It's nothing ~ 実は、ここにあるのですが…… ~

ぼんびゅくすもりー

現実と……俺の中のプラネタリウム


「…――資本主義も社会主義も共産主義も……理論ばかりが先走った卓上の空論。体現できなければ、体裁ばかりとりつくろった奴隷制になるよな……」


 都心では、なかなか観ることが叶わないおがめない満点の星空を視界に。

 むなしくなった俺は、自論を力説する。

 中学の時つき合って、違う高校に入ったところで自然消滅……最近、よりを戻した彼女の前である。

 意識しながら、さりげなくもニヒルに。


「不特定多数を通貨という名の数字でからめとって縛り。がんじがらめにして、大衆を思うように利用する使うための常套じょうとう手段だ」


 誰にも話したことのない内容だったが、自分の意見・考えを知って欲しかった。


頑張がんばる者・意欲のある者が成功し富めるチャンスを! 実力がある者が能力を発揮できる社会を! の資本主義だって、個々のスタートラインからして違う。権力者や金持ちが断然有利だ。成りあがれる奴なんて、ごく一部。成功したって、タカが知れてる。金がなかったら、まともな学校も出られない。生きていくだけでも苦慮する。うまくやらないと落ちぶれるのなんて、一瞬だ。いまの格差社会がそれを証明してる。世も末だぜ」


「貨幣経済と主義主張をいっしょくたに考えちゃだめでしょ。密接にからんではいるけど、大きな事業をこなすには、人材と物資が必要だもの。いまの構造は、そのへんまとめて動かす上で画期的な手段だったのよ。統治する者~王様~と商人の発想だよ。大発明じゃん」


「俺は、株式なんて嫌いだ」


 重箱の隅つつかれた意見されたので反論すると、彼女は真顔でこっちを見たあと。なぜか、にっこり笑った。

 なぜ、そこで笑う!? 

 永らく覚えることもなかった感覚だが、弱点をつかれる予感がした。


「投資は悪じゃないよ。たいていの人間は貯蓄感覚、金稼ぎ見返り目的だけど。企業への応援。福祉、援助でもある。もう役員も大衆もひっくるめた阿鼻叫喚にしか見えないけどねー。嫌なら手を出さなければいいだけの話。たかが百円かそこいらからので損したくらいで……」


 重ねて〝ぎょっ〟とした俺が、となりを凝視したそこで視線が出会い、彼女の言葉がたち消えた。

 俺が投資に手を出したことはもとより。失敗したことは、誰にも話してなかったはずだが……。


「……なんで、知ってるんだ?」


「どこの銘柄がいいか探り入れたでしょ? すすめたうちのひとつが大暴落した後で、そんな愚痴きかされちゃね……。ごめんね。あれはあたしも予測できなかった」


「おまえはあそこの証券、持ってないのか?」


「あの事業には興味ないもの。手を出してないよ。それで、いくら投資したの?」


「二万……」


「せこいねぇ」


「うるせぇやい」


「でもまぁ、あなたあんたらしい。初心者としては無難な額だ。まだ軽傷だし、投資はブランド選びとタイミングと覚悟がかなめ――捨てたつもりになって、長い目、見たら? 元がとれる保証まではできないけれど、あれはほどほどに持ち直すと思うよ?」


「もう足洗った」


「あほだね」


「ほっとけ」


切り替え速すぎる~ばかだ~とは思うけれど、その堅実さ、好きだよ」


 思いもしなかったタイミングの告白に、どきりとする。


「あたしは身内に破産者が出たから、なりたいものになれなかったけど。だからこそ、その堅実さは高得点!」


 それは重畳……じゃない!

 いかん。さっきのは恋愛的な〝好き〟ではないかもしれない。

 いいように振りまわされているぞ、しっかり舵をとれ、俺!


「〝夢は大きく〟といわれて育ったから、それ追いかけている時は必死になれても、ままならない社会情勢まのあたりにすると絶望しちゃいそうになったりする。けどさ…。ね、おぼえてる? ――〝サバイバルな古代が良かったとはかぎらない。失うものもあれば、そこに生みだされた幸運もある。資本の流れが生みだした技術、流れがあって、それも人が望んだ夢の実現化で。うまくコントロールできなくて、ぐっちゃぐちゃになってしまってるけど、むかしは救われなかったものが救われたり、娯楽芸術が栄えたり、観光楽しむゆとりができた〟って…――そう話してくれたよね? 〝泡沫の世界だから、ほどほどでいいんだ〟って。だから、社会情勢にのまれないうちは身近にある手がとどく小さな平和を享受大切にしよう?」


 そういえば、そんなことも言ったあったかな。青春していたな、俺。

 それにしても、こんな場面で自身の精神的な老いを思い知らされるとは……。

 学生時代若いころは、迷い悩み、憂いを抱えこみながらも、夢と希望で輝いているものだ。

 それも、そこそこ平穏だったからこそで……恵まれてたんだな、俺。


「…けどさ、やっぱり。約束のものは欲しいかな?」


 俺、なにかこいつと約束したっけ?


「約束したよね、プラネタリウム……。〝俺の中のプラネタリウム。めくるめくような異世界ものがたり、見せてくれる〟って。現実に盗まれたとか融けたとかめたとか言ってるけど、まだ書いてるんでしょう? どこのサイトで、どんな名前かなぁ?」


 うう、それは嬉しいんだが恥ずかしいし怖い。

 だからまだ、It's nothing……

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It's nothing ~ 実は、ここにあるのですが…… ~ ぼんびゅくすもりー @Bom_mori

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