遠い瞳

@Fururu1

 最初に目が合った時、彼女の瞳は私という存在を透かして見ていた。その全てを見通すようでいながらも何も示してこない、その無表情無関心無興味に私は何かを感じてしまった。彼女は他人の感情を意に介さない。私もその他人の一人に過ぎないとは分かっていた。けれど、その私はその瞳に抗うことはできなかった。私がどんな視線、表情、ジェスチャーを送ろうと、彼女はただ遠くを見ている。そんな彼女に言葉をかけ続けた。蛍光灯に引き寄せられる蛾のように。好きな曲、漫画、小説、普段何をしているのか、SNSはやっていないのか。どんな事でも、些細な事でもいいから彼女を知って近づきたかった。しかし、返ってくるのは端的で短い返答。彼女の無関心に私は何度も心を傷つけた。こんなにも近づきたいと願っているのに、なぜ叶わないのか。それでも諦められなかった。彼女が好きだ。心が動かないのは分かっている。それでも、何かを期待してしまう自分にため息がつく。


 季節は巡り、気づけば卒業式当日。この期に及んでまだあがこうとする私は、校門から帰ろうとする彼女を引き留めた。その時は焦り、何と話したのかは覚えていなかったが結局彼女の心を揺さぶるには至らなかった。半分予想していたので逆に落ち着く私。そして姿勢良く立つ彼女の立ち姿を見て、俯く。


「私は、あなたの想いには答えられない」


 分かっていた。分かっていたのに、僅かに残っていた希望がずたずたに引き裂かれる。まぶたが熱く、頭が重く感じる。彼女は続けた。


「でも、この三年間は貴方のおかげで退屈はしなかった。ありがとう」


 予期しない言葉に彼女の瞳を見つめてしまう。彼女の心が響かなくとも、彼女の中に確実に私は存在したのだ。その事実は、私にとって十分すぎるほどの報酬であった。思わず天を仰ぐ。卒業式の空は晴れていて、風が私の涙を乾かしてくれた。


 ありがとう、藤堂さん。あなたは特別だった。

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