第2話 蜘蛛の夢
仔細は忘れたが、蜘蛛の夢を見た。その日、僕は二匹の蜘蛛を家の中で見つけ、殺した。
次の日、少し昨日より少し大きめで半透明な、小指の先くらいの蜘蛛が壁を上っていた。クリーム色の壁の上をじりじり足を動かすそれは、夢のそれによく似ていた。こいつだったかと思った。ティッシュを何枚も重ねて、殺した。
多分、季節柄だと思う。卵が孵ったとか、もしくは窓の隙間から団体で来たのかもしれない。昔は蜘蛛一匹すら殺せなかったが、今となっては容易いものだ。
だが蜘蛛の夢を見たのは、まだ不思議だ。蜘蛛の夢を見る前、私は何か月にも亘って蜘蛛など、少なくとも家の中では見かけなかった。コバエは見た。夏の間、何回か見た。
私は時々、明晰夢を見る。予知夢に似たものも見ているのかもしれない。だが気のせいかもしれない。たまたま蜘蛛の事象が重なったか、もしくは危機察知能力の賜物かもしれない。
昔から、勘は鋭かったように思う。人の感情は大体わかる。オカルトは信じていない。出来るだけ科学的に片付けるのがよろしいだろうと思う。
もう蜘蛛は見たくない。元来、蜘蛛など夢でも嫌だった。起きた瞬間はもちろん、夢の中でさえ、嫌な気持ちにがんじがらめに縛られていた。このところ多い悪夢も、蜘蛛なんか出てきて欲しくは無かった。
明日は蜘蛛を見るだろうか。この部屋にはまだ、蜘蛛が居るんだろうか。いるとしたら、どこをどう歩いて、私の見る視界まで、その長くて細くて関節ばっていて、折れそうで、絡まりそうで、八本もある、糸で器用に飛び回るそれで、歩いて来たんだろうか。仲間は居るだろうか。視界の隅でチラつくこれは、私の気のせいだろうか。強迫観念だろうか。
蜘蛛は苦手だ。夢は見たくない。
即興小説 ささまる/齋藤あたる @sasamar
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