第7話で描かれた静謐な情景に、恋愛の全てが集約されているように思う。
何をどうすればたった4行でこんな広がりのある情景を描けるのか。
イメージを喚起する言葉選びが本当に見事。
「でんぷん工場の匂い」なんて、自分の人生の中にでんぷん工場があったとしてもなかったとしても4行の中に書ける気がしない。
しかしそれが冒頭の牧歌的な芝生の景色に途方もないリアリティを与え、自分が郊外のその街のことも彼女のことも知り尽くしているような気にさせてくれる。
そこからの彼女の鼻声、セリフの内容、最後の1行、何もかもが完璧。
日常の断片を切り取ったような話が続く中でこの7話と9話がアクセントになり、3行しかない10話で締める構成も巧みすぎる。
行間で魅せる技術の塊のようなテクニカルな作品でありながら、その根底には確固たる「描くべきもの」が感じられる。おそらくは描くべきものがあるからこそ、どれだけ描写を削っても小説の強度が失われないのだろう。
全体で400字詰め原稿用紙2枚ぶん。1分で読める。今すぐ読むべし。
そして2回目はじっくりと行間を味わって読みたい、そんな小説。