知能777の男と一人の召喚士

岡本蒼

序章


 謎の竜騎士は天空に両手をかざすと渾身の一撃を込め、究極魔光弾を目の前の男へと放った。

海瑠かいり、危ない!」

 次の瞬間、彼女は身を挺して澄田海瑠すみだかいりの身をかばった。

 凄まじい爆裂音と共に、海瑠と彼女、左内エルはその場からぶっ飛ばされた。

 海斗は手足に擦過傷を追いながらも、意識を失ったエルの体をそっと抱き起こした。

「エル、エルー!」


 しかし、竜騎士は容赦なく二撃、三撃と魔光弾を放ち、辺りの流紋岩を打ち砕く。


 竜騎士はとどめの一撃を放とうと天に両腕を突き上げて全身の魔力を結集させた。

「これで終わりにしてやる!」

 そして両手を勢いよく振りかざした。


 それで全てが終わるはずだった。


 次の瞬間、辺りは眩い光に包まれた。

 そして海瑠は静寂の闇の中で一人佇んでいた。


「何なんだ、一体どうなってるんだ?」

 海瑠は呆然として右膝をかがめた。

 しばらくして……


 暗闇の中に白く輝く霧のようなふやけた物体が徐々に大きくなり、やがてそこから    薄っすらと人影が現れてきた。


「海瑠さん、もうあなたは助かりました」

 それは長いよろよろの白髪頭、地に着くかのような顎髭あごひげを生やした老人だった。

「一体、あなたは何者だ?」

「私は死者を天界へ導く先導者。渡利わたりと申します」

「先導者?」

 突然のことに海瑠は現状を理解できるはずがない。


「結論から言います。あなたは助かりましたが、エルさんは天界へと導かれます」

「な、何わけの分かんねーこと言ってんだよ。エルはどこだ、どこにいる!」

 海瑠は辺りを見回してエルの姿を求めた。


「よく聞いてください。エルさんは究極魔光弾を体全身に受けました。それは『死』を意味します」

「一体どうすればエルは助かるんだよ!」

「エルさんを助けたいですか?」

「ああ、勿論だ」

「では一つ私と契約しませんか?」

「どんなことだ?」

「あなたの力で暗黒の竜騎士団を壊滅させること」

「竜騎士団?」

「奴らは今や天界をも破滅させようと力を蓄えています。竜騎士団は大きく分けて3団軍の組織がります。

 それは――


 『迅速の魂を司る 赤き竜騎士団』

 『記憶の魂を司る 青き竜騎士団』

 『時を司る 緑き竜騎士団』


 奴らは聖竜の力を宿すアダマントしている。

 その3つ団を統括するのが『謎の帝王騎士』


 ――ということです」


「僕にそいつらを討伐せよと言うのか?」

「はい、さすればエルさんの命は助かります」

「つまり剣を持てと?」

「やり方はあなた次第です」

 海瑠は天才建築士として名が通っており、頭からキャップを被る姿だけは賢そうだ。だが、彼は他から見れば背丈や体格もちょっとした子供のようで、剣術や武芸の才能があるようには到底見えない。それに鈍い動きがその思いを倍増させる。きっと武具を持たせばどこの旅の端くれ者かも分からないだろう。


 だが彼は幼少のころから些細ささいな遊びでも頭の中で詳細な設計図を描きあげ、1ミリも狂わすことなく事を済ますという天才肌の持ち主だった。他の奴らが剣や魔法なら、海瑠の武器はその研ぎ澄まされた知能なのである。


 海瑠にとってエルは自分の体の一部のように一体化した存在だ。一緒に歩いているとエルが何メートル先でどこに曲がるかということも察知できる。それは彼女のことを知り尽くしている証だった。


「騎士団を壊滅させればいいのだな。そしたらエルは生き返るんだろ?」

「はい。しかしタイムリミットがあります。今日は帝国歴776年7月6日。1年後の777年7月7日の午前零時までに使命を果たさなければ、エルさんは天界の門を潜ることになり、更にあなたの記憶の中にあるエルさんも消えます」

「分かった。やってやろうじゃないか」

「契約成立です。私を呼びたくなったらこの龍笛りゅうてきを吹いてください。ですが必ず現れるという保証はありませんので悪しからず」

「あなたの名前は確か……」

渡利わたりです……明日7月7日の午後10時00分に私の方から海瑠さんに会いにお伺いします」

「分かった」

「それまでに旅の準備を終えてください」



 ――そして目覚めると、それは夢だったのか?

 海瑠はベッドの側にある机上に置かれた一枚の紙切れを見た。それには……


 『天界導き人 渡利天心』


 と掛かれていた。

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