、静かに過ごしていた。


「カーミラ。戦争は終わった」


「そうですね。陛下のご尽力のおかげです」


「いいや。私がしたのは大したことではない。成し遂げたのは皆の力だ」


 カーミラの言葉にソロモンは首を横に振る。


「これからは戦争ではなく、国を豊かにする内政に取り組まなければならない。我々の内部のパワーバランスはメアリーの文民派閥やジェルジンスキーの国家保安省派閥が力を増し、軍はこれまでより力を落とす」


 ソロモンは戦争が終われば軍の力は落ちると見ていた。


「軍はそのことに反発するだろう。再び内戦が勃発するかもしれないな……」


「私は何があろうと陛下とともにあります」


「ああ。助かる、カーミラ」



 こののちに内政にシフトした魔王国の中で軍は力を失っていき、そのことに反発した軍部のクーデター計画が国家保安省によって暴かれる。それによって将軍たちが拘束され、そのまま行方不明になった。


 ただカリグラ元帥は既に十分な政治的後ろ立てを得ていたため、彼は軍人から政治家に鞍替えし、生き延びたのだった。彼は統合参謀本部議長を退任したのちに産業大臣に任命されている。



 1726年から1748年まで続いた長い長い戦争は終わり、今は平和が芽を出している。



 それは夥しい死体の上に芽吹いたものだ。



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人類滅亡の日 ~魔王軍強すぎて勇者でもどうにもなりません!~ 第616特別情報大隊 @616SiB

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